第4話 そして俺は捕まった
しまった。こんなに遅くなってしまうなんて思ってもいなかった。俺は、家への帰路を急いでいた。あたりはすでに暗く、家の明かりがぽつぽつと見える以外は光るものはなかった。
モグとカフェで別れてから、俺はのんびりと好きな小説を読んでいた。モグからもらったココアを飲んでから家に帰ったら良いなと思い、本を読みながらちびちびと消費していた。その結果、食後だったからか、モグとメアリーの二人の相手をした疲れからか、グッと眠気が押し寄せてきた。数分ならいいかと顔を伏せたのが大失敗。起きてみればもう7時を過ぎていた。
急いでカフェを飛び出し、家へ向かう。もう晩御飯の時間だ。なんでかわからないけど、ものすごく急がなければならない気がする・・・・・・。
ただひたすら、早歩き。ときには小走りなんかして道を進む。道路の照明灯のおかげで足元に危険がないことを確認ができる。
ふと目線を上げる。いつからそこにいたか確認できなかったが、3つ先の照明灯に顔が隠れるほどの長い髪の女性が立っている。照明灯がチカチカと点滅し、不気味さを演出していた。
少し驚いた。だってさっきまではそこに誰もいなかったような・・・・・・?
不気味さもあり、横を通りたくないと思ったが、横にそれることができそうな道はなく、恐らく、向こうも俺のことに気づいているだろう。もし、俺が歩みを止めて道を引き返すみたいな行動をしたのを見て、不審者だと思われてもいやだからな・・・・・・。
そう考えながら、あゆみを進め、彼女がいる照明灯は2つ先となった。
とは言えど、本当の不審者というのはどういうものなのだろうか。帽子をかぶりマスクを着け、黒のサングラスをかけているやつは、自分から不審者ですと名乗るようなものじゃないか。実は超有名人でしたなんてことも考えられるかもしれないが、学校や他人の家の周りをうろうろしている有名人もおかしいだろうし、逆に目立つだろう。あと、目、鼻、口の部分だけが空いたニット帽みたいな素材のマスクも着けるやついないだろうな。第一、あんなの買う時点で防寒ように普段使いする奴ではないだろう。犯罪者の役柄を演じなければならないときか、ガチで銀行強盗をやろうとしている奴ぐらいじゃないだろうか。今の時代、銀行強盗をするやつもナンセンスだけど・・・・・・。
だけど、俺のこの考えは偏見が強いかもしれない。いろんな人がいるということを踏まえて考えなければ、これからの社会で生きていくことはできないだろう。
そういうくだらないことを考えながら歩き、彼女は1つ先の照明灯の下に。
もしかしたら、俺が普段から行っていること、感じることも世間からすればマイノリティーに当てはまるものもあるかもしれない。目玉焼きに塩コショウをかけるのも、ポテトチップで触れた後の手はティッシュでふくのも、おっぱいが大きい子が好きなのも・・・・・・あとショートカット。逆に自分だけが行っていること、感じていると思っていることが案外マジョリティであるといことも考えられるかもしれない。そうすると、どういう例があるだろうか・・・・・・。有名な女優だけど、言うほどきれいじゃないと思っていることとか、お風呂上りに爪を切る習慣があるとかかな・・・・・・。もしかして、おっぱいが大きい子が好きだけど、でかすぎは勘弁という人も俺以外にいるかもしれないなぁ。
ショックだ。アイデンティティとして誇っていいと思っていたことが次々と信じられなくなっていく。
「ねぇ わたしが みえる?」
は な し か け ら れ た。
ちょうど横切る寸前のこと。妙にこもった声でただ不気味。恐らく、長い髪の下で俺の方を見ているだろう。
全身から冷や汗。今までの冷や汗をかいたという経験は実は間違っていた錯覚するほどに。
心臓がバクバクなり、耳の鼓膜が内側から破られそう。
「みっ見えます・・・・・・」
あまりの緊張と恐怖で声が震える。これって見えてると言ってはいけないパターンのやつだと気づいたのは言い切った後だった。
「つ い て き て」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ごめん! 怖い! 俺は猛ダッシュで彼女から離れる。絶叫を添えて。
もしかしたら、道案内を聞きたかっただけの観光客かもしれない!でも、髪が長すぎだし、しゃべり方が恐ろしすぎる。第一、こんな町で何を目的に来たのかさっぱりだ!しかも夜!
よって、彼女はおばけ! これ以上異論は認めない!閉廷!さよなら! 俺は逃げる!
いちもくさんに逃げる、どこか自分をかくまってくれるところはないものか。コンビニがあれば最高。残念ながら自分の家は遠く、というより自分の家におばけがついてきてしまう可能性もあり、逃げる先の候補として外す。
と、考えを巡らせられていたのも束の間。あの女性に追いつかれた。
俺の頭上から、垂れる髪の毛。彼女の顔はさかさまで、両手を伸ばし俺の顔を掴む。俺の視界いっぱいに彼女の顔が・・・・・・想像するよりも普通の顔、むしろ整っている?
「に が さ な い」
そう言い、彼女はハーッと口の隙間から吐息を漏らす。
彼女の吐息を吸い込み、なんとも言えないにおいとともに睡魔が俺を襲う。
そして、俺は気を失った。
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