第11話 襲撃

―ビジョンの内に映るモノに衝撃を受ける。


総勢15体からのバトルロワイヤル。

あのスピードレースに参加していた

銀竜と緑竜もいた。

体格に劣る緑竜はその身体の小ささを活かして、襲い来る竜達を翻弄していた。

銀竜は有り余る力を活かして結託して攻めて来る竜達を凪ぎ払っていた。


―すげぇ…。


ただその一言。背筋に寒気が走る。

何でも有りの大乱戦。

緑竜は身体から吹き出す緑の粒子を

右翼へ左翼に纏わせて、

右へ左へかわして行く。そして、

尻尾に纏わせると強力な一撃で一匹、また一匹と撃墜していく。


―トリックプレイヤーだ。


銀竜は身体全体に銀の粒子を纏わして

受け止めて、両翼で凪ぎ払う。

そして、銀の粒子を口に収束してブレスで一撃。


―空中要塞みたいだな…。


ようやく気付いた。

あの緑竜の無理な体当たりは銀竜の力量を

測ってたんだ。

わざと落馬したように見せ掛けて、他の竜達も後ろから観察していたんだ…。


―全てはこのバトルロワイヤルに勝利する為


いかにも稚拙な体当たりを繰り返した。

証拠に、今やステージには銀竜と緑竜しか残っていない。

そして、銀竜は疲弊しているように見える。

対して緑竜はまだまだ余裕があるように見えた。


―始まる!


緑竜が仕掛けた。この狙いは…、

騎士を落とすつもりだ!

銀竜は体格が大きい分小回りが効かないだろう。一度騎士を落とせば容易にはリカバー出来ない。


―そうか。緑竜の騎士は銀竜の騎士の力量も見ていたんだ。


騎士とは、

ドラゴンの死角に対する目の役割くらい

そのくらいにしか思って無かった。違う!

完全に司令塔だったのか!

これが人馬一体ってヤツか。


フィンを見た。自分に騎乗するフィンを

思う。うん行ける。


―自分がドラゴンで無いのが悔やまれるな。


銀竜がスペックでは上。

騎士の力量では緑竜が上。


―決着がつく!


ビジョンを食い入るように見つめる。

銀竜とその騎士の一瞬の死角を突いて、

緑竜の騎士が槍を投擲した。


銀竜の騎士は肩に一撃を受けて滑り落ちるように落下する。

銀竜が落下した騎士を追おうとする瞬間、

緑竜の体当たりが左翼の付け根に入った。

ふらつく銀竜の手は届かなかった。


―勝者は緑竜とその騎士だった…。


俺の身体は震えていた。

しがみついていたフィンの身体も

震えていた。

武者震いだ。背筋の寒気が止まらない。


―凄かった。


あそこに自分とフィンが居たならもっと

興奮して、もっと楽しかったよな。

あの舞台にフィンと立ちたい。

自分達より遥かに強い人達と競い合いたい!


―父ちゃん。母ちゃん。俺あそこに立ちたい!


何時の間にかビジョンは地竜のバトルロワイヤルに切り替わっていた。

これも迫力あるけど、さっきの銀竜と緑竜が頭から離れてくれない。


―多分、フィンも同じ気持ちだよな?


フィンの潤んだ目と俺の目が合う。

何かすがるような視線だった。

この娘と一緒に飛びたい。


そう感じた瞬間、警鐘らしきモノが街中から打ち鳴らされた。



◆◆◆



―なんだよ!?何事だ!?


周りを見る。全員が戸惑っているようだった。フィンとエルロを羽根の下に匿う。

分からない。どうすべきか?

ふと、父親に抱かれた幼子が空を指差しているのが見えた。


―上空か?


直ぐ様見上げると、赤い輝きが目に入った。


―あれは……隕石?火球か?!


着弾地点はここだ…。


2人を連れてなら逃げ切れる。


―でも、


幼子が見えた。子供たちが見えた。家族連れが見えた。恋人同士が見えた。老人夫婦が抱き合っていた。


―ちくしょ。


俺は2人を離す。顔を見た。2人共不安そうに俺を見ていた。


―そんな顔するな。任せろ!


―粒子パワー全開だ!


両翼を広げて雄叫びを上げる!


―行くぞ!


両翼から黒い粒子が吹き出して、

巨大な翼を形作る。

そして、一気に空へと駆け昇った!



