朝起きると、世界が滅亡していた
ありあす
第1話
朝起きると世界が滅んでいた。
確証はないけれどおそらく滅んでいる気がする。
とりあえず、僕の寝ていたベッドの周り、目に入る範囲は見事なまでに荒野と変わっていた。
「……もう一回寝るか」
多分夢だろう。
起きたらまたつまらない日常に戻るに決まっているのだ。
こんな事はありえないに決まっている。
いやー、こんな夢を見るなんて映画でも見過ぎたかな。
「うん、変わってないね」
再び起きたものの、まだ世界は滅んでいるようだった。
見渡す限りどこまでも荒野、荒野、荒野。
こうなったらしょうがない。
「よし、決めた」
僕は迷うことなく、三度寝を選んだ。
「もう無理だ、眠くない」
目がもうギンギンである。
夢の中で夢を見ているとかいうたまにあるパターンのやつかと思ったが、それも違ったらしい。
しょうがない、こうなったら前向きに考えよう。
婆ちゃんもよく「お前のいいところはいつでもポジティブなとこだねえ」なんて言っていた。
「うーん……そうだな」
ベッドの上で胡座をかきつつ考えていると、ふと枕元に置いてあったスマートフォンが目に入る。
そうだ、何か連絡が来ていたかもしれない。
僕はスマートフォンを起動してみることにした。
「お、やっぱりメールが……うわ!」
予想通りではあったが、予想外。
とんでもない量、もう本当にとんでもない量のメールが届いていた。
最初の方から見ていく事にする。
『貸してたゲーム返せよ』
「……これは関係ないな」
よし次行こう、次。
読んでみるといつもの雑談が多いな。
適当に先の方へ進めてみよう。
「おや、これは関係ありそうだな」
『警報出たけど大丈夫?』
『返事ないけど、お前もしかして気付いてない?』
え、警報出たってそれで起きなかったの僕。深く眠り過ぎなのでは。
どういう奇跡か知らないけども、この奇跡のベッド空間にいなかったら死んでたよね。
冷や汗を流しながらも続きを読んでいく。
「友人らからの連絡は止まってるな。続きは政府からの一斉メールか」
『世界滅亡ミサイルが発射されました。シェルターは機能しません。悔いのない様に最後を生きてください』
「……世界滅亡ミサイルってなに!?」
同じ内容のメールが繰り返し何十通と送られてきていた。
政府のメールはもう無視し、別のメールを探して見ることにすると宗教勧誘を大量に発見する。
『神を信じた者だけが救われます』
『神を信じた者だけが天国へ迎えます』
『今神を信じると何らかの御加護が付いてきます』
『なんと本宗教では今だけ信仰五十パーセントオフで良いことが!?』
死を目前に宗教勧誘争いが激しくなっているのが分かる。
もう途中からは通販なのかこれは。
手段を選ばない感じが逆に好感を持てる、というか面白そうだ。
「勧誘ほんと多いな……どこまで続くんだ……ん、親父からだ」
研究室にいつも篭り、家を空けてばかりの研究馬鹿、そんな親父から珍しくメールが届いていた。
親父よ、貴方が家にいるような親だったら僕を起こしてくれていたろうに。
早くに亡くなった母に代わり、一人で育ててくれた事には感謝してくれているけどさ。
「えっと、内容は……」
『前から開発してた地球滅亡ミサイルが発射されちゃった⭐︎』
おっと、三十秒ほど気を失っていた気がする。
ちょっと見間違えたみたいだから読み返してみよう。
同じかな? うん同じだね。
「は、そういえば……」
突如起こるフラッシュバック。
思い出す、珍しく一緒にお家で食べた夕ご飯。
確かあの時のご飯はレンジで温めたハンバーグ。
お湯を入れるだけの味噌汁も確かあった。
意外とこの味噌汁が味噌の風味がよく出ていて──
「って、違うそうじゃない。思い出したいのは会話だ」
あの食事の時に確か。
『ねえ、親父って一体なんの研究してるの?』
『お? 父さんはなー、地球滅亡ミサイルっていうのを作ってるんだぞー』
『なんだよその変なの。ちゃんと仕事やってるの?』
『ははは、本当だぞー。危ないもんだけどついつい研究が止まらなくってなー』
冗談かと思っていたけど本当だったのか。
なにやってんだよ親父、完全にマッドサイエンティストだよ。
あれ、親父が作ったとなるとまさか僕が生き残ってるのって親父が何かしたのか?
