第3話 放課後にて。

 夕日が傾くにつれて、また寒くなってきた。

 困った。エアコンは壊れているし、暖房器具は妹に貸している。


 「寒い……」


 布団に潜ってはみたものの、まだ寒い。

 ここからゲームもやりづらいし…出ようか…でも寒い。


 「藍斗いる~?」


 自室の外からほのかが顔を覗かせている。

 幼馴染であるほのかは隣に住んでいるため、こうして俺の家に遊びに来ることが多々ある。


 「ここにいる~」


 布団から顔を出すと、ほのかはちょこちょこ寄ってきた。


 「この部屋凄く寒くない?」


 「エアコンが壊れてて」


 「ストーブとかは?」


 「妹に貸してる。だからこうして布団に潜ってるんだ」


 俺がゲームを一時停止して、再び布団に顔を埋める。


 「シスコンね」


 「それは…違う…」


 「なんで自信なさげなの?」


 クスクス、ほのかは楽しげに笑っている。

 今思えば、妹にストーブを貸したり、買い物付き合ったり、何か買ってあげたり、シスコンと呼ばれてもおかしくないじゃないか。

 でも俺はシスコンではない。


 「今日はどうしたんだ?」


 「遊びに来たに決まってるでしょ。それより寒いから、私も布団に入れて」


 ほのかは片足を、俺の布団に入れてくる。

 基本的に素直じゃないくせに、こういったことは普通にしてくる。

 俺は焦った。


 「入るな、入るな」


 「何で!良いでしょ!」


 「女の子なんだから、恥じらいを持ちなさい!」


 「何今更照れてんの!幼馴染みなんだから、良いでしょ!」


 「ちょっ、おまっ!」


 愉快そうなほのかは、完全に入ってきた。

 もそもそとベッドが揺れる。


 「あったか〜い」


 「近い、近い!」


 「何照れてるの〜?」


 ―――ガチャリ。


 部屋の扉が開く。


 「お兄ちゃん。ストーブ返すよ……おに、い…ちゃん?」


 扉の向こう、徐々に目を見張る妹がいた。

 俺とほのか、妹の菜月なつきの視線が交わされる。


 「はわわわ。じ、事後!?」


 「ちち、ちがーう!違うぞ、菜月!」


 「そそ、そうよ!私と藍斗がそんなことするわけないでしょ!」


 小刻みに震える妹。

 動転する俺と幼馴染み。

 部屋は完全にカオスとなっていた。

 しかし、普段からクールな菜月は兄の事になると熱くなる。この状況も例外ではない。

 菜月はストーブを扉の影に置くと、すぐにベッドに近寄った。


 「ほのかさん!早くお兄ちゃんから離れてください!」


 「何で?別にいいじゃん!変なことしてるわけじゃないんだから。それと、布団引っ張らないで。寒いから!」


 「年頃の女の人が、異性と布団に入るのは十分に変だと思います!不純です‼︎」


 「すーぐ、変なこと考える。これだから思春期は!思春期の菜月ちゃんは、エッチすぎ」


 「べべべ、別に変なことなんて考えてません!私はただ、家が不純異性交友の場にならないよう、阻止してるだけです!」


 「考えてる!自分で言っちゃってるじゃん!寒いから、私は布団に入ってるだけなの。小さい頃から入ってるんだし、今更良いじゃん」


 「幼馴染みだからといって、スキンシップが過ぎます。今ストーブを持ってきたので、そっちを利用してください」


 「それは嫌だよ。もう布団があったまってきたんだから」


 「離れてください。ぐぬぬ……お兄ちゃん!」


 「離して。もう!藍斗‼︎」


 やばい。

 これはニヤニヤが止まらん。

 なんだろう、この高揚感は。

 なんだろう、この言い知れぬ幸福感は。

 ダメだ!落ち着け俺!

 と、一人葛藤していると、あちらはあちらで事は進む。


 「埒が明きません。私と勝負してください!」


 「望むところよ!年上の力を見せてあげるわ!」


 この二人、本当は仲が良いんじゃないだろうか?


 

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幼馴染みは俺に夢中みたいだ。 羽宮羽斗 @hanemiyahaneto

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