第18話 似た者同士

―決勝戦が始まる。


選手控え室から出て、スタート台へと進む。

独特の緊張感に背筋が震える。


―遂に決勝。


華々しく優勝を飾って、これからの

ドラゴンライダー生活の勢いにしたい。

そして、フィンと共に駆け上がって行くんだ。


―その最大の障害がスタートラインにいた。


クレアと白竜のヴィー。

とんでもない竜気を持つ強敵。

そして、フィンがケンカを売った相手。


フィンがわざと真ん中にいたヴィーの隣に

並ぶ。割り込んだ訳じゃなく、

他のドラゴンライダー達から

一目置かれているようで、クレアとヴィーの両隣が空いていただけなんだが、

早くも波乱の予感がする。


多分クレアが何か言ってくるかも?

フィン。落ち着いてな?


そう思ったんだけど、

クレアはこちらにペコリとお辞儀をしただけで、スタートに集中し始めた。


―あれ?


その変わりと言ってはなんだが、

ヴィーが身体をぶつけて来るのだ。

とんでもない闘志を当てられる。


―やっぱりイメージにズレがある。


どうなってるのかは分からないが、

視線でフィンに注意される。

そろそろスタートだ。

ひとまず疑問は置いておこう。



◆◆◆



私はエルロ・アスペラトゥス。17歳。

最近人生について考えてます。

ごくごく平凡な人生。

山もなく、谷もなく一生を終える。

フィンのように挑戦する訳でなし、

大した才能も持ち合わせない。

そんな風に考えていました。

フィンの幸せさえあれば満足な人生。

でもイグニさんが来てから脱線しまくりな気がしています。

今では、救護院のマーサさんの元で何故か調教師テイマーの真似事をしています。

何故でしょうか?


「はろ~ネア。ノエルもお久~。中々興味深い子達ね~」

筋骨隆々ですね。

日に焼けた顔と刈り上げられた短髪。

身長はかなり高い。

だけど雰囲気は女性そのものみたいです。

「アプサットか?久しぶりだな」

ネアとノエルさんの知り合いみたいですね。挨拶しましょう。

「初めまして。エルロ・アスペラトゥスと申します。フィンの姉になります」

イグニさんのせいで、動じない精神を身に着けたようですね。

女性のような男性。このような些事。

問題でも何でもありません。

「あら!ご丁寧にどうも!ウインドミル学園教師のアプサット・ナブエイドよ。今日はスカウトがてら遊びに来たのよ。よろしくねぇん」

教師?大丈夫。動じません。

「ふぅん?アスペラトゥスさん。ね?」

「はい。妹共々、そのアスペラトゥスで間違いありませんよ?」

アプサットさんが少し驚いたようだ。

ノエルさんの地竜がすり寄って来たので鼻先を掻いて上げた。大人しい良い子です。

「あらあら?その子ノエルのスクォークで間違いない?」

「ええ。ノエルさんの地竜の『スクォーク』で間違いありませんけど?とうかしましたか?」

私はノエルさんの顔を見たが、

困った顔をしていました。

「私のスクは手懐けられてしまった。ビックリしてる所」

何でしょう?動じませんよ?

「エルロ。赤色の地竜は気性がとても荒い。ノエルのは特にだ」

ネアはそう言ってますが、あなたはとても大人しい子ですよ?

こんな良い子に失礼ですよ。

「今、マーサの所に研修に行ってるんだが、ベタ褒めだったな。正直驚いてる」

「あらっ!あなたがマーサの手紙にあった『後継者』で『魔獣殺し』なのねぇん!」


―後継者!?魔獣殺し!?


「強力な結界魔法の使い手でもある」


ちょっとノエルさん!結界魔法は独学で褒められたモノでは無いのですよ?

何だか私褒められていますか?

こう言うのには馴れてなくて!

いやいや、動じませんよ?


「あなた。ドラゴンライダーのために生まれて来たような存在よ!10年に1人の逸材よ!素晴らしいわ!」


―10年…?


―何でしょうその微妙な数字?


―褒めるのならもっと心をくすぐる様に褒めて欲しかった。



◆◆◆



―イグニ!スタートからダッシュするよ!

クレアは前に出したくない!


―了解!抑え込む戦法だな!


―気に入らないだけ。


―そっか…。


何はともあれ、

スタートは切って落とされた。

スタート直後、フィンに身体強化を掛けてもらい誰よりも速く頭を抜ける!

だけど横に並ぶ存在がいた。


「おーほっほ!そこの鳥!バレバレですわよ!」


―念話!?


「ヴィーか!?やるな!流石だよ!」


―ん?凄い違和感。


「おーほっほっほ!クレア・グリッドノース!ここに見参っ!ですわっ!」


―何でヴィーからクレアの念話が届くんだ!


最初のカーブに差し掛かる!2体共に軽くブレーキを掛けるとアウト イン アウトで駆け抜けて行く!

俺はインからアウトに、ヴィーはアウトからインに並びを変える。


―何だコレ!?何なんだよ!?


「ヴィー!何でお前からクレアの念話が届く?」

「名前を呼ぶ許しは与えておりませんが、まぁ良いでしょう!今は私がヴィーでしてよ!お分かり?鳥頭さん?」


ちらりと騎乗しているクレアを確認する。

少し気弱な視線が物語っていた。


―入れ替わってる!なんで!?


ストレートを横並びで駆け抜けて行く。

どれだけ加速しても前に出れない!


「なんで入れ替わってる?それはなんかの戦法なのか!?」

「戦法?なんの話ですかソレは?」


―はっ?


再びコーナーへ。

また並びを入れ替えてのストレート。

こっちは全開だって言うのに、向こうさんは余裕ありそうな雰囲気だ。


「入れ替わって何の意味があるのか聞いてんの!凄い力が出るとかさ!?」

「何を仰ってますの?私が飛びたかったからに決まっていますでしょう?」


―ナニヲ言ッテイル?


何か?自分自身で飛んでみたかったから、

何らかの方法を使って身体を入れ替えたって事か?


ぐぅっ!またコーナーか!

身体が軋む!

クレアに食らいついて行け!

イグニ!気合いを入れろっ!


再びコーナーを抜けると横並びで黒と白の粒子が尾を引いて行く。


「クレア自身で飛ぼうとは思わなかったのか?」

「人の身体では限界が近い。ですけれどヴィーの身体なら行ける。なんと言っても世界一のドラゴンなのですから!どこまでも高く!どこまでも遠く!」


―飛ぶ事を骨の随まで堪能するため?


その為に入れ替わったのか?

ただ、大空を飛びたいが為にこんな無茶苦茶をしたって事か…。


「なら、何でルールに縛られたレース何かをやってる?」

「あら?ヴィーが世界で1番だと証明する為ですわよ?」

「入れ替わってたら本末転倒じゃないのか?」

「私。飛ぶ事も1番になる事も、どっちも大好きなのですから、仕方ないですわ~」


コーナーを抜ける。横並びが続く。

呼吸が苦しい!心臓か早鐘を打つ。

でもまだまだ付き合いたい。

ほんの少しでも、ただ相手より速く!

こんな泥レース。

観てる人はつまらないだろう。

でも俺は楽しくて仕方ないんだ。


―だってこんな馬鹿、そうは居ないだろ?













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