第3話 真実

O先輩とT枝さんが教室の片隅で楽しそうに会話をしている。

O先輩とはT枝さんの同級生であり、男気があって後輩からは頼られる人物であった。

そして、私もO先輩には一目を置いている存在だったのだ。


『だってO君ったら強引なんだもん』

T枝さんはそう笑いながらO先輩の両手を掴み、楽しそうに会話をしている様子が伺えた。

その光景を見て、私の心中は穏やかではいられない。


あの買い物での一件で、すっかりT枝さんを意識している私。

それをT枝さんは知ってか知らずか、普段通り周りに明るく振る舞うT枝さんの姿がそこにはあった。


人間の独占欲と言うのは、大なり小なり誰にでもあるのであろう。

自分のことは自分で判断が出来ないが、私はかなり独占欲が強く嫉妬深い性格で、そしてストーカー性が芽生えてもおかしくないと自覚はしていた。


ただT枝さんには『週末だけの彼氏』が今でも居て、平日は暇を持て余しているから、もう何度か私と買い物デートをしていたのである。

そして決まって帰りの車中で、彼女とは大人の挨拶を交わしていたのだ。


ある日の夜、T枝さんから連絡があり迎えに来て欲しいとのこと。

彼女の指定する駅へ迎えに行くと、彼女は泥酔した状態だった。

そして、彼女は私の車に乗り込むと、いきなり私に抱き着いてこう言った


『抱いて欲しいの・・・』


私が憧れの彼女から誘われて断る理由はあるはずもない。

彼女に言われるがまま、二人はその夜に初めて結ばれた。


しかし、どう言う心境で彼女が私に迫ったのか理由を聞くことも無かった。

彼女は私の人生で初めての相手であったが、私を誘った理由などどうでもいいと思っていたのだ。


『TETSUO君、今夜も空いてる?』

それからと言うもの、彼女から誘われるがまま、私は彼女の週末彼氏を意識することもあったが、女性として彼女の魅力に溺れていったのである。


『いつでも空いてますから大丈夫ですよ(笑)』

好きな人と一緒に居ると楽しいとか恋しいとか、そんな恋愛感情が芽生えるものだと思っていた。

しかし、私がT枝さんと一緒に居ると虚しさが心を支配することが多かった。


それは彼女には好きな彼氏が居るという真実と、そして私の存在をどう思っているか聞かされていないからだ。

初めは一緒にいるだけで多くを望まないつもりでいた。

だが、私にも人並みの恋愛感情が芽生えて来たのであろう。


もしも願いが叶うなら、彼女も私と同じ気持ちでいて欲しい。

そして二人だけの純愛な関係になりたいと望んだのだ。

でも、その願いは簡単に打ち砕かれる日が訪れるのである。


ある日の午後に同級生たちが噂話をしていた。

『O先輩とT枝さんがホテルへ行った噂』である。


私は鈍感であったが、O先輩とならその状況はあり得るであろうとも思った。

何故ならお互いがお似合いのカップルに見えるからだ。

その真実を突きつけられると私の胸は張り裂けそうになった。


でも、私の心の中ではどういう真実であっても、何故かT枝さんと別れたくないと思う気持ちが一番勝っていたのである。


その日の夜もT枝さんとディナーへ出掛け、そして彼女から真実を聞くことになる。


『O君との噂話しは・・・真実よ』

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