第6話 万々
「童貞の枯木君――」
「何故に断定なのでしょうか?」
「答えさせるのが忍びないという私の心遣いよ」
「……ありがとうございます」
目の前に見える山脈の頂には、未だ雪が名残惜しそうにその姿を誇張している
けれど 夕暮れ時の風は 夏を運ぶようになってきていた
「やりたい?」
「直球ですね」
「素直に答えて頂戴」
「やりたくないと言えば、嘘になります」
「よかったわ。おめでとう」
「と、言うと……?」
「今日から君は、晴れて副部長よ」
「この流れで、どうして役職の話になるのでしょうか?」
「先日の話の続きだからよ」
「そう、ですか……」
「なにせ、部員は私と貴方だけなのだから」
「僕としては、先輩の要望に答えたい気持ちは十分にあるのですが――」
「決まりね」
面倒臭そうなものと関わらないことを信条としている僕は 断っていたわけだ
「部員、増やさないんですか?」
「私と二人きりなのが嫌なのかしら?」
先輩は 艶やかな髪を弄ぶ
「そんなことはありませんが」
「じゃあ、やらせてあげる」
「真情を申しますと、やりたくありません」
「私とやりたくないなんて、貴方、もしかしてゲ――」
「違います。そして、話が変わってます」
「それぐらい柔軟な対応が求められる役なのよ」
「部長(先輩)に対して、ですよね? 仕方ないです。名ばかりで良ければやります」
「やっぱりやりたかったんじゃない」
クスリと笑う先輩
「……何かしなければならないことはありますか?」
「足の指の間を舐めて頂戴」
「只今を以って、副部長の任を――」
「冗談よ」
「真顔で言わないでください」
「私の冗談は、いつだって本気よ」
「解釈しきれません」
「頭で理解しようとしては駄目」
「心で感じろと?」
「いいえ、体で感じなさい」
「目線を下げないでください」
「腰を引かないで頂戴」
「……」
そうして 先輩は今日も本を読む
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