第11話 ニシキとニコラ

 錦は黄金に輝く大剣を振り回しつつ、化け物をなぎ倒す。




 そうだ。思い出したぞ。今思えば簡単な暗殺ミッション。カシマさんと協力し、地球人を誘拐しようとしていたこの世界の研究員の企みを阻止したものの、生き残りを見逃してしまったらしかった。この失敗により、この俺の存在。能力者である俺の存在がアルデヒートの世界にバレてしまった。俺はその事実をカシマさんから後日知らされた




「まいったことに・・・・・・君が超能力で悪さをしているってことが、よその世界、アルデヒートってところなんだけど、そこにバレちゃったみたいだよ」


「えぇ!?」


 かじったあとがついているドーナツを手から落とす。場所はいつものカフェ。


「でっでも、あのとき誰も逃していなかったはず・・・・・・」


「正直なところ、アルデヒートほど、僕らにちょっかいをかけてくる世界はないからね。僕以外に敵がいないか日頃から探っていた可能性もある。今回は、そのセンサーにひっかかってしまったわけだね。きっと、影でこそこそ情報を取られたんだろう。まぁ、今考えなければならないのはこのことじゃない。これから君をどうするかなんだけど」


「(ゴクリ)」


 カシマと一緒に異世界からの脅威を排除してきて数年。力の使い方をカシマに教えてもらってから、家族のような付き合いみたいになっている。でも、いまだにカシマの思考は図れない。最悪俺は能力を奪われ、ノロウイルスに感染した豚みたく、殺処分されてしまうかもしれない。


「安全なところへ、なんならこの世界以外の異世界へ逃げた方がいい。手筈は整えておくよ」


 殺処分ではなかった。


「やっぱり、そういうことになるんですね・・・・・・、カシマさんは大丈夫なんですか?」


「僕かい? 心配いらないよ。一様、僕はこの世界の管理者として、善からぬ行いをしているものには罰を与える権利がもともと保証されているからね。僕の許可なく人さらいをしようとしていた方が悪いのさ。まぁ、アルデヒートのお偉いさんたちはこの件には意地でも触れないだろうけど。僕も喧嘩はしたくないからね、必要以上に責めないさ」


 カシマは席をたち、ココアを注文。そして僕の前へ。


「これから長い旅になると思うけど、これ飲んで元気を出してくれ。あとはモグの指示を聞きなよ」


「わかりました。カシマさんも気を付けて」


 カシマはカフェを出ていき、俺はその慣れしたんだドーナツの味とおごってもらったココアを飲み、地球とのお別れをした・・・・・・・はずだった。














「結局、おんなじ手口じゃねぇか!」


 やられた、しかも同じ手口。入っていたのだ、直前の記憶を忘れさせる効果もしくは書き換えるという薬or魔法が。カシマからもらったココアで、事件のことに関する記憶が吹っ飛び、別の日にモグからもらったココアで僕と関りのあるすべての記憶が書き換えられた。故に俺は普通の男子高校生の状態になっていた。


 思い出すほど恥ずかしい、まんまと同じ手口で記憶を操作され、無実の容疑者としてこの世界へ。結局、俺は処刑されそうになるが記憶を思い出し、化け物に食い殺されるというピンチを脱出。これから化け物を倒し、この世界に来ているカシマを救出し、無事自分たちの世界へ帰る。恐らくこれがカシマの計画した作戦だろう。だけど・・・・・・


「もっと人思いになれえぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ズバッ! 大きく振りかぶった一振りが化け物を真っ二つに。敵の尋問を欺くためとはいえ、相談も何もせずに記憶を操作されたことはすこし傷つくぞ。カシマとモグに文句を言いたい怒りをぶつけ、気づけば何千といたネズミの化け物は全滅していた。


「はぁ、はぁ」


 久しぶりに、動いたなぁ。もっと走るトレーニングしようかな。


「へぇ~あんたやるじゃん」


「!」


 あの青いスーツを着た女性が崖を降りてくる。


「これを見る限り、あんたは普通の学生でないことは確かでしょうね。あら不思議。その剣で斬られたものは死体も残らないのね」


 彼女の言う通り、ネズミの化け物の死骸はない。


「俺もよく分からないが、そういう剣の能力らしい。この剣で斬られたものは魂となってあるべきところへ行く。そうカッ・・・・・・」


「カ?」


「・・・・・・かあちゃんが言ってたんだ」


 あぶねぇ。カシマって言ったら今までの作戦がきっとパーになる。


「アハハっ!もう隠さなくていいよ。カシマから教えてもらったんだろ?記憶をすり替えられる経験をしたり、超能力を宿している時点で、あんたはもう一般的な地球人じゃないさ。さしずめ、この化け物どもをついでに倒してもらおうってのがカシマの思惑じゃないか?違う?」


 もうパーになってた。


「別にいいのよ。カシマとあんたが仲良しだってことは、あたしにとって何にも意味をなさないもの。それより、今はあの大天才クラウ君が育てたかわいい化け物たちが全部やられちゃったっていうことをクラウに早く言いたいってことだけよ」


 スーツの女はニヤニヤしながら言う。この雰囲気もしかしたら見逃してくれる流れか?なら出来るだけ早いうちにここを切り抜けなければ。


「なぁ、今まであなたの仲間を殺めてしまったことについては謝る。今回の件もそうだ。だけど、異世界の存在を知らされていない人たちに悪さすることのほうが悪いと思うんだ。


「へぇ~つまり?」


「俺らの目を欺くような行動はやめて、しっかりと相談とか、協力とかしていこう。そうすればカシマさんも俺も働かなくていいようになる。だから、カシマさんのところへ連れて行ってくれよ。いる場所を教えてくれるだけでもいい」


「あんたは何もしらされてないのね・・・・・・」


「えっ?」


 スーツの女性は俺の正面に立つ。そして手の平にエネルギーを集中させ、それが鞭のような形状になり、床に垂れる。鞭は青白く輝いている。


「残念だけど、私も一応、長年働いて得たみんなからの信頼もあるし、給料も欲しいから犯罪者をみすみす逃すってわけにはいかないのね」


 鞭を床に叩きつけ、ビシィという音を響かせる。


「ちなみにあんたの名前は琴乃錦であってるわよね?名前も作り物なの?」


「いや、それは本物」


 俺は剣を正面に構える。きっとこの人は強い。そんなオーラを感じる。


「私の名前は二コラよ。ぜひ覚えていってね」


 

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