第7話 魔性

『元気そうだな~TETSUO君!!!』

それは専門学校の『K教員』からの言葉だった。

K教員は私の父親より年下の40台後半ではあったが、落ち着きを持った父親のような存在でもあった。


『私よりもお疲れじゃないですか?』

私は笑いながら椅子に座っているK教員の肩を揉み始めた。


私は18歳だったが同級生と馬鹿みたいに盛り上がることが苦手で、どちらかと言えば一人でいることが好きなタイプであった。


そして、社会情勢に関する会話をすることが好きで、ジャーナリズムなどのジャンルも好きだった。

詳しく言えば世界の紛争や日本の政治に関して、自分なりの意見を他人とディスカッションすることだ。


K教員もそんなジャンルが好きで、そして善悪の考え方と物事を自論で導き出し、

納得できる考えを持っている人物であった。


私が所属するサークルにもK教員はよく顔を出されて、その場所には明るい笑顔でK職員と会話をするT枝さんの姿もあった。


しかし、K教員もT枝さんと肉体関係にあったのだ。

K教員は既婚者であり子供も居た。

私とT枝さんとの関係をK教員が知ると


『頼むから私の家族にはT枝さんとの関係を言わないで欲しい』

自分の保身だけを望むK職員の姿が寂しく私には映った。


勿論、その事実を私が家族へ密告するつもりもなかった。

そして今まで私が描いていたK教員の理想像が、もろくも崩れ落ちていくのが分かった。


『T枝さんとの関係は酔った勢いでの過ちなんだ』

K教員は説明を始めたが、T枝さんの気持ちを第一に考えていないK教員の言動が憎悪へと変わった。


何故なら私の中には過ちなんか存在しないからだ。

いつでも心身一体なんだと思っていて、T枝さんのことを軽視しているK教員が許せないのだ。


『信じてもらえないが、関係を迫って来たのはT枝さんからなんだ』

K教員は弁解を続けた。

先日のH先輩との一件もあり問題の原因は『T枝さん本人』にあるのだと気付き始めたのだ。


『魔性の女』と言う言葉があるが、実際にそんな女性が存在するのだろうか?

もしT枝さんが魔性の女であるのならば、私は彼女の呪縛から目覚めなければいけない日がくるのである。

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