第5話 彼氏

私の休日は愛車の洗車から始まる。

数年前から始めたアルバイトのお金を貯めて、念願の赤いスポーツカーを手に入れた。

その日も天気が良い洗車日和で、朝から汗だくになりながら愛車をピカピカに磨いた。

そして、洗車が終わると軽くドライブをしたのだ。


T枝さんとは平日にしか会っていなかった。

彼女の休日は『週末彼氏』の時間なのだから。

そして私は片側二車線の道路を走行していると、追越車線から白いスポーツカーが私を抜き去った。

それは私と色違いの同じ車種で、しかもエアロなどの装備がよく似ていたのだ。


赤信号で停車したその白い車の横に私も横並びに停車して、信号機が青色に変わると、合わせたように二台の車が同時に発進をした。

車の性能は同じだから、どちらが早く走る訳でもなく、その二台は二車線の道を北上するように走った。

前方に低速度の車がいると、どちらかが車線を譲ってジグザグになりながら周りの車を追い抜いたのだ。


暫くそんな状況を楽しみながらドライブをしていると、前方に見覚えのある『傘のステッカー』を貼りつけた車両を発見した。

それは紛れもなくT枝さんの愛車だと一目で分かった。


私は減速をしながら走行車線を走るT枝さんの車を抜き、運転席に座るT枝さんを見ることができた。

そして、助手席には窓を全開に開けてタバコを吹かす『週末彼氏』の姿があった。


二人は仲良く前方を見つめながら、会話をしているように見えたのだ。

彼女の車両と同じ速度で走る私にT枝さんは気づき、少し慌てたような表情で彼女は何でもない交差点を左へと曲がって行った。


真実というのは自分の目で見たものが全てであり、これを『百聞は一見に如かず』と言うのだろうか?

私はその二人の姿を見て心臓が張り裂けそうになった。

私はT枝さんのことを愛しているのだと、改めて実感した瞬間だった。


私はもう一度だけ週末彼氏の顔を見たくなり、知らぬ間に彼女の車より先廻りをするように走行をしていた。

それは自分でも抑えきれない衝動だった。


『合ってどうなる?』『話をして何かなるのか?』

いろいろな考えが頭の中で巡り、自分がどうしていいのか答えは出てこなかった。

しかし、その後にT枝さんの車両に会うことは無く、T枝さんとは翌日に学校で会うことになった。


『彼は運転免許を持ってないから私が迎えに行くのよ』

彼女から昨日の説明を簡単に聞いた。

彼氏の存在は知っていたし、私はそれを承知で彼女と会っている。

だから、その事実に関して彼女に何も言うことはない。


ただ私の気持ちの整理が出来ないでいる自分自身に苛立ちを感じていたのであろう。

そして、T枝さんへの想いは益々深まるばかりで・・・


『どうして良いか分からない自分がそこには居た』

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