第6話 忠告

学生生活にも慣れて来きたある日、皆で親睦と言う名の飲み会を開くことになった。

週末の金曜日に居酒屋で集まり、サークル仲間など40名ほどがその会に参加をした。


私は未成年でお酒が飲めなかったが、楽しみにしていたのは揚げ物が中心の料理だっだ。

皆はお酒を飲みながら会談を楽しんでいて、仲のいいグループで幾つかの集団が出来ていた。


私はと言うと団体行動が苦手で、グループの中へ積極的に入っていくタイプでは無かった。

周りの皆もそれぞれのグループに交じって、馬鹿話しで盛り上がっていた。

勿論T枝さんもその飲み会には参加していたのだ。


そして、私が一人で料理を食べていると、同級生のE子が私の隣に移動して来た。

彼女は同じサークル仲間であり、気兼ねなく話せるタイプの女性であった。

どちらかと言うと彼女は同性のように心を許せる感じであり、そして彼女は物事をフランクに発言するタイプであった。


『T枝さんと付き合うのは止めた方が良いよ!』

E子は全てを見透かしたように私に忠告をした。


『なんでE子はそう思うの?』

私はとりあえずE子の意見を聞いてみようと思った。


『あんたも鈍感じゃないから分かるよね?T枝さんはアンタには似合わないから!』

少し抽象的に言葉を表現したE子。


『俺が好きなんだからそれでイイんだよ』

私が答えるとE子は、そこから思ったことをストレートに告げ始めた。


『その首についてるキスマークがアンタは嬉しいの?アンタは彼女と付き合ってないのに?そういうことが平気で出来る女性ってどうなの!?』

確かにT枝さんはそう言う行為を好んでしていた。


『自分の彼氏ならともかくT枝さんとアンタの関係って何?ただアンタを自分の所有物みたいにマーキングしているの?』

客観的なE子から正論の意見だった。


でも、自分が好きな人からされて嫌いな行為だとは思っていなかった。

好きな人から独占されることに嫌な思いをする人が居るだろうか?


『女性目線だとそう思うんだ』

私はE子の話しを肯定も否定もしない答え方をした。


『今のアンタに何を言っても通用しないだろうけど、最後は自分自身で決めることだから友達としての忠告だよ』

E子は少し興奮気味に話をしてきた。


正直、こういう忠告をしてくれるのは異性が多いかもしれない。

私が中学生の時に学級委員をしていた当時、E子のような正論の女性が居て忠告をしてくれた記憶が蘇った。

それは友達だから大切に思ってくれる証しなんだと。


『ありがとう!自分自身のことだから真剣に考えるよ』

ハッキリ物事を言ってくれたE子には感謝した。

でも当時の私の決心が堅かった。

どんな結末であろうとT枝さんとは別れない。

それが恋愛に溺れた人間の生末なんだろうと自覚はしていたのだ。


『緩急剛柔(かんきゅうごうじゅう)』と言う四文字熟語がある。

意味は状況に合わせて適切に対処することであるが、私はいつも『柔』の姿勢で『剛』の相手と向き合う傾向にある。

これは性格の問題だろうが、私は『剛』になれない性分なんだろう。

そしていつも『剛』の人には流される性格でもあった。


緩急を持って忠告を聞くべきなのに、冷静な判断が出来なくなっている自分が居たのも事実であった。

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