第3話 瑣事

「狭いわ」


 入ってくるなり 腰に手を当てる先輩は言った


「そうですか? 僕と先輩だけなんですから、問題ない広さじゃないですか?」


 部室 と言っても 使われなくなった資料室

 ガラス引き戸とスチール引き戸が一体となった書類棚

 大きめの事務机が一台

 パイプ椅子が三脚ある空間


「地球が私には手狭なのよ」


「随分と大きく出ましたね」


「分相応という言葉を知らないのかしら?」


「……なるほど」


「枯木君。目に落ち着きがないわ」


 先輩のスタイルの良さに眼球が自然と仕事している


「先輩、宇宙にでも住むんですか?」


「そうね。惑星が十個くらいあれば足りるかしらね」


「そんなに必要ですか?」


「当り前よ。静謐に暮らす為には、そのぐらいの数が必要だわ」


「管理が大変そうですね」


「夢がない質問ね。そんなだからタコ殴りに遭うのよ」


「…………え?」


「肩を揉んでくれるかしら?」


 腰掛けた先輩


「……はい」


 呆然としながらも命令に実直

 入れ替わりに立ち上がり 先輩の両肩に手を置く


「凝ってるでしょ?」


「そう……ですね」


 程よい弾力が伝わってきた

 繊細な肉質が 動悸を抑えてくれる


「どうでもいいことだけれど、枯木君は余計なところを硬く凝らさないようにね」


「……はい」


 それから といって 先輩は「大丈夫よ」と小さく言った

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