【8-1】炎暑 上

【第8章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429051123044

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 帝国暦383年7月15日、帝国軍とヴァナヘイム軍がにらみ合うイェロヴェリル平原は、盛夏に包まれていた。


 太陽の光は容赦なく地上に降り注ぐ。風はなく湿気をもった空気はよどみ、そこかしこで陽炎かげろうが見られた。


 イエロベリルの地は、広大な平野が広がるものの、高原ではない。


 うんと俯瞰ふかんして地相を眺めるに、周囲はぐるりと山に囲まれていることが分かる。地形的には広大な盆地なのである。



 ヴァナヘイム国大盆地の夏である。王都・ノーアトゥーンで生まれ育った者たちも、連日40度を超す暑さには閉口する。


 帝国との戦争がなければ、この灼熱しゃくねつの季節に至ると、貴族たちはここから北東へ300キロ、高原の街・ギャラールの別邸へと移住するのであった。



 従卒の大きな団扇うちわに煽られながら、帝国東征軍の右翼を束ねるエイグン=ビレー中将は、麾下の指揮官たちに伝えた。

「長らく待たせてしまったが、けいらも配置換えに移ってもらう」


 安堵と疲労が入り混じった吐息が、一斉に室内に満ちた。


 接収した村落の家に、いまも帝国軍右翼の軍団司令部が置かれているが、広くもない室内に各隊指揮官が集うと、よりいっそう息が詰まる。



 帝国軍は、気の早い論功行賞を進めている間に勝機を逸した。


 彼らが戦後の分け前争いをしているうちに、ヴァナヘイム軍は守りを徹底的に固めてしまったのである。


 これでは、いかに兵馬の数と兵器の質に勝る帝国軍といえども、簡単に突破することはできない。


 室内に集った将校たちは、誰も口にこそしていないが、自分たちが悪手を打ったとの認識は少なからず持ち得ているはずだ。



 だが、だからどうしたというのだ、時計の針を戻すことは出来ない。


 帝国軍勝勢は覆しようもない。気候が落ち着いたら、一挙に寄せ切ってしまえばいいのだ。



 しかし、帝国軍にとって芳しくない状況は重なる。

 

 ここに来て、敵の騎兵部隊が各所に暗躍していた。


 橋を落とし、トンネルを崩すなど輸送路を塞ぐばかりか、帝国軍の輜重隊しちょうたいを次々と襲っては潰滅させている。


 そのため帝国各隊では、食糧の窮乏が相次いでいた。


 それに加えて、毎日のように降りそそぐこの強烈な日差し――。


 当初は、論功行賞のため自主的に進軍を止めていた帝国軍だったが、いつの間にか、身動きの取りようのない状態に陥っていたのである。



「閣下、お待ちください――」


 狭い室内の空気と同じく、軍議の流れも滞留した。それらをかき回すかのように立ち上がったのは、「レディ・アトロン」こと、第3連隊指揮官・エリウ=アトロン大佐であった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


イエロヴェリル平原の酷暑に耐えられそうにない方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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(秋山はあっという間に夏バテになりそうです)。


レディ・アトロンたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「炎暑 下」お楽しみに。


狭い室内に滞留した空気をかき回すかのように、第3連隊指揮官エリウ=アトロン大佐が立ち上がった。

「――各隊がこれ以上散らばってしまっては、布陣の意味をなさなくなります」


「では、この炎天下、貴官の隊は遮蔽物のない平原にとどまるか」

ビレー中将は突き放すような口調で応じた。

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