第4話 成長する

生まれて17日目。

命がらがら生きて戻った翌日。

兄弟達はイタチモドキをキレイに平らげていた。間に合ったようだ。良かった。


さて、今日からどうしよう?ダメージがでかかったからな?動けるか?

キズついた身体を起こしてみた。俺の身体はあっさりと立ち上がった。


あれ、痛みないし?どうなってんの?

視界も両目共に回復してるし?なんなの?


巣穴から出て両腕を伸ばしてみた。完全に折れていたハズなんだが?

キレイに両翼は伸びて、失っていた羽根も復活していた。


なんだ?回復してるじゃん!やっぱり俺って強い鳥なのかも!これだったら狩りに行ける!どうだ兄弟達!すごいだろう?


兄弟達はキュウキュウ鳴いて褒めてくれた!末っ子だがお兄ちゃんと呼ぶように!


―で?誰が妹になるんだ?



◆◆◆



再び狩りに出る。あの戦法はかなり効果あるみたいだ。崖の際で背後の林に背中を向けて待つ。


さぁ来い!父ちゃん母ちゃん直伝の落下殺しを味わいたい奴は居ないのか!


―体長120センチ。野犬モドキ来た。


あいつらアホだから飛び出して来るんだよ。しかも崖手前で勢いを殺すんだよ。


俺はそれを何なく捕まえて崖下に身を投じる。


一度獲物を離して体勢を上昇気流で整えると再び捕まえて、崖の側面に叩きつける。意識が朦朧としてる内に再び捕まえて大樹に叩きつけた。


まだ息あるのか?でもすまんな。

お前も家族持ちかも知れないけどさ?

俺もなんだよ。どうしても守りたいんだよ。


俺は虫の息の野犬モドキの首に齧りつくと、骨を噛み砕いた…。



◆◆◆



生まれて20日目。

今日は訓練を兼ねて、森の中で狩りをする。フクロウのように見晴らしの良い場所の木の上を陣取る。襲撃ポイントにはイタチモドキの肉片。

気配をスナイパーのように殺して網に掛かるのを待つ。焦れたら負けだ。


一時間、二時間…。


―来た!


獲物は1メートル程の猿のような動物。

焦れるな。焦れるなよ?隙を見せるまで待つんだ。

肉片を獲物が拾おうと手を伸ばした。


―今!!


その瞬間枝を蹴る!しかし、獲物は即座に反応してみせた。


―マジでか!?


避けられる?もっとスピードがいる!もっと速く!はやく!!


―願う。


願えば叶う。そんな訳はない。なのに強く願った!


ズクンと身体が跳ねたような感じがした。気が付いたら俺の爪は猿モドキの首の半ばまで切り裂いていた。


届いてるのか。間違いなく爪の範囲から飛び退いていたのにか。猿モドキがつまづいた?

奴がミスったって事か?

そんな様子は見受けられなかったのにな?


まぁいい。獲物は手に入れた。

兄弟達のもとに帰ろう。


命の尽きた獲物を咥えると踵をかえす。

俺の両翼から黒い光の粒子が舞い散った。



◆◆◆



生まれて25日目。

兄弟達は羽ばたきの準備をしていた。

巣立ちも近いって事か…。

嬉しくもあり、寂しくもある。

兄弟達に栄養つけさせないとな!



◆◆◆



今日も崖際で狩りをする。

だけど釣れたのは自分より大きな鷲モドキだった。

恐らく翼を広げると5メートルはある。

自分の倍の大きさの相手だった。

しかも得体の知れない異様な雰囲気をしていた。


しまった!兄弟達の敵を呼び寄せてしまったぞ?またも間抜けな失敗だ!

この辺りを縄張りにされたら、

巣立ち出来なくなる!殺すしかない。


だけど何なんだこの雰囲気?身体中がピリピリと警報を鳴らしている?初めて感じる恐怖に『逃げる』を選択をしそうなるがそう言う訳にもいかない。


どうする?ドッグファイトじゃ間違いなく勝てない!勝てるとしたらどこだ?


視界には林がある。自分にも危険があるがそこしか勝ち目は無かった…。


林の中に駆け込んだ。


どうだ!

身体と翼が大きい分ついてこれないだろう!このまま回り込んで首をへし折ってやる!


自分の身体ギリギリの隙間を何度も通り抜ける。背後の気配を感じながら隙を伺う。

しかし、気配はすぐ後ろまで迫っていた。


―どうやって!?


後ろを見た。有り得なかった。

あいつは足から体色と同じ光る茶色の粒子を撒き散らしながら、

『空中』を蹴っていた!

地上2メートル辺りの一番障害物の少ない空間を蹴り進んでいる?


何なんだソレ!チートじゃないか!


ワシモドキが咆哮する!

次の瞬間、奴の口から粒子の散弾が撒き散らされた!


―なっ!?


身体に3発。頭を掠める1発…。

意識が朦朧としてるよ…。

身体が宙に浮いてる…。

多分ヤツが俺が死んだと思って咥えあげたんだと思う…。

巣に持ち帰るつもりだな…?

もしかすると子供でも居るのか…?

すまんな兄弟達…。

多分帰れないや…。


………。


気が付いたらヤツの巣の中にいた。

目だけで周りを確認する。

まだ林の中だ。

くそっ!林の中の戦闘はヤツの十八番おはこだったか!

キズの具合から言って、

大して時間はたってないな。

子供は居なかった。

ヤツの腹の中に収まるのか。


―ぐぁっ!


背中の肉を齧られた!

なんてタイミングで目を覚ましちゃうかな!


―喰われる!


なんか反撃する方法を見つけ…ない…と…?


―見つけた…。


―見つけた。見つけたよ…。


―見間違える訳ない…。


ヤツの巣の中にオモチャのように食い散らかされた父ちゃんと母ちゃんの羽根を見た。

真っ白な羽根だけど、見間違えるものか!


―ずっとその下で守って貰ってたんだから。


また齧られた。

でも怒りで痛みは感じなかった…。

死ねない!何とかしやがれ!


違う咆哮が聞こえたて来た。

ヤツが警戒している。

熊のようなシルエットが見える。

俺から離れて行く。

今しかない!動くんだよ!


―動けぇっ!!!!


傷口から黒い粒子が立ち上る!キズ口を再生しているように纏わりついていた!

身体に活力がみなぎる!


―行ける!


俺は父ちゃんと母ちゃんの羽根を二枚咥えると、自分の感覚を頼りにしながら。


―引き摺るように歩きだした。










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