だいどころのわるつ (いずみあや作「二月の台所」より)
あめのにわ
だいどころのわるつ
どちらにしても おくさまがいなくなって
だんなさまはかわってしまった
ほおはこけ めはくぼみ ひょろりとやせて
どこをみているかわからぬ めつき
ぶつぶつとききとれないひとりごとをつぶやいたり
へやのなかをぐるぐるとあるきつづけたり
やしきのだいどころで だんなさまをめぐる
めしつかいおんなたちのうわさばなし
だんなさまは おくさまをなくされたの
ちりょうのかいなく ろうそくがきえるようにいのちがきえてしまった
おいしゃもてをつくしたけど むだだった
だんなさまのかなしみようといえば それはそれはふかかったの
いちねんかん もにふして くろいかーてんをとざし
さわやかなはれたはるのひでさえ おもてにいっぽもでなかった
あいしていたのねきっと なんてかなしいこと
いいえ なくされたのではないそうよ
わたしがきいたのはすこしちがうおはなし
おくさまは でていってしまったの
とつぜん ほのおのようにいかりだして
だんなさまはとめたけど きくみみもたず
はやうまのばしゃにのって かぜのようにおやしきをたちさった
なぜかって わからない せいかくのふいっちかなきっと
わたしは もっとおそろしいはなしをきいたわ
おくさまは ころされてしまった
ないふのひとさし どくやくのこびん くびまわりのあらなわ
なにをつかったか だれにもわからない
おくさまはくびをきられて ちかのそうこのたるのなか
いわしといっしょに あぶらづけになっているというわ
ろんどんでそんなじけんがあったのよ しんぶんでよんだわ
かますびしいおしゃべりおんなたち だいどころからでてゆき
はいってきたのは だんなさまと ひとりのわかいめしつかいのむすめ
とおくできこえるういんなわるつ
むすめは だんなさまとおどりはじめる
だんなさまはむすめのみみもとでささやく
おまえはなくしたものによくにている
いまわたしのうつろなあたまに ふさわしいのはおまえだけ
どうか わたしのものになってくれまいか
わたしのあたまに こころをとりもどしてくれないか
むすめはきこえないふりをしておどりつづける
わたしがだんなさまをうけいれたらどうだろう
めしつかいは いつまではたらいてもめしつかい
でもおくさまになれたなら どれすをきてやかいにでかけて
ほうせき こうすい うつくしく
じょうりゅうかいきゅうのなかまいりできるわきっと
いえいえ そんなにうまくゆくはずはない
めしつかいは いつまでたってもめしつかい
おくさまどころか つごうのいいおめかけさん
すきかってに もてあそばれて
そのうちこどもでもできたら はしたがねもらって おはらいばこ
どうなのだろう どちらなのだろう
わるつでふたりはまわる
むすめのこころもくるくるまわる
ふたりはおどりつづける いつまでもいつまでも
よはふけて それでもやむことなく
だいどころのわるつ (いずみあや作「二月の台所」より) あめのにわ @nankado
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