【11-1】閉塞の朝 上

【第11章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139554817222605

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 車体がひときわ大きく沈んだ。


 深いわだちに車輪をとられたようだ。速度は著しく落ちたものの、馬車はかろうじて前進を続けている。


 はずみでほこりが顔にかかった。頭上を覆うほろが崩れ落ちやしまいか、セラ=レイスは薄目を開ける。


 周囲にはわずかに灌木かんぼくがみとめられるだけで、淡い褐色かっしょくの岩が、小高い山をそこかしこに形成していた。


 この見なれた風景は、いつの間にか目的地近くにさしかかっていることを意味している。


 遠雷のように聞こえてくるのは、砲声だろう。いま雷雨など受けたらひとたまりもない。



 馬車は士官用の駐車スペースに入り、停止した。御者に何度目かの声をかけられ、レイスはしぶしぶ半身だけ起こす。


 既に部下たちは荷台から降り、背中や腕、足など、思い思いの場所を伸ばしていた。伸脚するアレン=カムハルの横で、アシイン=ゴウラは腕立て伏せをやり込んでいる。


「曲がってしまってますぅ……」

 足下からは、ニアム=レクレナの悲痛な声が響いてくる。先ほどの轍で、ついに車軸がひん曲がったのだろう。



 砲声は、いつの間にか過ぎ去っていた。


 とても長い夢を見ていたような気がする。だが、眠っていたのはほんのわずかな間だけだったようだ。


 幌はあちこちがほつれ、朝陽がそこかしこから漏れている。3度の飯よりも昼寝が好きな彼でも、こんなおんぼろ馬車では熟睡できるはずがない。


 紅毛の将校は、もやのかかった視線をもう一度車外に向けた。


 停車場には、総司令部お歴々の絢爛けんらんな馬車が数多あまた止まっている。


 周囲のきらびやかな車両のなかでは、彼が愛用しているこの中古の馬車など、乗用というよりも農耕用といった方がふさわしい。車軸が折れただのと薄汚れた女性士官が嘆いていると、みじめさに磨きがかかる。



 レイスはひと呼吸置くと、荷台から勢いよく飛び降りた。そのまま、褐色の地面を軍靴で踏みつけ、力強く進んでいく。


 駐車スペースを抜けるとすぐに軍門に行き当たった。門の左右には、丸太でつくられた防護柵と金属製の防弾盾が延々と続いている。



 紅毛の将校一行の姿を認めた警備兵たちは、姿勢を正し敬礼する。


 立哨りっしょうしている者は、背筋を伸ばしていた。しかし、背後の詰所では、兵士たちがだらしなく座りこみ、談笑している。


「……」

 眉間にしわを寄せ、キイルタ=トラフがそこへ足を向けようとするが、無用とばかりにレイスは彼女の肩を軽く叩く。



 空は灰色ながら、太陽はその色を強めている。



 今日も暑くなるだろう。







【作者からのお願い】

物語の時間軸では、「序章」の朝――その続きに戻ってきました。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816452221247529836


この先も「航跡」は続いていきます。


暑そうなうえに雰囲気もなんだか重く……朝らしい爽快感が感じられないな、と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「閉塞の朝 中」お楽しみに。


室内では、東部方面軍総司令官ズフタフ=アトロン大将以下、幕僚たちが勢ぞろいしていた。


老将軍はいつもどおり眼を閉じ、姿勢を正して着座している。

他の列席者は、タバコをくゆらせて隣席どうし話をする者、従卒の淹れたコーヒーをすする者、それぞれであった。


天井付近に厚くただようタバコの煙は、室内の空気の澱みへ拍車をかけているように感じられた。

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