第9話 別れ
私はT枝さんと知り合って、そして男女の関係になって、お互いの気持ちを言葉にすることは少なかったが、何となく考えていることが分かる気がした。
ある日、学校での昼休み。
昼飯を済ませて会議室で昼寝をするのが、私の学部仲間の習慣になっていた。
その部屋へT枝さんがゆっくりと入ってきて、周りの人達に気付かれない様に、私の肩を軽く叩いて起こした。
そして、私は椅子に座ったままの上を見上げる姿勢になり、T枝さんは立ったままで上から被せるように二人は口づけをした。
時間にするとほんの数秒であろうが、私にはそれが永遠の時間に感じた。
そして、周りには同級生がいるという状況下での行為が、無性に興奮をさせ私の本能を掻き立てたのである。
彼女もそんなスリルを楽しんでいるように感じて、時間があれば学校でもお互いを求め合った。
その当時はT枝さんと毎晩のように会い、肌を合わせて寄り添うようになっていた。
そんな関係だけでもいいかと思った時期もあった。
でも、私から付き合って欲しいと意思表示をしたこともあったが、T枝さんは私の言葉を誤魔化すようにして、その答えを出さない態度をするのであった。
今、思えば彼女が素直になれない理由があり、そしてその答えを聞く時が来たのだ・・・
『元彼と再会した同じ時期に私の前に突然現れたの…』
『TETSUO君と言う人が…』
『こんな私でも気に入ってくれて、初めて買い物に出かけた日に、私の過去のことを全て打ち明けて、そして私の全てを知って欲しかった!』
あの日の夜のことは酔った勢いではあったが、私に対するT枝さんの本当の気持ちを知った。
『でも過去の全てを打ち明ける勇気が無くて、私が好きと言う本心を言うことも出来ずに、今まで都合の良い関係を保とうとしていたの・・・』
『でも今日で・・・別れることになるのね』
それがT枝さんの本心なのか?
私はT枝さんと別れることを決めて来たつもりだった。
なのに彼女の本心を聞いて私の気持ちは揺らいだ。
自分の気持ちに正直になれば彼女と別れたくはない!
でも、彼女の過去を全て受け入れるだけの、包容力が果たして今の私にはあるのだろうかと?
『でも私は元彼と寄りを戻すことにするわ!』
『その方が私らしく居られると分かったの』
『私の失った大切な命の為にもね』
彼女はいつもの様に気丈な雰囲気に戻った。
『それを教えてくれたのはTETSUO君なの!
だからこの出会いは無意味なものじゃなかったと思ってる』
彼女は既に答えを心に決めていた!
そして彼女の本心を引き出したのは私であった。
薄暗い車中で彼女は眼を閉じて、まるで瞑想をしているかのような姿勢になり、黙って私の答えを待っているようだった。
私は彼女と初めて行った海水浴からの記憶が、走馬燈のように頭の中を駆け巡った。
この半年間でT枝さんのことを想い、眠れない夜を過ごしたこともある。
そして、心が苦しく辛い時間を沢山経験したが、目の前に居るT枝さんのことだけを
一途に愛し続けた自分が何故か嬉しく思えた!
『今までありがとうT枝さん・・・さようなら』
翌日も彼女と顔を合わせる立場ではあったが、私と彼女の関係はこれで終わりを迎えた。
だから心の中のT枝さんとだけ別れを告げたのだ。
いつも私の心中には
彼女の為になること!
彼女の意見を尊重すること!
そして何よりも
彼女の幸せを優先したいと願い続けていた!!!
TETSUO
人生で初めて心から愛した人だった!!!
終
〖真実の愛〗エピソード①~T枝さんとの初恋編~ YUTAKA @TETSUO7
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