第10話 琴乃 錦は異世界で覚醒する

バン!っと錦は地面に落ち、椅子はバキリと音を立てて壊れる。晴れて自由の身ではあるが、錦はまだ目を覚ましていなかった。まだ彼は夢を見ている。ネズミの大きな化け物達は、落下時の音につられて、一斉に走り出した。


キィィィィィ! 


 まるで、古い自転車のブレーキをかけたかのような甲高い鳴き声が崖の下で反響する。


 あたりは暗く、化け物の充血した目が松明の光に反射して、寝ている錦を見つめる。そして、一斉に錦に飛びかかる・・・・・・。


















 俺の朝は、かわいらしい目覚まし時計によって、たたき起こされることから始まる。

 そう、俺の名前は、琴乃 錦。17歳のごく普通の男子高校生。身長は173ぐらいで、細マッチョと思わせて、中肉な普通科の男子高校生。一人暮らしで、かつての友人とは不通の高校生活。実家からは、月一回の仕送りがあるから、生活には困ってないけど、帰りたいなという気持ちでいっぱい。だから来週から始まる7日間のテスト期間が終わり、冬休みが来たらゆっくりとお正月を過ごす。それを考えるだけで、つらいテスト期間を超えられそうだ。


 今日は日曜日。いつもなら、家でゲームしたり、漫画をよんだり、同級生からの呼び出しがない限り家でのんびり過ごしながら勉強をする。ところがどっこい、今日行くのは自分のアパートから、徒歩15分のところにある図書館に行くスケジュールを組んだ。珍しく、外に出て勉強してみようと思うきっかけがあったからだ。 


 さて、朝ご飯のパンを食べ、ベットや布団に消臭剤をスプレーし、たまった洗濯物を洗って干そう。お昼ご飯用に、炊いたお米でおにぎりを作って、カバンに入れてからこの部屋を出よう。だいたい8時ぐらいになるかな?


 さっそく、脳内の計画を実行に移していく。俺の計画は順調に進む、パンは食べた、スプレーもした。しかし、いきなり大きな問題にぶつかる。その問題は洗濯物を洗って干すという過程のところで起こる。洗濯物が洗えてなかったわけでもなく、靴下がなくなったわけでもなく、ティッシュをポケットにいれたままだったというわけでもなかった。簡潔に言うと、洗濯ものを干すことが出来なかった。


なぜかって?










ベランダに聖剣が刺さっていたから








「えっ?」



ピンポーーーーン


「・・・・・・」


 普段、鳴ることのないインターフォンの音だったが、そんなに驚かなかった。しかし、だいたいこんな朝早くにくるのは、宗教とかの勧誘だから、必要以上に出る必要はない。そう、こんな時のためにドアモニターがある。ドアの前に誰がいるかすぐにチェックできる優秀な居留守道具だ(きっと違う)。

 俺は落ち着いて、モニターをチェックする。どうせ、怪しい雰囲気のおじさんかおばさんか海外の方だろうと思っていたが、俺の想像は外れた。


どこかで見覚えのある顔だった。名前はおもいだせない。


俺はドアを開く。

ガチャ


「あっあの・・・・・・」


ドアの反対側にいたのは胡散臭い格好でギターケースを背負った男。町を歩いていたら明らかに自己主張が強いソロのギタリストと思われそうなファッションだ。


「やあ、錦くん。そろそろ起きる時間だよ」


スッと周りが暗くなり、俺の背後から光が差し込んでくるのがわかった。

俺は後ろを振り返る。さっきの聖剣が輝いている。


「恐れることはないさ。君ならすぐに思い出せるさ。だけど急いだほうがいい。奴らも感づくだろうしね」


「はあ・・・・・・」


「あと、今の君に謝らないといけないことがあったね。君の記憶を少しいじらせてもらったよ。奴らの目を欺くためさ。せっかくだから暴力ヒロインとのイベントシーンみたいにしたんだけど、どうだったかな?やっぱり好きになれないか暴力ヒロインは」


その男性はニヤニヤしながら答えた。


「安心して、現実の彼女は優しい子だ。きっと仲良くなれる」


そういい残した彼は俺の部屋から出て行った。


俺はその聖剣に近づく。 この瞬間をとても長い間待ちわびていたのかもしれないという思いが強くなる。


そして 俺は その剣を 抜いた。

















 キィィィィィ という鳴き声に追加して、血飛沫が飛ぶような音が聞こえる。


「話したら面白そうな子だったのに、運が悪かったわね」


椅子を蹴り落とした後、青いスーツを着た彼女は祈りを捧げることなく、追加の餌をバケツに詰め込んでいた。なんの肉かは分からない。


 しかし、血飛沫の音がいつまで経っても鳴り止まず、加えて、肉が切り落とされるような音も聞こえてくる。


「なにかしら?」


異常に思った彼女は、崖の下に落ちたであろう地球人を見る。しかし、そこに無残に食い殺された琴乃錦の姿は無かった。


「ほうほう、これは・・・・・・」


 暗闇の中、黄金の光に包まれ、化け物どもを近くにおびき寄せず、むしろ剣を投げ飛ばし豪快に何千体もの化け物相手に戦っているものがいた。その男は・・・・・・。


「あのクソカシマァ!モグゥ!騙しやがったなァァァァ!」


とめっちゃ怒っていた。

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