第12話 憧れへの一歩
―声を出そうとする。でも出るのは咳と血の塊だけだった。
お姉ちゃんを見た。どう見ても魔力の欠乏。顔が真っ青だった。
それはそうだ。あんな大規模な
それでも必死に私に
「フィン。後ちょっと頑張ってね?すぐに良くなるから。イグニも頑張ってるからフィンも頑張りなさい」
イグニは本当にあのイグニなのか?
そう思うほどにズタズタだった。
生きているのか分からないくらい、酷い有様だった。それでも私達姉妹の前でレッドドラゴンと対峙している。
―イグニと空を飛びたい。
ビジョンを見て、そう感じた。
周りのドラゴンライダー達から見れば、
笑われるに違いない。
それでもイグニが良い!
ようやく自分の夢を形に出来た!
そう思った矢先に私は血を吐いて倒れて、
イグニはボロボロで死にかけてる。
レッドドラゴン!あんたなんかキライだ!
イグニと空を飛ぶんだから邪魔しないでよ!
私は夢を実現させるんだ!
―私のイグニは絶対負けない!
◆◆◆
ラストチャンスだった。
粒子の力は尽きてしまった。
何とかフィンとエルロを庇うように
立ち上がったが、
万策尽きてしまった。
―2人をどうやって逃がす?
可能性があるとしたらもう1つの
ヤツの目を潰す事。
―どうやって潰す?
不意打ちから始まり、フィンとエルロを人質に取ったイラヤシイ性格。
もう、近付いて来る事は無いだろう。
―どうやって…?
気が付いたら、両側にフィンとエルロが寄り添うように立っていた。
―なんで逃げないんだよ?
2人は俺の残った羽根を握り締めていた。
逃げるつもりは毛頭ないと言う事か?
―フィンを見た。
まだ希望に満ちた目で見返された。
どれだけ俺の評価が高いんだろうか?
困った子だな。
―エルロを見た。
穏やかな顔をしていた『覚悟を決めた』
みたいな笑顔をされた。
そんな真っ青な顔してさ。
―ああ、もうこの2人ときたら。
「
「
―ああ。
―そうか忘れてたよ。
―魔法が使えるんだよな。
―3人で戦うってこう言う方法もあるのか。
思わず苦笑してしまう。
わざわざ死にかけの鳥に託してくれるのか。
「行きなさいイグニ!みんなを助けて!」
フィンが熱のこもった一喝をする。
その目を見た。
これは逆らえないな。
分かった!
みんなを助ければ良いんだな!
ぐっと背中を押された。
―ありがとう。百人力だよ。
―行くぞ!
手近にあった屋台の残骸を蹴り、
目隠しに使う。
屋台はヤツの顔に激突して砕け、視界をふさぐ。
―フィンありがとう!身体が軽い!
後3歩。半分!次はテーブル!
―エルロ!命を繋ぎ止めてくれ!
後2歩。テーブルクロス!良い仕事だ!
―俺は肉のみで繋がっていた左翼を引きちぎると上に放った!
後1歩。滅茶苦茶いてぇ!
―ヤツは俺の左翼に火球を放つ。
到達。残念だな?目眩ましだよ!
死角からヤツの顎を蹴り上げる。
ふらつく隙を縫って左翼から飛び出してる折れた骨を瞼の閉じた右目に突き刺した。
―後、ひと息!
だけど、とうとう身体の限界が来てしまった。地面に横たわる。
魔法はまだ効いてるハズ?
立ち上がろうとするが身体が重すぎる。
どうして力が入らない。
這いながらフィンとエルロの元に戻ろうと
したせいか、ヤツに居場所を感付かれてしまう。
―ちくしょう!動け!
苦し紛れの凪ぎ払うような尻尾の一撃。
かわせない…。
フィンとエルロの悲鳴が聞こえる。
―ごめん。
その時、上空から影が舞い降りた。
ヤツの背中に刺さっているフィンの槍を踏みつけながら。
◆◆◆
「よう。無事だったかい?」
琥珀色をした鱗を持つドラゴンから降り立ったのは、隻腕の女だった。
ヤツの頭部は琥珀色のドラゴンに地面に
押さえつけられている。
女は自分の持つドラゴンの鱗と同じ色の槍を手にすると、その眉間を貫いた。
―ヤツは完全に沈黙していた。
◆◆◆
「ようお嬢さん。その騎竜はあんたの相棒かい?」
私は目を疑った。
―『騎竜』―
ドラゴンライダー達の騎乗するドラゴンの事だ。でもその視線はイグニに向いていた。
そのイグニはお姉ちゃんに手当てを
受けている。
―イグニをじっと見た。
今なら自信を持って言える。
「はい。あの子はイグニ。私の騎竜です」
「イグニか。良い騎竜だ。大事にしてやんなよ?」
私はコクリとうなずく。
もちろんですとも!
「それで、ネアさんはどうしてここに?」
彼女は少し驚いていた。
「あたしの事をまだ覚えてる人が居るんだね?しかも君みたいな若い娘がさ?」
私はあの誇り高いイグニの
丹田に力を入れると口を開いた。
―あの場に居ましたから。
ネアさんの身体がビクリと震える。
―7年前。
エアレース史上最も悲惨な事件の1つ。
功を焦る1人の若い騎士が、自らの騎竜に限界を超える『
暴走した騎竜は客席を襲った。
犠牲者の数は18名。
その内には、
―暴走した竜のマスターと私の両親を含む。
そして、その暴走した騎竜を捕縛したのが、このネアさんだ。
その事件により彼女は左腕を失い、
エアレースの舞台から姿を消した。
酷い事件だった。
みんな色んなモノを失った。
「名前を聞いても…構わないかい?」
ネアさんは少し俯きがちに口を開いた。
私はネアさんの手を取ると、こちらを向かせる。目をしっかり見ながら答えた。
「私はフィン・アスペラトゥス。私とお姉ちゃんの両親はその事故で亡くなりました」
ネアさんが息を呑むのが分かった。
「私はドラゴンライダーを目指しています。イグニと言う大切な相棒と一緒に」
握っていた手に力を入れて笑顔を作る。
―そしてあなたが私の目標なんです。
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