【11-1】閉塞の朝 上
【第11章 登場人物】
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車体がひときわ大きく沈んだ。
深い
はずみで
周囲にはわずかに
この見なれた風景は、いつの間にか目的地近くにさしかかっていることを意味している。
遠雷のように聞こえてくるのは、砲声だろう。いま雷雨など受けたらひとたまりもない。
馬車は士官用の駐車スペースに入り、停止した。御者に何度目かの声をかけられ、レイスはしぶしぶ半身だけ起こす。
既に部下たちは荷台から降り、背中や腕、足など、思い思いの場所を伸ばしていた。伸脚するアレン=カムハルの横で、アシイン=ゴウラは腕立て伏せをやり込んでいる。
「曲がってしまってますぅ……」
足下からは、ニアム=レクレナの悲痛な声が響いてくる。先ほどの轍で、ついに車軸がひん曲がったのだろう。
砲声は、いつの間にか過ぎ去っていた。
とても長い夢を見ていたような気がする。だが、眠っていたのはほんの
幌はあちこちがほつれ、朝陽がそこかしこから漏れている。3度の飯よりも昼寝が好きな彼でも、こんなおんぼろ馬車では熟睡できるはずがない。
紅毛の将校は、
停車場には、総司令部お歴々の
周囲のきらびやかな車両のなかでは、彼が愛用しているこの中古の馬車など、乗用というよりも農耕用といった方がふさわしい。車軸が折れただのと薄汚れた女性士官が嘆いていると、
レイスはひと呼吸置くと、荷台から勢いよく飛び降りた。そのまま、褐色の地面を軍靴で踏みつけ、力強く進んでいく。
駐車スペースを抜けるとすぐに軍門に行き当たった。門の左右には、丸太でつくられた防護柵と金属製の防弾盾が延々と続いている。
紅毛の将校一行の姿を認めた警備兵たちは、姿勢を正し敬礼する。
「……」
眉間にしわを寄せ、キイルタ=トラフがそこへ足を向けようとするが、無用とばかりにレイスは彼女の肩を軽く叩く。
空は灰色ながら、太陽はその色を強めている。
今日も暑くなるだろう。
【作者からのお願い】
物語の時間軸では、「序章」の朝――その続きに戻ってきました。
序
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この先も「航跡」は続いていきます。
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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「閉塞の朝 中」お楽しみに。
室内では、東部方面軍総司令官ズフタフ=アトロン大将以下、幕僚たちが勢ぞろいしていた。
老将軍はいつもどおり眼を閉じ、姿勢を正して着座している。
他の列席者は、タバコをくゆらせて隣席どうし話をする者、従卒の淹れたコーヒーをすする者、それぞれであった。
天井付近に厚くただようタバコの煙は、室内の空気の澱みへ拍車をかけているように感じられた。
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