第10話 クルト村で

―今日は3人でお出掛けだ。


のんびりと森の中を歩く。

木漏れ日がチラチラと降る小道抜けると広い丘陵に出た。

高さ5メートル位の石造りの防壁が丘の上に見える。


どうやら獣避けの防壁みたいだが、

あれで足りるのかな?

魔法がある世界なんだから大丈夫なのか?


30分程度2人の速さに合わせて歩くと防壁の詰所みたいな場所に出た。兵士らしき人物と2人は何やら話をしているみたいだ。

フィンが駆け寄って来ると俺に白いプレートを首から掛けくれた。


どうやら通行証か滞在許可証みたいな物か。

これで街だか村に入れるのかな?

うん。大丈夫だったみたいだな。


防壁に設えてある門を潜ると今度は下りだ。

丘の上から見下ろすと放牧地帯と農耕地帯が眼前に広がっていた。

さらにその先に防壁に囲まれた街が見える。


なるほど。あそこが『クルト』か。

穏やかでのんびりとしてるな。

えっと?残念。海は見えないか。周りは山ばっかりだな…。海産物には期待出来ないな。

牛っポイのとか羊っポイのが一杯居るよ。

農作物と牧畜か?お肉とか乳製品が特産と見たね!

チーズとかハムが楽しみだよ。早く行こう。


―俺は2人の背中を押すとウキウキしながらクルトを目指した。



◆◆◆



クルトに入ると甘い匂いやら燻製の煙やらに歓迎された。フィンの袖を引っ張って石畳を駆けるとあれやこれやをおねだりする。


「イグニ?手加減してね?お小遣い無くなっちゃうよ…」

フィンは悲しそうに自分の財布を覗きこんだ。ペラペラになってる。

クルト村に入って30分。

すでにお金は半分まで減っている…。

おぉ…神よ…。


良いんだけどね!

私はビジョンさえ観れれば良いんだけどね!?


「フィン?これを今日は使いなさい」


お姉ちゃんが自分の財布から銀貨を3枚抜き出すと私に渡してくれた!

やったー!

1日食べ歩いてもお釣りが来るよ!

「お姉ちゃん!マジ女神様!」

「余ったお金はちゃんと管理するのよ?無駄使いは駄目だからね?」


ありがとう!と言うとフィンはイグニの方に駆けて行く。やれやれ。これが目当てで誘った癖にね。


2人が屋台を冷やかしながら、歩いて行くのに付いて行く。

フィンと私はずっと気を張り詰めて生きて来た。2人で頑張ろう。そうやって過ごしてきたのに、イグニが来てフィンは良く笑うようになった。

―あっ…。私もだった。

自分を振り替えると、最初はイグニを警戒するあまり他への注意が散漫だった…。

命の危険があったはずなのに、不思議と今でも心は平静を保っている。

―これは甘えてるのかしら?

鳥の魔獣。体躯は大きく、私やフィンなどは襲われたら、ひとたまりも無いだろう。

なのにイグニに対する警戒は何時スカートを降ろされるかに終始していた。

―完全に甘えてるわね。

これは良い事なのか、悪い事なのか?

自分でも判断つかない。

だってこんな事、今まで経験した事ないのだから。



◆◆◆



―なるほど。これが『ビジョン』か!


直径100メートル四方はあろうかと言うクルトの中央広場は人でごった返していた。

中央の噴水の上空に大きな映像の映った球体が浮いていた。

映像の中にはフィンの部屋で見た竜騎士達が大空でスピードを競い合っている。


―これがフィンの目標か?


その周りに所狭しと人が居る。

家族連れや恋人同士。子供も沢山集まっている。広場の隅では屋台が取り囲んで大盛況だ。

そして、その路地裏にはダフ屋らしき人影と良い感じに酔ってるおっちゃん達。

賭けの対象にもなってるのか?

ほどほどにしなよ?


俺はビジョンに再び目を向ける。

先頭の2体のドラゴンが身体をぶつけ合っていた。銀色と緑色のドラゴンが鼻先を競っていた。

あっちゃ!緑色のドラゴンの騎士が落馬?した。まっ逆さまに墜ちていくぞ?これはヤバいんじゃないかっ?!


チラリとフィンを見るが、そっちのけで銀竜を応援しているようだった。


―これにフィンは出たいのか?


再びビジョンに目を向けると、大きな球体の映像の下に小さな球体が浮かび上がる。

墜ちていく騎士を追っているみたいだ。


―下は水面か?海の上か?


水面に魔方陣が浮かび上がると騎士の落下地点に光の網が浮かび上がった。

しかし、騎士が網に触れる前に緑色のドラゴンが横から騎士をかっ拐う。


―おぉ…。あの網でキャッチするのか?キャッチしきれなかったら、水面に落ちる訳だな?これは激しいな。


それじゃ、ドラゴンに拐われた騎士はどうなるのか?再び大きなビジョンに目をやると、レースに復帰していた。当然最後尾になってたけど、また銀竜に猛追撃を開始した。


―根性ある!もう1回行けっ!


俺は気付くと緑竜を応援し始めていた。

フィンの目線も緑竜を追っている。緑竜の根性追撃に声援を送っていた。

フィンは顔を上気させてしがみついてくる。


―痛い!フィン!羽根をむしらないで!


結果、緑竜は2位まで浮上。しかし後一歩及ばず。周回レースで10周回ってのチェッカーフラッグみたいだな。

後一周あったらさらに盛り上がったろうに。残念だった…。


―あれ?夢中になってた?あの緑竜と自分を重ねて応援してたよ。恐るべし!



◆◆◆



―競技はさらに続く。


―地を走る竜によるまんま競馬の周回レース。だけど、質量がある分地響きまで聞こえて来そうだった。

落馬?したら騎士は大丈夫なのか!?


―上空に風船のようなものを飛ばして地上から飛竜が追う高高度の争奪戦。気流が変わるから技術も必要みたいだな。後、苦しそう。


―地竜が巨大な岩の塊を引いて障害物コースを走り抜ける。道産子競馬みたいなレース。

スピードは遅いんだけどド迫力!


―ふう。なるほど!


フィンが夢中になって努力するのも判る。時間があっと言う間に経っていた。

ビジョンには今、何も映って無い。


―これで終わりかな?


そう思った瞬間、さらに人が押し寄せて来た!何事だろう?フィンを見た。何も映って無いビジョンに釘付けだった?


ビジョンに目を向ける。映像が始まった。

そこに映ったのは、

バトルロワイヤルを始めた飛竜達の乱舞だった…。


―これが、わざわざ騎士の格好をして騎乗していた意味か。

















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