第8話 姉妹
飼われて3日目。
―フィンの朝は早い。
陽が昇る前に起きて、
動きやすい白いシャツとパンツ姿になる。
そのまま模造槍を手にすると薄暗い内に森に訓練に出掛けるのだ。
野犬とか出るのに、大丈夫だろうか?
後から様子を見に行こう。
しかし、3日経っても2人以外の姿は見掛けない。
2人暮らしなのだろうか?
俺と同じなのか?うーむ?
そのうち分かるときが来るかもな。
◆◆◆
―エルロ!お腹空いた!
俺は食堂に突撃する。
エルロはビクッとしながら、食堂の隅に逃げ出して、お玉を手に威嚇してきた。
―むっ!やる気ですね!
今日のエルロは白いシャツと緑色に染められたスカート姿だ。
ダッシュでスカートに噛みつく。
―肉!肉くれ!じゃないとまたスカート脱がしちゃうぞ!
ぐいぐいと引っ張ってみる。
片手でスカートを押さえ、お玉でポコポコ頭を殴られるが怯むイグニではありませんよ!
「いい加減にして馬鹿鳥!放しなさい!」
いちいち反応が可愛いから、苛めたくなってしまうぞ!それそれ!
―んっ?
ノックされた?残念。
放すとエルロに睨まれた。
エルロが身だしなみを整えながら扉を開けると、小太りして背の低い如何にも村人風の男が人の良さそうな笑顔で立っていた。
―俺ってさ?敵意とか毒の匂いに敏感になってるの。
「あの?どちら様でしょうか?」
瞬間、男の笑顔が崩れた。
後ろ手に持っていたナイフをエルロに
向かって、突き出そうと…。
―させる訳ないでしょ?
イグニキック炸裂!
男の脂肪を突き抜けて足が肋骨を砕いた。
あらま?死んじゃったか?
いや?生きてたか。どっちでも良いか。
「あの!大丈夫ですか!」
あっ。エルロ出ちゃ駄目だってば。
まだ居るんだから。
「イグニさん!何をするのですか!」
まだ気付いて無かったか。
ほら林から『如何にも』なのが出てきたよ?
こっち見てないで前見てね?
さて、気配は小太り抜いて10人。
囲まれてるな。
俺はエルロの後ろにスルリと回り込むと襟首を咥える、そしてひと息に家の屋根の煙突まで飛び上がり、エルロを煙突の中に押し込んだ。
―うん。ジャストフィットです。
「な、何を…?」
エルロが言い終わらない内に弓矢が飛んで来る。四角いレンガの煙突を
おっと危ない。エルロの頭を踏んずける。
「ムギュ!」
危ないから頭下げといてね。
さて、コイツらは多分だけど、あのお金目当てかな?10人投入しても、元が取れる金額だったのか…。
情報を流したのは誰でしょか~?
取り敢えず、コイツらを黙らせてから…?
あれ?敵意がどんどん減って行く?
森の中で弓を射るのは5人。それが2人減っていた?逃げた訳じゃない。
だとしたらフィンか!お見事!
そうすると、俺は屋根に登って来るアホを始末すれば良さそうだ。
―蹴り蹴り!
コイツら何を考えてんだか?
武器も抜かずに両手で屋根に掴まって上がって来るとは…。
―踏み踏み!
平屋の高さだからって、落ちたら痛いし、打ち所によっては死んじゃいますよ?
―ていてい!
弓矢攻撃は無くなってるな?
―くの!くの!
仕事早いですね!
―引っ掻き!引っ掻き!
さて、全員落ちて地面の上でもがいてるな?
意識刈り取りますよ!とうっ!
◆◆◆
11人全員お縄完了。
5人と6人を大きな木にフィンが円状に縛り上げる。弓矢5人を倒したのはやっぱりフィンだったか。
フィンの頭を撫でて上げた。
顔が赤くなってるの。姉妹揃って可愛い反応するよね。
姉妹?
あっと!エルロを引っ張り出さなきゃ!
ヒョイと煙突まで飛ぶと、襟首を嘴で掴んで抜き出した。煤まみれのエルロはスカートを履いていなかった。
露出の気がありますか?
お玉でポコポコ頭を叩かれた。まだ持ってたんだね?
エルロと煙突内に引っ掛っていたスカートを無事、下におろすとフィンが駆け寄って来た。
「お姉ちゃん!大丈夫だった?ケガはない?」
「大丈夫よ。真っ黒になっちゃったけど、無事だから。そう言うフィンは?」
姉妹で無事を確認し合っているみたいだ。
エルロは下半身丸出しで真っ黒だけどな!
睨まれた。心を読んだ!?
おっと!小太りが意識を取り戻しそうだ。
その前にっと!
俺は家から肉の塊を持ち出して
円状に縛られてる小太りの
隣の男の膝の上に置いた。
そして、それを勢い良くつつき始めた。
小太り男が肋骨の痛みに耐えかねて飛び起きる。
起きたか?さて小太り。俺が何をしているように見えるかな?
肉の塊から引きちぎったモノを
小太りの目の前で咀嚼する。
哀れ小太りは顔面を真っ青にして
失禁してしまったようだ。
何か姉妹に必死に懇願している。
これで尋問もやり易いはずだ。
小太りはスカートを履いた真っ黒エルロに洗いざらい喋ってるみたいだな?
俺は如何にもフィンの手の中で『お前食う』みたいな演技をしていた。
正直に言わないとフィンが俺をけしかけちゃうぞ!どこから食ってやろうかオラァ!
「イグニ。ひどくない?」
フィンは悲しそうな顔で俺を見ていた。
何を言われたか判らないが、誉められたに違いない!威嚇音をサービスしたげる!
―グルルルッ!
「イグニ。ほんとひどくない?」
照れるぜ!
小太りは泣きながらエルロに必死に懇願している。エルロは呆れた顔でこっちを見ていた。
―どうですか!イグニお役に立ちますよ!
◆◆◆
エルロは小太りから聴取した紙を地面に置いて、何か言葉を発していた。
地面に魔方陣のような紋様が浮かび上がると
紙に吸い込まれ、パタパタと羽ばたき出して何処かに飛んで行く。
凄い!魔法ってヤツかな!さすが異世界!
エルロはただのポンコツさんじゃ無かったのか!魔法を使えるポンコツさんだったんだ!
―エルロに睨まれました。
―あの?ほんとに心読んでないよね?
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