第14話 訓練開始

クルト村襲撃事件から3日経った。

幸い、多数の重軽傷者は出したものの、

死者は出ず、

村で手厚い治療をされた俺は、

失った羽根も根元から生えて来て

体力も回復した。


―すごい回復力だよな?


そろそろ家に帰れるかな?と思っていたら、

隻腕の女性で確か、ネアさんと言ったかな?

その人が琥珀竜のロランさんと共にクルト村の厩舎に訪ねて来た。フィンとエルロも一緒にだ。

そんなネアさんが一言。


「起きろイグニ。行くぞ」



◆◆◆



私こと、エルロ・アスペラトゥスは話の流れに取り残されています。

確かに私はネアさんにフィンの指導を

お願いしたのだけど、これはどう言った事

かしら?

「村長。話しは考えてもらえたか?」

ネアさんがクルト村長に面会していた。

「しかし、フィン殿と鳥であるイグニ殿がドラゴンライダーとなり、エアレースに出場するなど前代未聞の話」

ネアさんは席から立ち上がると村長さんの肩に手を回した。

「そこだよ村長。史上初の鳥のドラゴンライダー。鞍には大きくこのクルト村の銘を入れよう。ドラゴン以外のドラゴンライダーの誕生と輝かしい戦績。もしかしたら歴史に名が残るかも知れないな?」

村長さんはそんな自分を想像してみたのか、

顔がにやけています。

何故、こんな事になっているのでしょう?

「一週間後に、セレナの街でアマチュアのエアレースがある。これの優勝をクルト村に持ち帰ろうじゃないか。これなら村の方々にフィンとイグニの全面バックアップを宣言するのは簡単じゃないか?」

えっ?全面バックアップ?

あのネアさん?何を仰っていますか?

「う…うむ。それならば」

「約束しようじゃないか。必ずだ。必ず私が優勝をクルト村にもたらす。レッドドラゴンを倒した英雄達がまずはセレナの街にクルト村の名前を刻み込んでくる」

あのネアさん?えっと?

「そっ…そうだな!しかし、一週間後とは準備は大丈夫なのかね?」

さらにネアさんはグイグイと恰幅の良い村長さんに身体を押し付けてますよ?

「そこでだよ!クルト村ここにあり!と印象を鮮烈に刻みつける!その為には愛らしいフィンと逞しいイグニに一式装備が必要だとは思わないか?ビジョンの放送もバッチリあることだしな!2人の門出を祝ってやろうじゃないか」

あの?ネア…さん…?



◆◆◆



村長宅を後にしました。

何が起こっているのでしょうね?

「エルロ。フィン喜べ!騎士装備一式と騎乗用装備一式。村長がポケットマネーで快く準備してくれるぞ」

私はフィンを見た。すでに臨戦態勢だ。

完全にネアさんの啖呵に心酔していた。

「あのネアさん?これは一体どういう事なのでしょう?」

私はネアさんに訊ねる。

朝日をバックにネアさんは片腕を腰に当てて私を振り返った。

背中まであるブラウンの髪が風になびく。

自信ある女性ってみんなこんなに格好良いのかしら?私とは大違いだ。

「エルロは雇い主だ。あたしの事はネアで良い!まずは」


―まずは?


「フィンには2ヶ月後のウインドミル学園の入学前に出来るだけアマチュアタイトルを取って貰おう」

えっ?入学?あの国立の?

お姉ちゃんはそんな話聞いてませんよ?

私はフィンを見たが、フィンもポカンとしている?どうなっているのか。

「あの?学園に入るには結構なお金がかかりますよ?」

あれ?まさか?

「そうだな。だからクルト村の全面バックアップの確約だ」

ネアさん。もとい、ネアはあっけらかんと言い捨てた。

話がどんどん進んで行ってますね?

エアレースの指導についてはネアに一任しましたが、まさかここまでするとは、

「学園のスカウト陣に知り合いが居る。フィンとイグニを注目しておけと手紙を出した。その内あちらからレスポンスがあるだろうな?上手く行けばただで入学できる!」

えええっ?!

「入学までの間、エアレースの特訓をしながら、実戦を経験してもらう。フィン。アマチュアだからと甘く見るなよ?」

素直なフィンは両手の拳を握り締め

力強くうなずいていた。

さすが私の可愛い妹だ。

なんて頼もしいのだろう!

「エルロは回復魔法が得意だろう?救護院のマーサの所へ行け。あいつは調教師テイマーの資格も持っている。良いドラゴンライダーには良いテイマーも必ず付いている」

えぇっ?まさか私も進路を決められていた?

「それと、お前達の家の隣にあたしの家とロランとイグニの厩舎を運んでおいた。なに!イグニの厩舎はあたしのサービスだ!気にするなよ!あははっ!」



◆◆◆



私達の家の横に3台の箱型の家が

増えていました。

下部にゴツい車輪が6つ付いた

移動式住居トランスポート

その前には1体のグランドドラゴンと1人の少女。どうやらこの少女トランスポートを3つ連結してここまで引っ張って来たらしい。

ドラゴンライダーってみんな豪快な人ばかりなのですね?

フィンは大丈夫でしょうか?

心配になります。


「ノエル。無理を言って済まなかったな。助かったよ」

ノエルと呼ばれた少女がペコリと頭を

下げる。

そして、てててっと俺の方に走って来て、いきなり足を触りだした。

くすぐったいんですが?

「おお。すごい。グランドドラゴンには負けますが、かなり力が出そうです。これは中々…フムフム。」

なぜだか、レッドドラゴン戦から回復したと思ったら、一回り身体がデカくなって、足も滅茶苦茶ゴツくなってしまっていた。

今、レッドドラゴンと並ぶと見劣りしない位のゴツさが備わっている。

何となく、身体の大きさはこれで終わりのような気がする。凄くバランスが良い?みたいな安定感があるのだ。

「でしょう!私のイグニの良さが分かるなんて、あなた見る目がある!」

フィンがノエルの横に駆け寄って、俺の足を2人で撫で回していた。

何をやってるのだか?

「フィン。そいつはノエルだ。お前と同じ14歳でグランドレーサー志望。一緒に入学する事になる。仲良くしてやってくれ」

フィンとノエルは通じ合うモノがあるらしい。がっちりと握手していた。


―さて?状況がまったく分からない。


「ロランさん?どう言った状況?」

俺は覚えたての念話を飛ばしてみる。

「ワシとネアがお主とフィン嬢ちゃんにエアレースのイロハを教える事になった」

なにっ?

「俺はドラゴンじゃないんだが?」

「史上初の鳥のドラゴンライダーよ。中々面白くなってきたの?」

なれるのか!なら経緯など問題じゃ無い。

ただ、進めば良いだけだ。

となると、このトレーラーハウスはロランとネアさんが引っ越して来たと言う事だな。

「俺の足元にいるノエルって娘は?」

「フィン嬢ちゃんと共に学校とやらで学ぶ事になるネアの姪に当たる娘よ」

学校?やっぱりあるんだな。

フィンの友人になってやってくれ。

なんだかボッチっぽいんだよな。


―えっ?フィン何で殴るの?


「さて、それじゃあ訓練を開始しようか。レースまで時間が無い。徹底的に行くぞ!」


―はて?今レースって言いましたか?











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