第9話 お出掛け
―飼われて10日目。早朝のフィンの訓練に付き合う。
白いシャツに短パン。金色のポニーテールが
右へ左へ。朝もやの中、槍が踊るように軌跡を描く。
素人目から見ても凄いと感じる。
フィンと槍からは髪と同じ色の金色のオーラみたいなモノが立ち昇り、朝もやの中に幻想的な景色を作り出していた。
―綺麗だな。見蕩れてしまう。
フィンが目指してる竜騎士みたいなモノの為にやってるんだろうな。
あの動きが
―鳥の勘かな?
必ず凄い竜騎士ッポイ何かになる!
この努力を報わせてあげたい。
騎乗するのが、ドラゴンと言うのが少しプライドに触れるが協力はしてあげたいな。
父ちゃん。母ちゃん。何となくやりたい事が見つかった気がするよ。
兄弟達も頑張れよ?俺も頑張ってみる!
ととっ!見蕩れてばかりじゃ居られないな。食扶持くらいは稼がないと!
―森の中の気配を探る。いたいた。
フィンとエルロの気配も収めつつ、邪魔しないように音を立てずにその場を後にする。
今日のは中々大物の気配。
―すまんな。糧となってくれよ?
◆◆◆
首と内臓をとり、皮を剥いだ猪モドキを嘴に咥えてフィンと共に家路につく。
フィンは俺と獲物を見比べながら不思議そうな顔をしていた。
木々を抜けると射し込む朝日が俺とフィンを照らし出す。
フィンは俺を眩しそうに見ている気配がするんだが?良く分からない。
家に帰るとエルロが屋外に作った俺専用の調理施設に火を入れてくれてた。
フィンお手製の失敗模造槍に獲物を刺すと火にくべる。楽しみだな。
―そうだエルロ塩胡椒くれ!
◆◆◆
「お姉ちゃん?あんな魔獣見た事ある?」
フィンは楽しそうに肉を焼いているイグニを見ながら聞いて来る。
「色々文献を当たってみたんだけど、見付からなかったわね?」
本当に何だろうか?
「イグニって、陽に当たると黒い羽根が深い青色に光るんだよ!スッゴく綺麗なんだから!」
フィンはイグニにベタ惚れみたいね。
気持ちは判らなくも無い。
悪戯好きだけど、
何とも言えない安心感がある。
まるで人に近い思考を持つ竜の上位種のように見える。
だけど、どう見ても鳥にしか見えない。
本当に不思議な存在だ。
―もしフィンがイグニに騎乗してレースをしたいと言い出したら?
エアレースは危険の多い娯楽でもある。けどイグニなら大事な妹を任せても大丈夫な気がする。
―本当はエアレースに出場する事を反対してたんだけど、何となく2人が活躍する姿を見てみたい。
イグニは悪い子じゃ無い。恐らくどんな事があってもあの子を守る。
―あら?
イグニはいつの間にか後ろに回り込んでいた。何か欲しいらしくスカートを引っ張っていた。何かしらね?
―ビリリ。
私のスカートがストンと地面に落ちる。
焦った私はスカートをたくし上げようとしたのだが、まだイグニが咥えていたらしく、つんのめって転けてしまった。
「……」
「……」
イグニは悪い子では無いはずだ。
恐らくは…。
◆◆◆
―午後になり、来客があった。
俺はフィンの訓練に付いていたのだが縄張り(この森一帯は俺の縄張りなのさ!)に人の気配を感じて家に飛んでかえる。
エルロの後ろに控えて来客を迎えると、野犬を引き取って行った兵士の一団だった。揃ってエルロに頭を下げていた?
もしかすると強盗団の件かな?
何か書状のような物と、お金のような物を受け取ってるみたいだな。これで解決すれば良いんだが。
◆◆◆
―夕食後。
俺は食堂の隅でまったり毛繕いをしていた。この食堂も随分狭くなってしまったな。
「お姉ちゃん?これって強盗団の件?」
フィンは袋を開けて中を確認しながら金のコインを取り出して『ほわ~』と感嘆している。
「内部犯が居たみたい。全員捕まった報告と強盗団に賞金が懸かっていたみたいね」
テーブルに置かれているお金をエルロは取り上げてる。フィンは『あ~』と言いながら手を伸ばしていた。
フィンは頬を膨らましていたが、突然笑顔になってエルロに詰め寄って行く。
「そうだお姉ちゃん。明日クルト村に『
「エアレースの開催日ね?良いわよ。買いたい物もあったし、荷物持ちも居るしね?」
エルロが俺を見た。
―う~む?
ビジョンを見にクルトに行く?
そしてエアレースを俺がする。かな?
何となく分かって来た気がする。
―よし。行こうか!(ぐえぇ!)
◆◆◆
―翌朝。
あれ?この家の出入口ってこんなに狭かったっけ?身体が突っかえるんだが?
俺は身体を横にずらしながら入り口を跨ぐと身体を振るわせ伸びをした。
もしかすると、また大っきくなってしまった?既にフィンやエルロを見下ろしている事は知ってたけど、
ここまで成長しているとは?
もしかするとフィンを乗せて飛べるんじゃないか?俺のブラックアウトの件もある。
ドラゴンに騎乗したいフィンには『速さ』と『高さ』に慣らしておくべきじゃないか?
今日のお出掛けが済んだら練習してみるかな?
フィンとエルロが家から出てくる。2人共白いお揃いのワンピースを着ていた。
澄み渡っている青空に良く映える。
―似合ってるよ!(クエェエ!)
褒めたんですが?なぜエルロは裾を押さえて後ずさるのかな?
しかもお玉を持ってるし!?
―まあ良いか。それじゃ出発しよう!
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