【4-2】皮算用 下
【第4章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428756334954
【地図】 航跡 ヴァナヘイム国編
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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帝国暦383年5月下旬、敵国首都という未踏の臓腑への渇望に、獣心を
議論は、王都における略奪の順番にとどまらなかった。これまで占領した諸都市とその領土のうち、東都のネムグラン=オーラム上級大将より「切り取り自由」とされた分の割り当てにまで及んだ。
「ヨータの街は、ビレー将軍の差配に任せるということで」
参謀長・コナン=モアナ新准将が
「いやいや、グラシルもビレー将軍が治めると言っていたではないか。ヨータはブレゴン将軍に譲るべきだろう」
前者の提案に先任参謀・アラン=ニームド新中佐が包帯の巻かれた首をゆっくり縦に振ると、後者の意見に参謀・フォウォレ=バロル大尉が片手を眼鏡に添えながら力強くうなずく。
あろうことか、ブリクリウ大将が送り込んだ子飼いの将校たちまで、ブレゴン・ビレー両派に別れて仲間割れを助長している始末である。
この3日間、軍議の場において両派は対立し、結論を出しえないでいる。
四将軍の手柄は、先任参謀であったセラ=レイス少佐の作戦によるところが大きかった。だが、右翼の一部隊へ追いやられた小賢しい若造の功績など、念頭にある者はこの場にいない。
くどいようだが、一番乗りの栄光は、手つかずの敵城の略奪が思いのままであることを意味する。それはすなわち、莫大な富の独占と同義であった。
帝国軍は国法で略奪を戒めていたが、有名無実となって久しい。現・帝国宰相ネムグラン=オーラム――東征軍オーナー・アルイル=オーラムの父――も、若かりし頃、占領地の略奪によって得た富を次々と中央の有力者に贈り、立身出世の足がかりを築いたとされる。
もっとも、この度の遠征では、どの貴族も重い軍役を担って参加している。莫大な戦費を負担して従軍した彼らが、戦後の報酬を期待するのも無理からぬことであった。
「……」
東征軍総司令官に留任したズフタフ=アトロン大将は、両派の対立を戒めず、かつ片方へ積極的に加担する姿勢を示さなかった。
それは、ブリクリウ派閥の内輪もめに手をこまねいていたのではなく、将軍たちの抱える切実な事情を
ここに至って帝国軍有利の戦局は覆りようもない。
戦後、無用な争いを起こすよりも、今のうちにある程度議論を尽くした方が良い――膿を出し切っておいた方が良い――とも、老将アトロンは考えたのである。
こうして、「懲罰人事」に続いて、「戦後の皮算用」により、完全勝利の一歩手前まで来て、帝国東征軍の前進は停止したのであった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ビレー将軍一派に加担される方、
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【予 告】
次回、「任命式 上」お楽しみに。
「今日より貴様が我が国の将兵10万の総指揮を執れ」
5月10日、ヴァナヘイム国王都ノーアトゥーンの宮殿内・
本編では、いよいよヴァナヘイム国のフェイズに移ります。
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