第13話 最後の抵抗

 あっという間に王室の間。あたりは薄暗いが、床から天井まで贅沢に素材と金をかけて作られた場所であることはわかり、権力そのものを表しているようだ。高級そうな絨毯に俺は二コラの肩から投げ落とされる。


「ウル様、このものの処罰。いかがいたしましょう」


 俺は地面に鞭で縛られたまま二コラに踏みつけられ、動くことが出来ない。ここに来るまでの間、二コラの鞭の能力によって得体のしれない不安と恐怖が胸を締め付け、指一つ動かすこともできず、まるで首をつままれた子猫のようにあっさりと運ばれてしまった。今、二コラは能力を弱めたらしく、不安感と恐怖は無くなった。目の前には椅子に座る大柄の男、顔は建物の影になっていて見ることは出来ない。足を組み静かに呼吸をしている。


「本当に、こやつがやったのか?記憶の中にはこいつが殺人を犯していたことは探れなかったのじゃろう?」


 ウルよりも先に返事をしたのは、椅子の横に立っていた老人。


「その通りですが、きっとクラウの薬があてにならなかっただけでしょう?それよりも、異世界に送り込む用のクダラネ達がこの男によって全滅させられた方が大問題です。きっと、例の計画は数十年ずれる可能性が高いでしょう」


「うむ・・・・・・確かにそうだ。こやつがクダラネを全滅させるのに使ったのは黄金の大剣だといったな?今どこにある?」


「申し訳ありません。この男を担ぐのに精いっぱいでした。あの光る剣は今手下が回収に向かっております」


 二コラは軽くお辞儀をした体制で目をつむりながら今までの出来事を伝達している。もちろん右足は俺の背中に置いたまま、正直痛い。クダラネという名前は初めて聞くが、おそらくあのネズミの化け物のことを指しているのだろう 。


「以上です。ウル様」


 二コラが説明を終えると、ウルは大柄な体を動かし、椅子の横にいる老人にそこそこと話かける。


「ええ、作用ですか・・・・・・はい。仰せのままに」


 話会いはすんだのか、老人は俺の前へ歩みよる。


「名は確か、琴乃錦といったな地球人」


「そ・・・・・・その通りだ」


 背中を強く足で踏まれているため声が出にくい。


「貴様が使用したあの剣を調べるため貴様に協力してもらわなければならん。我々の仲間を殺し、軍事力にも大きな損失をもたらした罪ももちろん償ってもらう。我々が十分納得する理解、懲罰を得られるまで貴様を地球には戻さん。いや、二度と地球には戻れんと言ったほうがよかろう」


「なん・・・・・・だって?」


 二度と地球に戻れない? ニワタリの屋敷に二度と帰れない?


「嫌だ・・・・・・」


「ん?なんかいった?」


「こんなとこで生活するなんてまっぴらごめんだっていったんだよ!おおおおお!」


「ちょっと!」


 俺は最後の力を振り絞り、背中に乗っていたニコラの足を払い除け、鞭を振り解く。ニコラは尻もちをつき、老人は怯えて俺から離れる。


「聞いてりゃ俺が悪いことばっかしてるみたいな感じになってるけど、元々はあんたらがこそこそ悪事をやってんのがいけないんだろうが!」


 俺は右腕を後ろに伸ばしてあの剣を呼ぶ。予定ではこの長い廊下を猛スピードであの剣は飛び、俺の手に収まる。


「ウルさんよぉ。今までの悪事の報いを・・・・・・報いを・・・・・・あれ?」


 いつまで経っても剣が飛んでこない。俺は後方を確認する。寂しく俺の右腕が伸びているだけ。


「探し物はこれかい?」


「えっ!?」


 ズブッ


 顔を正面に向けた瞬間、目の前にカシマが立っていた。俺の黄金の剣を右手に持ち、俺の腹に突き刺していた。


「ちゃんと身に着けてないとだめだよ」


腹部に激しい痛み。いままで感じたことのない痛み。夢の中での腹パン以上なのは確か。


「なっ・・・・・・なんでだよ、カ」


 カシマと言おうとしたときカシマは左手で俺の口を押さえて俺が声を出せないようにする。そのあと、勢いよく腹を裂く。カシマは俺の耳元でささやく。


「彼女の声を聴くんだ」


「?」


 カシマの発言はよく理解できなかった。きっとこんな状況でなければきっとわかったのかもしれない。ただでさえかなりの出血量。下半身と上半身は分離し、俺は死ぬのだと感じた。頭の中が白く染まって抜けていく。だけど、俺の頭の中に最後まで残ってくれていた人がいた。あぁ、最近いろいろありすぎて忘れかけていた・・・・・・銀髪の彼女、天都あまつナギのこと。もう一度会っておきたかったなぁ




















「カシマ!貴様!」


 ニコラはあの鞭でカシマを捕らえよう鞭をカシマの首めがけて伸ばしたが、カシマはしなり飛んでくる鞭を平然と手で掴む。


「よしてくれよ。もし彼がこの剣をぶん回してたらウル様に危害を加えてしまうかもしれないじゃないか。命の恩人だと思って欲しいね。それに見てくれよ。わざわざこの剣で刺したおかげで、死体は蒸発してなくなった。この立派な絨毯の染み抜きもしなくて済んだんだ。感謝してよ」


 カシマは人を殺したとは思えないほどひょうひょうと堂々と話す。


「おい、スーツの姉さん。下手に動くといけねぇぜ」


 後ろから和服姿のニワタリがリボルバーをニコラにカチャッと向ける。


「なぁカシマ。用が済んだなら早く行こうぜ」


「ちょっと待ってくれ。ウル様に失礼をしたことを地球人代表として謝りたい」


 さっきまで怯えていた老人が落ち着きを取り戻しながら話す。


「しかし、お前は牢にいたはずじゃ。どうやってここに?」


 カシマは鞭を掴んだまま、老人の方へ顔を向ける。


「ただならぬ予感がしてね。わざわざ彼に来てもらったんだ。彼の持つ銃でワープホールを作れるからね。あれ?知らなかったのか?地球にもそういう能力者はいるんだよ」


「勝手に出ることを許した覚えはないが」


「それはすまなかった。でも彼がここの誰かを殺していれば、新たな異世界戦争に繋がってしまうだろうしね。事前に止められてよかったと思ってるよ。あんたもそう思うだろ?」


 老人は口を閉じ、唸る。


 次は相変わらず椅子に座って黙っているウルに顔を向ける。


「地球の住民達による様々なご無礼をお詫び申し上げます。立場が下である私たちが面倒ごとを引き起こしてしまうことが今後無いように、管理者カシマ、勤めて参ります。お詫びと言ってはなんですが、この剣を献上させて頂きます。我々が持っていても仕方がないものです。あなた方ならもっと有効に使えるでしょう。今後も仲良くして下さい」


 カシマは鞭を離し、右膝を地面につけてぶかぶかと礼をする。


「ほらっ物騒なものをしまって、君もするんだ」


「えっ?おっおう・・・・・・」


 ニワタリも礼をする。


 礼を終えると、カシマは剣を丁寧に床に置き、ニワタリが作った空間の裂け目に向かって歩き出す。


「あっ、あとひとつ」


 カシマは足を止め、ウルに向かって言う。


「ウル様、もっと前みたいに話しなよ。あんたの気味の悪い笑い方がそろそろ恋しくなってきたんだ」


「・・・・・・」


ウルは相変わらずしゃべらない。


「まっいいさ。ほんじゃまた」


そう言い残し二人はアルデヒートから脱出した。

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