5-4
「ルカ殿!」
ヒューバートの声でようやくルカは目を覚ました。先ほどの石窟ではなく、ハドロウズ支部のソファーの上だ。
起き掛けのルカの気分は最悪だった。吐き気などはもう感じなかったが、ルカは精神的に疲弊しきっていた。
(……やっぱり、ない)
あったはずの、兄との思い出の品――ブローチがなくなったことを再認識し、ルカの気分はさらに沈む。
「おはよーさん、またゲロるかと思ったけど、空間転移はもう慣れたみたいだな、順応性高いねえ」
隣で足をぶらぶらさせながら、リンドがそう皮肉気に言った。先ほどは裸足だったリンドだったが、どこからか調達して来たのか、革製のショートブーツを履いている。
「ご無事でなによりです……突然姿が消えてしまったものでしたから……」
ヒューバートは胸をなでおろしたように、そう息をついた。
「だから空間転移魔術だって言っただろ、わっかんねーなー」
「にわかには信じがたいんだよ、我々の常識にはないからね」
目を半目にしながら呆れているリンドに、ウェズリーは苦笑した。そんなウェズリーの方に視線を向け、ルカは口を開く。
「ウェズリー施設長。ヴィーヴルの洞は、ドロッセレインの近くにあるんですか?」
「いや。場所は分からないんだ。彼女の魔術で、施設のある扉から彼女がいる洞に行けるように繋げてあるだけだから。少なくともドロッセレインの近郊にはなかったよ。そもそも、彼女の許可がなければ洞に通じないからね」
ウェズリーの言った事がいまいち判然としなかったので、ルカは眉根を寄せた。
「……どういうことですか?」
「さあ? ぼくにはよく分からない……君の方が知ってるよね?」
重ねて尋ねられたウェズリーは肩をすくめ、リンドにそう投げかけた。
「はあ~? オレさまがなんでちょくちょく説明係にならなきゃならねーんだ……」
「そんなこと言わずに、無知な人間に叡智を授けておくれよ~」
「はあ~、愚かで無知な下等生物どもめ。しかたねえなあ」と、リンド。机に置いてあった茶菓子の、最後のひとつを食べてから、
「……オレさまは空間魔術とか専門じゃないけど、恐らく――ヴィーヴルはある場所に魔術のもとを設置しておいて、あいつが開けても良い、入れてもいいヤツの魔力を感じたときに開けて、招待するんだろうよ。カーバンクルはまあ、どこでも通じる入り口だ。こっちからは行けないのも、同じ理由だけど」
そうもごもご口を動かしつつ、解説した。それを聞いて、ウェズリーはぱっとルカの方へ視線を向ける。
「だ、そうだ」
なんだか自分が言った、みたいな風なウェズリーにリンドはつい体勢を崩しかけた。
「……そうですか」
自分で尋ねた癖にどこか上の空で、ルカは小さく答えた。そして、すっ、と立ち上がる。
「そろそろ行きます。目的地も、決まったので。ご協力ありがとうございました」
まくし立てるように口早に言うと、ルカはリンドに視線をやった。出立するぞ、という言葉をいちいち口にするのも、今のルカには億劫だったのだ。
幸い、リンドもすぐに分かったようで、菓子のひとかけらを口の中に放り込んで、ソファから立ち上がった。
「ルカ殿、顔色が青いですよ、それに、怪我もしている」
「大丈夫です。この程度くらい、魔術で治せますから」
ヒューバートの心配を、ルカは拒絶する様にそう断言した。ルカは詠唱をつぶやいて、自分で突き刺したナイフの傷をすっかり治して見せた。
「……しかし……」
言いかけて、ヒューバートは口を閉ざした。ルカの顔は疲弊しきっていたが、その目にただならぬものを感じて、ヒューバートは黙り込むしかできなかった。
「まあオレさまがいるんだからでーじょーぶだって、んじゃバイビ~」
軽い口調でそうリンドが言い残し、二人はさっさとハドロウズ支部を後にした。
