第7話 文化的鳥生活

―困った。凄い警戒されてる。


すごく空腹だったから、つい仕留めた野犬を1体食べてしまった。窓に映る自分の顔を見た。嘴が血で真っ赤に染まってるよ。

完全にホラー映画になってるな…。

仕方ないんだよ?対鷲モドキ戦から何も口にしてなかったんだから。

うーん?お姉さんが箒を構えてこっちを睨んでるんだよね。

何か言ってる。多分『こっちに来ないで!』とか言う感じかな?

でも、放り出されても困るんだよね。

拾ったら責任持って飼って頂かないと。


「ちょっとお姉ちゃん!鳥さんに攻撃なんかしたら怒っちゃうよ」

「大丈夫!フィンはお姉ちゃんが守ってみせるから!」


背後に庇われてる少女の方が何か言ってるんだけど、お姉さんが取り合ってない感じがする。


―僕は悪い鳥じゃないよ?(アギャギャ)


通じて!この紳士な鳥の真摯な願い!

お姉さんは悲鳴を上げるとへっぴり腰で箒を振り下ろして来た。


―ヒョイ。


お姉さんはバランスを崩すと前のめりに倒れちゃったよ。

駄目でしょ!危ないから止めなさい!

羽根でお尻をペチンとしたら、悲鳴をあげながらよつん這いで逃げ出した。

どうやら、少女の方に逃げるみたいだ。


「フィン助けて~」

「お姉ちゃん…?」


もう!武器は捨てなさい!

足爪でスカートを床に縫い付けると、お姉さんの動きがガクンと止まった。

凄い怯えた表情でこっちに振り返った。泣きそうだった…。


―なんか楽しい人だな!


再び箒で攻撃してこようとするから

足で箒を蹴飛ばした。床の上を滑っていく。

お姉さんの瞳から涙が零れる。


―悪い子にはこうです。


羽根でお尻をパチーンと再び。

「痛い!ごめんなさいごめんなさい…」

お姉さんはとうとうスカートを脱ぎ捨て

お尻丸出しで逃げ出した。

俺は泣きながらよつん這いで

逃げるお姉さんのお尻をパチーン!

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

なんか楽しくなって来た!ペチン!

もう一丁!ペチン!

少女の周りをクルクルと回りながら繰り返す。ワハハ!お姉さんが誘う格好するからいけないんだよ!

俺がこの世界で初めて覚えた言葉は

『ごめんなさい』だったよ。



◆◆◆



その後、ここは少女の自室らしい。

と言うのも、年頃のお嬢さんが持っているような装飾品は一切無く、

壁には槍が掛けてあり、部屋の隅には模造槍のような物が3本立て掛けられ、壁にはドラゴン?に騎乗する槍を持った騎士の絵が所狭しと貼られている。

勉強机の上には分厚い本が無造作に積み上げられていた。

察するに少女の憧れと目標が詰まった部屋なんじゃ無いだろうか?


「もう!お姉ちゃん泣き疲れて眠っちゃったよ…?」


―すみませんです。(クェ)


反応が楽しすぎてつい。やり過ぎてしまいました。

「しょうがないか?悪いのはお姉ちゃんだしね?それで鳥さん …。鳥さんか…?」

ベッドに腰掛けている少女が『んー』とか言いながら、床に座り込んでる俺に話し掛けてくる。

「私はフィン。君はイグニ」

少女は自分と俺を交互に指差しながら何度もフィンとイグニを繰り返す。

どうやら、この少女が『フィン』で、

俺が『イグニ』みたいだ。

前世の名前はあるんだが、まあ良いか。


―了解したよフィン(グェッ)


そう伝えるとフィンは嬉しそうな顔をして俺に抱きついて来た。

「凄いなぁ。こんな強い魔獣なんて初めて見たよ!嬉しいなぁ。でもイグニがドラゴンだったらもっと良かったのにな…」

なんでしょ?ちょっと落胆された?

後悔なんてさせない働きを番鳥として見せちゃいますよ?


―取り敢えず、滞在許可は下りたかな?



◆◆◆



―翌朝。


お腹が減ったので食堂にやって来た。お姉さん。お腹空きました。


―あれ?居ないや?


窓から外を覗いて見ると兵士のような格好をした数人が野犬の死体を運んで行った。


―俺のご飯なんだけど?


すると玄関からホクホク顔のお姉さんとフィンが戻って来る。お姉さんが両手で袋を抱えていた。

お姉さんは俺の姿を見つけると怯えながらテーブルにドスンと袋を置いた。


「スッゴい大金だね?お姉ちゃん」

フィンが袋を開けると、金色のコインが零れ落ちる。

ほわ~とフィンがため息を漏らしている。

お姉さんはフィンからお金を取り上げると袋にしまい込む。

「これは全部貯金します!没収!」

フィンはお姉さんになにやら怒られているみたいだ。

「これはイグニのお金だよね?お姉ちゃん」

うっ。とうめき声を上げながらお姉さんは俺に向き直った。

「イグニさん。でしたか?私はエルロ。この度はありがとうございます。どうかよろしくお願いします」

身振り手振りで自己紹介かな?

フィンがお姉さんを指指して『エルロ。エルロ』と言ってるな。なるほど。

お姉さんはペコリと顔を赤くしながらお辞儀をしてくれた。


―エルロが名前みたいだ。よろしくお願いします!(グェア~!)


お姉さん。改めエルロがビクッとしていたよ。反応が楽しい人だな。

何はともあれ滞在許可は下りたかな。良かった良かった。しかしあの野犬て売れるのか?


―見つけたら狩っておくかな?


































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