2022/01/12
2022/01/12
「心ときめくのが悪い事な訳はないでしょ」
『さぁこれからどう揶揄ってやらうか』
口下手な分、其の顔相はきちりと能弁な彼である。
「…余裕の発言ですこと」
野の畜生にも負けず劣らず帰すべき巣を心得た私が外をふらつく事に欠片の嫉妬も見せない所は何とも頼もしい。逆恨みも良いところと自覚しつつ不満を覚える程、泰然とした面の裏に浮く青筋に気付かないでもないのだが。
「まぁ…此れはそう言うのとも違うだろうよ」
「ふぅん?」
『おぉ、お得意の言い訳ですか』
「取り敢えずその鬱陶しい副音声切ってくんねぇか」
そう、此れは多分違う。精々が、情動に錆び付きの有無を確かめる為の試運転に過ぎないだろうと考えている。要所に油を一差し、原動機に点火して動力の伝達や歯車の噛み合わせを見てみただけ。高鳴る拍動にも、差し当たっての不具合は見えなかった。
「三十路の峠だ、不意の動悸に耐えられるか見ただけさ」
不意の時に取り乱すのもみっともない、心臓にも支度は必要だ。
「まぁその言い訳がもう大分みっともないけどね」
それ言うなよ…
「何にせよ慕情を楽しむ余裕は未だ持ち合わせが有るらしい、そう知れて良かった」
それで終いにしておきたい話だ。余計な事を宣って周囲から生温かな目で見られでもすれば羞恥で転げ回るぞ。
「…」
「…何よ?」
「相変わらず下っ手くそに生きてるねぇ…」
「放っとけ!」
難儀もまた楽しめなけりゃあ愈々身を投げるに差障りが無くなる。
日記、始めました 小島秋人 @KADMON
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