◆◆◆



「イグニ!どうしちゃったの!」

私は隣を見た。お姉ちゃんは空を見上げて全力で防御魔法を唱えていた。

私はイグニの黒い軌跡とお姉ちゃんの視線を追って見上げた。視界に巨大な火の玉が入る。

「嘘?イグニ?あれを止めるの?」

視線の先では黒い軌跡が火球に一直線に向かっていた。お姉ちゃんの防御魔法はこの広場一帯に展開されていた。

2人共戦ってる。なら、私のするべき事は?


―あの火球はブレス。いるんだ!


なら戦わなきゃ!そいつはここに来る!

愛用の槍を召喚サモン ランスする。身体強化エンハンスする。

槍に魔力付与エンチャントする。


―出来るだけ強力に精緻に堅固に!


―お願いイグニ!死なないで!



◆◆◆



俺は火球に突っ込んでいた。粒子を防御に回せ!


―弾ける!


高熱と爆風を撒き散らしながら火球は砕け散った。轟音が響く。


気が付くと、

ビジョンの下に設置されていた

噴水にめり込んでいた。


―なんだか分からないけどとにかく痛い!


―でも痛みがあるって事は生きてる!


目を開けた…。周りの人達は爆風に飛ばされて広場の隅へと固まっていた。

フィンを見た。何かを叫んでいた。

エルロは道端に倒れていた。


―エルロ!生きててくれよ!?


立ち上がろうとしたが、出来なかった…。

右翼は根元から無くなっていた。左翼は折れていた。


―くそ!粒子を回復に回せ!


―足は無事だな!

立ち上がろうと…。

出来なかった。上空から黒い影が降りて来たかと思ったら折れてる左翼に噛み付かれた。

ミシミシと軋む音が聞こえる。


―ぐぁああっ!目頭がチカチカと明滅する!


痛い!けど我慢する!

目の前のコイツはなんだ!?

赤いドラゴンか?

俺の2倍はあるデカぶつか!

生意気だ!俺の左放しやがれ!


急に赤竜が悲鳴を上げて仰け反った。

背中に深々と刺さった槍を抜こうもがいている。


―フィンか!?無茶をする!


でも助かった。

隙が出来た!赤竜の首に噛みついてやる。

だけど翼とは別に付いている腕で振り払われた。


―なにそれ?ズルくないか?!


肉を削り取るだけに留まってしまったか?

くそ!両翼イカれてるし最悪だ!

フィン!エルロを連れて逃げるんだ!


目で訴える。

しかし、フィンは空間から粗末な槍を取り出して、赤竜に向かって構える。


さすがフィンだな。やっぱり逃げないのか。

大したもんだよな。


―やるしかない!


俺は赤竜からむしり取った肉片を咀嚼して見せ付けるよう飲み込んだ。


―お前を捕食出来る存在はここだ。来いよ!


赤竜は怒り狂った咆哮を上げると俺に突進して来た。

空間を上にステップしてかわす。

足爪で背中の槍を押し込んでやる。

折れた左翼の粒子を推進力に変えるが

硬くて槍は貫けない。


けど、その隙にフィンが槍でヤツの左目を

潰してくれた。

ヤツは目に刺さった槍を引き抜くと地面に投げ捨て右目でフィンを睨んだ。


―背中がゾクリとした。


狙いはフィンに変わった?!

ヤツの口から熱を感じる。ちくしょう!


槍から足を離すとヤツの頭部を死角から

蹴り上げる!

ギリギリ反れた!

だけど放たれた火球の威力は小さなフィンを吹き飛ばすのには十分すぎた。

壁に叩きつけられて血を吐いている。


―コイツ殺す!


俺の嘴はヤツの首にガッチリ食い込んだ。

たけど俺もヤツに捕まった。

今ある粒子全部で防御した。

やすやすと剥がされてたまるか!


俺を引き剥がす為に滅茶苦茶爪を立てられ

掻き毟られる。

黒い羽根が宙を舞う。


―痛いんだよこの糞爬虫類!てめえの首

は絶対離さん!ハゲにされる前に窒息させてやるよ!


メリメリと嘴が首にめり込む。

あと少しだ爬虫類!


苦し紛れに俺を掴んだまま突進を開始しやがった!壁にでも叩きつけるつもりなのか?

絶対に離さん!


―あっ…?


―狙いはフィンとエルロだった…。


エルロはフィンの側まで這い寄ると何かの

魔法を使っていた。

2人とも完全に無防備だった。

今2人に突撃されると間違いなく

潰されるだろう。


―俺は咄嗟に空間を足で掴むと勢いのままにヤツを投げ飛ばした。














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