第8話 ベランダに聖剣が刺さっていたから? 前半

椅子の上で眠った 錦 の頭からふわふわと、虹色のもやが流れ出る。


「さてと」 


青いスーツを着た彼女は、そのもやもやに向かって腕を伸ばし、スマホの画面を拡大するかのように指を広げる。

 どうやら、錦の記憶がそこに映っているようだ。


「見させてもらいましょうか」


 彼が記憶を持ち始めた幼少期から、ついさっきのキスシーンまでの記憶を細かく見ていく。


 事件が起きた前日もチェック。

 こんな記憶だった。










  俺の朝は、かわいらしい目覚まし時計に、たたき起こされることから始まる。


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリイイ!!!

 うぐっ! ん? 朝か? 目覚まし時計を見る。『7時』

 くそっ! いい夢だったのに、忘れちゃったじゃん。誰だよこの時計を買ったのは! 


 俺だな・・・。


 じゃあ、こんな時間にセットしたのは? 


 俺だな・・・。


 ごめんよ、目覚まし時計さん。全部俺のせいだった。君の頭はここかな? 銀色の二つの耳の間を撫でておくよ。ごめんね。だからあと30分寝かしておくれ。

 じゃ、お休み。


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリイイ!!!

 うぐっ! そうだったこの子は賢い頭を持っていることを忘れていた。5分置きに鳴るんだった。

 だけど、俺は負けないよ。あと30分寝てやるんだ。そんでもってさっきの夢の続きを見るd・・・。



 ジリリリリリリリリリイイ!!!

 うぐっ! ああもう勘弁、降参。これを、少なくともあと3セット? 無理無理、何度も起こされると疲れるもん。わかったよ。次の5分後で鳴った音で起きてやりますか。目覚まし時計君もがんばっているし、二本の電池を平列つなぎにはしているものの、いつの日かは亡くなるし、それが、友人の結婚式とか、デートの日だったりしたらやばいもの。まあ、そんな関係にある友達、まして恋人はいないけd・・・。


 ジリリリイイ!!!

 パチッ! バチン! ガバッ! んん~っ ふ~。

 あっ、最後のは、吐いた息のオノマトペ、それまでの時間はおよそ5秒。目を開け、目覚まし時計君の背中のスイッチを切り、布団を蹴飛ばしながら体を起こし、大きく背伸びの運動。


 俺の朝はこんな感じ。早朝の仕事から解放された目覚まし時計君の顔を覗き時間を読む。

『7時25分』 

 ちょいちょい、残りの2セット分、自分の記憶にないよ? 目覚まし君さぼった?もしくは俺が無意識に?

 怖いなぁ、自分の意識がなくても目覚まし時計君の頭を二回も触っているとわ。まあ、いつもと同じ時間に起きれたからよしとしますか。


 本当にいつもこんな感じ、自慢するわけじゃないけど、毎日決まった時間に起きれるのはいいことだなと思う。


 自分は高校生だから普通なんだと思うけど。


 俺の名前は、琴乃 錦。17歳のごく普通の男子高校生。身長は173ぐらいで、細マッチョと思わせて、中肉な普通科の男子高校生。一人暮らしで、かつての友人とは不通の高校生活。実家からは、月一回の仕送りがあるから、生活には困ってないけど、帰りたいなという気持ちでいっぱい。だから来週から始まる7日間のテスト期間が終わり、冬休みが来たらゆっくりとお正月を過ごす。それを考えるだけで、つらいテスト期間を超えられそうだ。


 今日は日曜日。いつもなら、家でゲームしたり、漫画をよんだり、同級生からの呼び出しがない限り家でのんびり過ごしながら勉強をする。ところがどっこい、今日行くのは自分のアパートから、徒歩15分のところにある図書館に行くスケジュールを組んだ。珍しく、外に出て勉強してみようと思うきっかけがあったからだ。


 というのは、昨日、夕飯の食材を手に入れるために行ったスーパーから家に帰ると、部屋にあるエアコンがもう冬になるというのに、俺に冷たい風をぶつけ続けるという鬼畜使用にチェンジしていたからだ。


 つまり、壊れた。 


 直したいけど、今までの仕送りを使ってしまうとこれからの食費がきつい。かといって今の時期にバイトを始めるとなると、テスト勉強に身がはいらず、冬休みが少なくなってしまうかもしれない。そう思ったあげく、選択肢は二つ。


 その1.着こむんだニッシー(俺が同級生からつけられたあだ名)。文化祭で着たクマの着ぐるみがタンスで眠っているじゃないか。


 その2.あったかい所へ行こうぜニッシー(いつのまにかつけられていたあだ名)。運動と金の節約になってお得だぜ!


 まぁ、どっちでもよかったんで、コイントスで決めることにした。結果は2のニッシー。


「やった! 1に勝ったぞー!」 


 2のニッシーさんが喜んでおる。いいことだ。


 さて、朝ご飯のパンを食べ、ベットや布団に消臭剤をスプレーし、たまった洗濯物を洗って干そう。お昼ご飯用に、炊いたお米でおにぎりを作って、カバンに入れてからこの部屋を出よう。だいたい8時ぐらいになるかな?

 そして、図書館までの道のりを、スマホで曲を聴き、鼻歌を口ずさみながら行こう。バスで行く方法もあるけど、本来徒歩15分の道のりに200円出すのは惜しい。それなら、図書館まで歩いていき、そこでジュース一本買うよ。あぁ、こういう時に自転車が欲しいなと思うけど、結局歩けばすむことなので買おうとは思えない。


 田舎じゃあるまいし。


 図書館についたら、気合を入れるためのジュースを一本購入。そんでもって人が少ない所に座る。できれば、自主学習スペースみたいなところがいい。今日は数学と英語をやってしまおう。だいたい8時半から夜までやれば、終わらせられるだろう。昼ご飯はもってきたおにぎり。何時まで図書館にいようか、今日は見たいテレビもないし、閉館ギリギリまでいてもいいかな。たしか、閉館は18時だったかな? そこから、いつものスーパーに行って、晩御飯の材料を買い、家に帰る。あとはいつも通り。よし、これで完璧だ。



 さっそく、脳内の計画を実行に移していく。俺の計画は順調に進む、パンは食べた、スプレーもした。しかし、いきなり大きな問題にぶつかる。その問題は洗濯物を洗って干すという過程のところで起こる。洗濯物が洗えてなかったわけでもなく、靴下がなくなったわけでもなく、ティッシュをポケットにいれたままだったというわけでもなかった。簡潔に言うと、洗濯ものを干すことが出来なかった。

 なぜかって?


 ベランダに女性もののブラジャーが落ちていたから。


「えぇ・・・・・・」

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