「まずは、ルクレティアの奴と合流しねえとな……ったく、あいつ、どこ行ったんだ」
「ご機嫌ななめだねえ」
支部を出てすぐ、ぶつくさ呟くルカに対して、リンドの口からそんな言葉が飛び出した。ただでさえ機嫌が悪いので、ルカとしてはいますぐ叩きのめして、物理的に黙らせてしまいたいほどだったが、それは不毛なのでぐっとこらえる事にする。
「……うるさいな」
「言っておくが」
ルカの不機嫌を気に留めず、リンドは勝手に喋り出す。
「安ものだろうが、あの蜥蜴女は手放す気はないと思うぜ、ドラゴンと名の付くものが、人間なんかに所有物を取られるなんて屈辱、許すはずねえからな。取引だって名目だ。お前を働かせて、チビどもの餌にしようとかそーゆー魂胆だろうぜ」
「……ドラゴンの一体や二体、殺して見せるさ。大事なものなんだ、命にも代えられない、大事な……」
焦燥しきったように、ルカは言った。奪われたブローチの代わりに、今はローブを代替の安もののブローチで留めている。
「ところで、なんでそんなにアレを大事にしてんだよ」
「お前には関係ないだろ」
すぱっとルカがそう返すと、リンドはわざとらしく肩をすくめ、
「悲しいねえ童貞は、女から貰ったからーってんな命がけでごしょ―大事に」
そう言ってのけた。煽りだと分かってはいたが、機嫌を激しく損なっているルカの怒りに火をつけるには十分すぎた。
「そんなんじゃない! 兄さんから貰った大切なものなんだ!」
かっとなってそうルカが怒声を上げると、リンドはいきなり笑い出す。
「家族だなんだと言ってたのがなんとなく聞こえてたが……まだ女に貰ったプレゼントだった方が健全だったな。ブラコンかよ、キモ」
くつくつとまだ笑いながら、リンドはそうルカを更にからかった。殺意すら芽生えるほどだったが、なんとか自制し、ルカは、
「うるせえんだよ! お前はお前で、勝手にカーバンクルを探せばいいだろ!」
そう吐き捨てて、さっさと歩いて行こうとする。するといきなり肩を掴まれ、
「相棒、あの時てめえを何度も助けてやったのはだーれだ」
リンドがそう尋ねてくる。ルカには言葉の意図が分からなかったので、眉をひそめた。
「言っておくが、何度もお前、ヴィーヴルに殺されるきっかけはあったぞ。それを何度か助けてやったよな」
いくつか思い当たる節があったので、ルカはバツが悪くなって黙り込んだ。
「てめえがいなきゃヴィーヴルは尻尾を出さない。だから最後まで付き合ってもらうかんな――それに、てめえもお兄ちゃんの命かかってんだ、ンなことでムキになってる場合かよ、ガキじゃねんだからさあ」
嘲笑気味に言いつつ、リンドは子供をなだめるようにルカの頭を軽くたたいた。その行動もまたルカの怒りを増長させるが、反論できることもなかったので、そのまま黙り込む。
しばらく二人が険悪な雰囲気をまといつつ、街中を歩いていると、いきなり、
「ルカ様~! ご無事で何よりですわ! わたくし、薔薇の夜露の如き涙をはらはらさせつつルカ様の帰還をお待ちしておりましたのよ!」
少し離れた馬車乗り場で大手を振りながら、ルクレティアがそう叫んできた。探す手間が省けて、ルカは少し安堵する。
ルクレティアが騒ぎ続けるので、周りの視線に耐え難くなったルカは彼女のもとへ急いだ。
相変わらずの豪奢な馬車を停めて、ルクレティアはデイモンを侍らせ、馬車乗り場で幅を利かせていた。街の人間からは奇異の目で見られていたが、彼女はどこ吹く風である。
「……トンチキ特攻女とまた会うことになるとはなあ」
リンドが半目でルクレティアを見つめつつ、吐いた。
「あら、お下劣お上等大蜥蜴さんとまだ一緒にいたのですか、ルカ様。奇特な方ですわあ」
「おをつければ丁寧語だと思うな……」
