第4話 裏切
授業が終わると私は親しい『H先輩』の部屋を訪れた。
恋愛の相談を同級生にするのは恥ずかしいこともあり、ここは経験豊富で信頼のできる先輩が適任だと思ったからだ。
H先輩はO先輩の同級生で、T枝さんのことも昔から知っている間柄だ。
『いろいろと噂話は聞いてるよ』
O先輩とT枝さんの成り行きは知っているようだった。
だから私とT枝さんの関係について成り行きを相談したのである。
『TETSUOの気持ちは分かったけど諦められないの?』
H先輩は優しく私に投げかけてくれた。
『今は好きな気持ちが大きくて、T枝さんを直ぐには忘れられない』
私は素直な気持ちをH先輩へ話しをした。
H先輩は同級生の女性と同棲をしていた。
今日、彼女は出掛けていたので、彼女が帰ってくるまで
私の話しを聞いて貰うことにした。
そして、お互いの意見を話し合い答えは出なかったが、それでも私の心は少し穏やかになった。
『話しを聞いて貰ってありがとうございます』
私はH先輩へお礼を告げて帰る準備をした。
『人生経験だし恋愛もいろいろあるから』
H先輩に励まされてその日は帰った。
そして翌日以降もH先輩は何かにつけて私に気を遣ってくれ、心が救われる気持ちになったのは間違いない。
私の心が弱くて感傷的になった時でも、H先輩は黙って話しを聞いてくれたことが凄く嬉しかった。
『ねえ!今日も空いてるなら付き合ってくれない?』
授業が終わるとT枝さんからお誘いがあった。
私は一人になる時間が怖くてT枝さんからの誘いを断ることが出来ず、ただただ彼女に流されて行ったのであろう。
『じゃあいつもの場所で待ってるから』
O先輩との肉体関係をT枝さんはアッサリ認めたが、私は何事もなかったかのように彼女と待ち合わせをした。
そのことを私が追及できる立場でもないし、今はT枝さんの彼氏でも何でもない存在なのだから。
『TETSUO君、待った?』
その当時の私の心境はこうだった。
私がT枝さんの時間を独占すれば、他の男と一緒に合う機会が減少するという浅はかな考えであった。
今日という日を基準に考えれば、全ての事実は『過去』なのだと。
そうやって自分の恋愛感情を、屈折させながら納得していたのかもしれない。
『今、来たところだから(笑)』
私の中でT枝さんの存在は、大きくなるばかりである。
私が彼女の心を独占できないが、彼女の時間を独占することは出来たからだ。
そして、彼女も私とのそんな関係を、肯定しているように思えたのである。
愛とか恋とかの形ではなくても、そんな形が存在してもいいのでは無いかと思い始めた自分。
今では想像できないが、当時はそれを納得していく自分がそこには居たのである。
そして、私の心境を聞いてくれるH先輩がいて、私は少しずつ心の整理をしながら自分を見つめ直していた。
でもT枝さんと肉体関係を持った相手は・・・
『相談相手のH先輩にもあると、その後に聞かされたのである』
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