第2話 キス

私の平日は平穏な日々だった。

下宿先の寮には先輩10人ほどが居て、みな地方から来た人ばかりだったが、優しい先輩に恵まれて学生生活を送っていた。

私は率先して買い物係を担当して、先輩や皆の買い出しをしていた。


『メモの食料ヨロシクね!』

みなから渡された買い物メモを持って、近所のコンビニなどへ買い出しに出掛けた。

私は初めて家を出る機会でもあり、少しホームシックになったこともあったが、周りの人達と居ると家族のように感じられるようになった。


そして時間があると先輩から教えてもらった麻雀を打っていた。

私はルールすら知らなかったが先輩から教えてもらい、実践で『授業料』を払いながら麻雀を覚えていった。


そんなある日の夕方

『買い物に付き合ってくれない?』


T枝さんからのお誘いがあり、彼女と二人だけで買い物へ出掛ける機会が出来たのだ。

彼女の目的は普段着を買うことであり、その付き添いをしてくれるパートナーが欲しかったようだ。


『今日はお付き合いヨロシクね♪』

海水浴以来、T枝さんを女性として意識していた私がそこに居た。


『自分で良ければいつでも付き合いますよ!』

そして、荷物持ちでも何でもいいから一緒に居るだけで楽しいとも思った。


買い物中の彼女は男性用の洋服を見ながら

『これってTETSUOさんに似合いそうな服ね♪』

ちょっと派手めな服を片手で持ちながら私に見せた。


『じゃあ、俺この服を買うことにするよ(笑)』

私はT枝さんに言われるがまま、自分の趣向とは違うその服を購入したのだ。

優柔不断な性格の私は、好きな人の趣味には同調してしまうと自分で思った瞬間だった。


そして買い物を終えて帰りの車中では

『T枝さん普段は何をしてますか?』

在り来たりの質問をしている自分が居た。


『平日はお酒を飲んで寝るだけです』

T枝さんから少し寂しげな返事がきた。


彼女は私より2歳年上の20歳であった。

平日は彼氏と合わず一人酒を楽しむ生活のようであった。


『じゃあ帰りにお酒でも買って帰ります?』

私から提案をして近くのリカーショップへ立ち寄った。


彼女は専らビール派のようだった。

女性と言うのはカクテルとかチューハイを飲むのだと、勝手な偏見を私は持っていた。

私がハンドルキーパーなので彼女は先ほど買ったビールを開けて、助手席でそれを飲み始めたのである。

普段は一人で飲んでいるらしく、彼女も一人暮らしで寂しい思いをしていることだろう。


『TETSUOさんは私の事をどう思ってるの?』

少し酔った彼女は私に尋ねた。


『魅力的な女性だと前から思ってました』

少し緊張気味ではあったが思ったことを素直に答えた。

そして彼女を送る帰路には、大きな川を見晴らせるゴミ焼却場があった。

私は二人の時間が欲しくて、焼却場の薄暗い駐車場で車を停めた。


『私みたいな年上でも魅力がある?』

先ほどの私の答えを、もう一度確かめるようにT枝さんは聞いてきた。


『T枝さんとならお付き合いがしたいです』

私は自分の本心を彼女へ伝えてみた。


『本当に?私みたいな年上でも後悔しない?』

二本目のビールを既に空けた彼女から、念を押されるような答えが返って来た。


『自分は女性経験が無いけど・・・T枝さんとなら・・・』

その問いに私が答えようと口を開くと突然、彼女から私に口づけをされた。


遠くどこかの工場から漏れている灯りに、彼女の横顔が照らされて見えた。

私の人生で二人目となる口づけの相手であったが、意外と私は冷静であると気付いていた。


でも、彼女との口づけは想像以上に濃厚で、そして憧れだった相手だけに私は興奮を抑えられなかったことを今でも覚えている。

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