第3話 初めての狩りへ

生まれて10日目。

兄弟達もすっかり鳥らしくなってきた。

声もピィピィからキュウキュウに変わって来たんだよ。うん。しっかり食べて俺のように大きくなりなさい。

そう言えば俺、体長が1メートル位に大きくなったんだ!なんかね?巣穴が窮屈なんだよ。兄弟達は30センチ位なんだよな。

父ちゃんと母ちゃんは多分50センチ位。

顔付きもまったく違うんだ。でも、血は繋がらなくても家族だよな!

母ちゃん。俺を包卵しようとしても駄目だって!もう身体は父ちゃんと母ちゃんよりおっきくなってんだからさ!



◆◆◆



生まれて13日目。

父ちゃんと母ちゃんが丸1日帰って来ない。

これはおかしい?どうしたんだよ?

事故かなにかか?

早く帰って来てくれよ…?



◆◆◆



生まれて15日目。

父ちゃんと母ちゃんは帰って来ない。

異常事態だ。

兄弟達はかなり衰弱していた。

このままでは不味い。

幸い俺は何故かまだまだ余力がある。

ウサギみたいな小動物なら行けるか?

このまま黙ってる訳にはいかなかった。

兄弟達。ちょっと明日出掛けて来る。

何とか食べ物を確保しないと

兄弟達は死んでしまう…。


―やるしかない!


◆◆◆



生まれて16日目

朝日が昇り渓谷を照らして行く。

とうとう、

父ちゃんと母ちゃんは戻って来なかった。

もう戻って来ることは無いだろうな…。

巣穴を出る。

この巨木は崖下より崖上の方が近いんだ。

目指すなら上。

葉っぱの要塞を抜けると幹を伝って崖を目指す。岩肌まで後3メートル程の所までたどり着いた時、下から突き上げるような風を感じた!身体が浮きそうになる!


なんだこれ!岩肌近くは上昇気流があるのか?爪が無かったら飛ばされてたかも?


―飛ばされる?


俺、鳥だよな!

好都合じゃん。でも帰りはどうしよう…?

いや、今は食べ物の確保だ。

帰りは何とかするさ!

じゃないと兄弟達は死んじまう!

見捨てる事なんか出来るか!

覚悟を決めろ!行くぞ!

俺は鳥!俺は飛べる!俺が兄弟達を救う!


―3・2・1・飛ぶっ!!


木の幹から爪を離す。

一瞬の内に身体は舞い上がった!

何とか翼と尾羽を広げて風を掴む。

気がついたら、

崖上のさらに上空まで到達していた!


ヤバい!高過ぎだ!下へ行かないと不味い!

どうすれば良いんだよ!どんどん高度が増してる!

めちゃくちゃ怖え~!!

バランスが崩れる!?死ぬ!?


空中に投げだされ、

翼を閉じるのすら忘れてじたばたともがく。

その時、顔に朝日がぶつかった。

思わず顔を上げる…。


―あっ?浮島の影から出たんだ…?


凄かったね!怖いの忘れてたよ!

めっちや幻想的な光景だよ…。

そうか。これが空を飛ぶって事か…?

また来よう。俺は鳥なんだから。

今はやるべき事があるだろ?


顔を上に上げると何故かバランスが戻って来た。翼を開いたり閉じたりして、不様ではあるが、崖上に転がりながら着地した。


やれば出来るじゃん俺!

さてやるぞ!食べ物どこだ?確保するぞ!


そう意気込んだ瞬間、イタチのような動物に襲われた。林の中から飛び出して来たのを広い視界が捉えていた。


うぇっ?着地を狙われてたのかよ!?

ヤバい!首筋か!


俺はギリギリの所で両翼の爪でガードする。

生えたばかりの羽根が飛び散った。

そのまま後ろへ巴投げのように放り出した。


そうだった!俺も補食対象じゃん!ヤバいヤバい!?当たり前の事を忘れてた!ばかなのか俺はぁ~!!


相手を確認する。大きさは俺と同じくらいか?胴の長いイタチ。だけどしっぽに刺がある?毒があるとヤバいな?どうする?どう殺る?睨みあったまま膠着していた。


―動かない?


ハッと気付いた俺は横っ跳びした!

そうだった!狩りの基本はオトリと攻撃役だよ!野生舐めきってた!

俺はスナイパーのように動かなきゃいけなかったんだ!

また生えたばかりの羽根が宙を舞う。尾の刺の一撃!やっぱりまだ居たのか!

何匹いる!どう動けば良い?

逃げるしかない!逃がしてくれるのか!?

その時3匹目のイタチモドキが右手の小雨覆しょうあまおおいと言われている手の部分に後ろから噛みついていた!


いてぇっ!やられた!完全にミスった!


視界には他の2匹も飛び掛からんと、

地を蹴っているのが見えた!

時間が止まったかのように緩やかに流れる。


死ぬ?ここで?駄目だ!

死ねない!生きて兄弟達と巣立ちするんだ!


―父ちゃん?母ちゃん?


なんだか父ちゃんと母ちゃんに背中を押された気がした。今も目に焼き付いている。あの蛇を狩った鮮やかな姿が!

知らず知らずに崖に身を踊らしていた。

崖下から吹き上がる風に乗ってクルクルと独楽のように回転しながらイタチモドキと俺は舞い上がった。

俺は左手の爪をイタチモドキの眼球に突き刺すとそのまま一気に下降した。

向かうは兄弟達の待つあの大樹だ!


更に牙を食いつかせて来たか!良いぜ!

どっちが頑丈か勝負だよ!


1羽と1匹はそのまま大樹へと激突したのだった…。


あぅっ?生きてるのか?

まったく無茶苦茶だよな?

イタチモドキはどうした?!


イタチモドキは死んでいた。

勝ったのは俺みたいだな…。よし!

あれ?身体がおかしいぞ?片目も見えないしさ?両羽根動かないや。まずった!

でも生きて食べ物も持ち帰った。

とりあえずは我が家に帰ろう。

そうだ。我が家だよ。


―この世界の俺のホームだ。










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