メールには続きがあるし読んでみよう。
『ミサイルは発射されたが大丈夫、安心しろ。お前のベッドにはある仕掛けをしておいた。聞きたいか? 俺の天才振りにはもう驚くぞ? 聞きたいなら返信したら教えてやるぞ』
やっぱり親父がベッドに何かしたのか。
というか、なんて面倒なこと書いてるんだ親父。
こんなやつだったか親父。
さては近づいてくる死に自分が怖くなって変なテンションだな親父。
「というか僕、寝てたから返事返してないんだけどどうしよう……あれ、まだ何通か親父からきてるな」
『気にならないのか?』
『実は気になってるんだろう?』
『聞きたいです、とちょっと送るだけで楽になれるぞ?』
もう出会えないであろう親父にこんなにドン引きしたくなかったよ。
なんというかもう気持ち悪いよ。
痺れ切れてる頃だろうし、次あたりちゃんと送ってくるよな。
『お前も恥ずかしい年頃だもんな。父さんはそういうの理解あるからな。ちゃんと教えてやるとしよう。実はお前のベッドは並行世界への転移装置となっているんだ。起動スイッチは父さんが押しておいた、気がつけばお前は何も変わらないいつもの部屋の中ってわけさ』
へー、転移装置でいつもの部屋か。
どう見てもここ荒野の中なんだけど。
荒野の中にベッドがポツンと置いてあるよ。
「もしかして、同じように地球滅亡ミサイルが落ちた並行世界に来ちゃったんじゃないのか……このベッドもう一回転移できないのかな」
ベッドから降り、ベッドの下の方を見てみると沢山のスイッチやレバーが見つかった。
スイッチとレバーにはそれぞれアルファベットが一、二文字ずつ振ってある。
操作方法がまるで分からないので適当に触ってみる事にした。
『ぴぴー、次に入力を間違えると爆発します』
「……!?」
シビア過ぎるだろこの機械。
適当に触るのはもうダメだな。
そうだメール、親父からまだ何か来てないのか。
フォルダを開くともう一通、親父からの最後のメールが来ていた。
『もしかすると、転移先も地球滅亡ミサイルにやられた世界という可能性もある。その為に、転移ベッドの使用法を書き残しておこうと思う。説明は長くなりそうだから、次のメールにまとめて送るぞ』
「最後のメールなんだよ親父ぃ!」
多分だけどメール書いてる途中でミサイル来ちゃったなこれ。
返信したら教えるぞとかやってるから時間足りなくなるんだよバカ親父。
「どうやら、本当にダメみたいだな……」
諦めかけたその時だった。
「おーい!」
遠くから声が聞こえてきた。
僕ははじめ、幻聴かと思ったがはっきりと聞こえてくる。
声の主の元へ僕は走った。
「ねえ、君はこの世界の生き残りなのか?」
声の主はフードを被っていて顔が見えない。
日から隠れる場所がまるでないので、直射日光から身を守るためのものだろう。
「まさか、地球滅亡ミサイルから隠れる手段なんてないよ。移転ベッド以外ではね」
聞き覚えのある声だった。
というよりもいつも聞いている声だ。
彼はフードを取り、その顔を僕へ見せる。
「君の世界は随分と地球滅亡ミサイルの発射が遅かったんだね」
「お前は……僕……!」
僕自身がそこにはいた。
同じ顔に同じ声。
髪や髭は多少伸びているが正しく僕だった。
「ようこそ、“僕の集まる世界”へ──」
そして僕はこの世界で、沢山の僕と出会う事になるのである。
朝起きると、世界が滅亡していた ありあす @ariren
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