リンドの指摘を華麗に無視し、ルクレティアは微笑んでいる。と、傍でひかえていたデイモンが、
「ルカ様。お預かりしていたカーバンクルは此処に。食事が不要な身体と判断いたしましたので特に食べ物は与えていません」
言いつつ、懐から白い毛玉のような生き物を飛び出させた。同時に、リンドのフートの中から同族の気配を感じ取ったらしいカーバンクルが飛び出てきて、すぐに二匹でじゃれ合っていた。
「ああ、ありがとう。それで、早速で悪いんだが……ドロッセレインから目的地を変えたくて……ウィートン村に連れて行って欲しい」
「本当に早速ですわね、もう少し再会の感動を分かち合いたいのにい……」
意味もなくハンカチを噛みつつ、ルクレティアはそう拗ねたようにうめいた。
「……頼む」
切実で、疲弊しきったルカの声にルクレティアは目をぱちくりさせて、
「……まあ、黙って受け入れるというのも淑女の務めですわね。いいでしょう。でも、昨晩の事、道中で聞かせてもらいますわよ、ルカ様。デイモン、馬車の準備は出来ているわね。すぐに出発するわよ」
そう態度を一変させ、デイモンに指示を飛ばした。
馬車に揺られつつ、ルカは改めてせがまれて、ルクレティアが去ってからの話を彼女にしてやった。
ハーメルンとの戦闘の行方、リンドとの取引、ヴィーヴルとの邂逅――ルクレティアに話すのと同時に、ルカは起こった出来事を自分の中でかみ砕くことができて、少しずつ現実を受け入れることができ、冷静さを取り戻していった。
「なるほど。だいたいわかりましたわ。割と面倒なことになっていましたのね」
そう言いつつ、ルクレティアは楽し気だ。もうこれは性分なのだろうと、ルカは息をついた。
「それにしても、蜥蜴女にルカ様の大事なブローチを取られた、と――まったく、そこの図体だけは大きな爬虫類は何をしていましたの? ルカ様をきちんと守りなさいな」
「俺は別にこいつのお守りじゃねーんだけど」
「お兄様から頂いたブローチだったのですね、とても美しい品だと思っておりました。はやく取り返さねばなりませんね」
「無視かよ」
様式美になりつつあるルクレティアとリンドのやり取りを見て、ルカはなんだか気が抜けてしまったが、気を取り直して、ふたたび口を開く。
「……なんにせよ、カーバンクルを早く見つけてやらないと――錬金術師という事は、なにかに混ぜる気かもしれないし……」
「その、混ぜるってなんだよ?」
つっけんどんにリンドに問われ、ルカは少し考えてから、言い始める。
「……錬金術師は、ダグザの釜という特殊な術式が刻まれた装置で、物質同士を融合させ、新たな物質に変える大魔術を使えるんだ。それを俗に混ぜる、というらしい。……錬金術師たちは魔術連盟にも仕組みを教えないから、俺にもよくわからないんだ」
曖昧に答えたルカに、ルクレティアは首を傾げ、尋ねようとする。
「生物にも可能なのですか?」
「……恐らくは。物質だからな。大抵はすぐ死ぬ
「なるほー。だからあのガキ、妙にいろんな魔力の匂いがしたわけか」
唐突に声を上げたのはリンドだ。その言葉に、ルカは眉をひそめた。
「……なんだと?」
「あのガキ、複数の魔力を持ってんだよ。別の種類のな。人間くさい魔力はほぼ薄まってるけど。妙な匂いだなあとは思ったが、どうりで」
リンドがそう言ったのを聞いて、ルカはハーメルンとの戦闘の際、デイモンが言っていた言葉の意味を理解した。
「……ハーメルンのあの力の理由は、別の種族が混ぜられたから……? 霧に変生する種族と言えば――」
「
ルクレティアが自信なさげに言うのに、ルカは頷いた。
「存在はしてる。滅ぼされた吸血鬼の灰は魔術連盟で保管しているからな。とは言っても、まともな吸血鬼なら大抵は太刀打ちできるはずがないんで、混ぜられたのは血を飲めなくて灰になりかけている奴かな……吸血鬼なら、首をひん曲げたところで死なないし、合点がいくな」
ルカは自分の中にある吸血鬼の知識を呼び起こしつつ、続ける。
「……ただ、吸血鬼と混ぜられてるんなら、壮絶な飢餓感が常に襲っているはずだ。彼らにはそういう呪いがかかっている。人の血を吸わずにはいられない、という。そしてそれは、永遠に満たされることはない。だから人間と、共存できない」
呟きながら、ルカはハーメルンの事を思い出した。彼からは、そんな様子は全くうかがえなかったように、ルカには思える。
(もし、飢餓感を抑え込んでいたとしたら、ハーメルンは異常だ――そもそも、いくつかの生き物と混ぜられて自我を保っていられるんだ、ハーメルンの精神力は、常人ではありえないものだ……)
だがその精神力は、彼の正義や信念によるものだと、ルカにはよく理解できた。信じられた。
「それを考えると、ハーメルンは脅威だな…」
「なんで?」
ルカのつぶやきに、とっさに反応したリンドが声を上げる。
「なんで、って……」
「首をひん曲げて死なねえなら、心臓をぶち抜けばいいだろ。それでもだめなら頭を粉々にすればいい。大抵の生き物に、弱点は存在するんだから」
あっけらかんと言うリンドに、ルカは苦々しげな顔をする。
「身も蓋もねえな……」
「オマエが神経質すぎるだけだろ」
非難するような口調で、リンドはルカを睨みつけ、続ける。
「しかもどうせ、あのガキ殺せねー、かわいそー、とかまだくだらねえこと思ってんだろ、よくいままで生きてこれたよなー」
「はあ!? ンなこと――!」
反論しようとするルカを遮る形で、リンドが、
「手加減してるくせによく言うぜ。オレさまと戦った時の半分も力だしてねえだろが」
唐突にそう断定した。嘲笑もなく、小ばかにするでもなく、リンドは不機嫌そうに言い切った。
「し――してない! そんなわけが、あるか! そんな理由が、どこにあるって言うんだ!」
何故か焦って――何故、焦っているのか、自分でもわからなかったが、ルカはそう弁明した。リンドに弁明する意味も、理由もないはずだが、ルカはとにかく、リンドが言った事を認めたくなかった。
「なら無意識か。ある意味すげーなお前。健気すぎて涙出てきちまうよ」
全く表情を変えず、皮肉を飛ばすリンドに、ルカは絶句した。
「べつにてめえのお人好しが原因で野垂れ死のうが、オレさまには普段関係ねえことだが――」
言いかけながら、リンドはルカの胸倉をいきなり引っ掴んで、
「今回ばかりはちげーんだよ。マジで死んでもらっちゃ困るわけ。くだらねえことで足引っ張んじゃねーよ。俺はてめえのお守りまでしたかねえわ。死ぬなら終わってから勝手に死ね」
そう冷徹に言い放った。底冷えするようなその声に、ルカはついぞっとした。
「――なーんちゃって」
言いながら、ぱっとルカを解放すると、リンドはいつもの小ばかにしたような笑いを浮かべていた。
「てか相棒よ、改めてゆーけど、大事な大事なお兄ちゃんの命も掛かってんだぞぉ。ちゃんとそのちっせー脳みそに叩き込んどくんだな」
リンドは面倒になったらしく、話を終わらせた。そのままリンドはルカから視線をはずし、窓の外に目を向けている。
(……事実だ……俺は、ハーメルンを殺さない程度に留めていた……)
ルカはリンドに言われた言葉を反芻し、そう胸中でうめいた。
(言われるまで気づかなかったけど、俺は、ハーメルンに対して、一度も――殺害できる攻撃は使わなかった。殺したく、なかったんだ……)
どうしようもない言葉を心中でルカは呟いて、意味もなく、視線を落とした。
ハドロウズからしばらく馬車を走らせて、数時間。盗賊が出没しているという街道ではなく、デイモンが何故か知っていた(ルカはもうその程度で疑問は覚えない)別ルートを順調に進んで行った。
「あら、ほんとに田舎ですわねえ。なにもなさそう」
窓を覗いているルクレティアがそう声を上げた。ルカが暗然としている間に、ウィートンに着いたらしい。
「つきましたわね、ウィートン・ヴィレッジ!」
高らかに、ルクレティア。馬車から降りて、踊るようにくるりと一回転して見せた。ルカも黙ってそれに続く。リンドは欠伸をしつつ、のろのろと最後に降りてきた。
「馬車の中の空気が重すぎて、押しつぶされるかと思いましたわあ」
ため息交じりに、ルクレティア。言いつつ彼女が恨めし気な視線を向けてきたが、ルカはそれを無視する。
「まあ大蜥蜴さんを引きずり回しの刑にする妄想をしてことなきを得ていましたが。顔面血まみれで皮膚がそがれて、亡者の怨嗟みたいな悲鳴を上げていました」
大して面白くなかった本の感想でも言うみたいに、ルクレティアは言った。勝手に妄想場の被害者にされていたリンドは目を半目にし、
「妙に静かだと思ったら、ンな妄想しとったんかわれ……」
唸るような声でうめいて、ルクレティアの頭を小突いた。小突かれたルクレティアは不快だと必要以上にヒステリックにわめいている。
いつものルカであれば、この騒ぎに文句のひとつでも付けている所だ。けれどなんとなくそんな気分になれなくて、明後日の方角へさっと視線を向ける。
「ではよそ者を村の掟的な何かで行われている儀式によって生贄にしそうな、辺鄙で薄暗い村にレッツ・ゴーです」
ルカの気持ちを知ってか知らずか、ルクレティアはきわめて明るく声を張り、村の入口へ足を踏み出した――が。
「お嬢様、我々は此処でルカ様たちとは一時お別れです」
にこやかに、デイモン。ルクレティアは大仰に驚いたような表情をして、
「え、な――何故!? 何故なの、デイモン!?」
そう言いつつ、よほどショックだとばかりにいきなり地面に崩れ落ちる。
「申し訳ありません、私の至らなさでお嬢様の身の安全を確保できる力量がなく」
感情のこもらない声でデイモンはハンカチを目元に当てつつ、言った。
「そんなっ! わたくし、ルカ様が磔にされて、咽び泣くところを観つつ、優雅にティータイムでもと思っていたのにっ! しくしくしくしく……」
もう立ち直れませんと言いたげに、ルクレティアは地面に転がって泣き始めた。涙は出ていないが。
支離滅裂な二人のやり取りにルカはつい半目になり、
「……単純に邪魔だからそいつ、持ち帰ってくれ」
そうきわめて冷徹にデイモンに告げた。
「かしこまりました」
言われて、平然と茶番をやめたデイモンは、荷物を持っていくみたいにしてルクレティアを脇に抱えた。
「主人の意向を無視するなんてなんて執事なの!?」
「これもお嬢様を想ってのこと。私は心を鬼にしているのです」
「もうちょっとわかりにくく嘘をつきなさいな!」
そうルクレティアはわめき、そしてルカを睨みつけた。半泣きになって子供のように足をばたつかせている。
ルクレティアはまためそめそしながら今度はリンドを睨みつける。
「ぽっと出の蜥蜴のくせに、ルカ様と共に在る権利をわたくしから奪うなんて」
「べつにいらねんだけどそんなん……」
「求めてもいないのに手に入れるなんて――」
「ではご武運を。ルカ様、リンドさん」
ルクレティアの言葉を遮る形で、デイモンはまたにこやかに言った。ルカが軽く手を上げてそれに答えると、デイモンはさっさと馬車の中にルクレティアを放り込み、御者台に乗り込む。
「蜥蜴呪殺するべしいいいいい――――」
ルクレティアの嘆きを響かせつつ、馬車はあっという間に見えなくなっていった。
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