第3話 メリーさんは文句を言いたい

「気を取り直して、久しぶり錦ちゃん!元気にしてた?」


 メリーさんは俺が小さいころから見た目は変わらず、小顔でかわいらしい丸メガネをしている。髪は茶色ですこしぼさっとしているが、それが彼女らしさを表現している。身長は低めと言っておこう。


「おかげ様です」


 メリーさんは俺と一緒にソファーに座り、モグは元いた椅子に座っている。


「それに比べてこっちは・・・・・・」


 メリーは、ギロリとモグをみる。


「あんたは相変わらず無表情ね。ロボットかなにか?」


「そっちも、年の割にはゴリラみたいな握力ですね・・・・・・」


「ムキー! しかたないでしょ!私はあんたとで生まれた世界が違うもがっ」


「ちょっと落ち着いてください!」


 彼女の口を必死に抑える。


 時間は3時を過ぎ、学校帰りの女子学生達が入ってきているため、叫ばれては困る。

 メリーさんはソファーに座り直し


「気を取り直して」


 と落ち着いた声で言う。もう4回目ぐらいの気の取り直しだなぁ。


「でっ? いつ払うの。私も暇じゃないんだからさっさと払ってもらうとうれしいんだけど」


 メリーさんは、カシマさんを中心とした異世界に繋がりをもつ人々用に携帯の通信をつないでくれる重要な仕事をしている。どういう仕組みかわからないけど、この世界ではない空間や異世界どこであっても繋がるらしく、全異世界シェア率No.1(メリー調べ)らしい。


 昔、なんでメリーさんがこの世界を中心に生活をしているのかと聞いたことがある。精霊やオーラといったもの達が電波を不安定にさせる要因らしく、精霊やオーラなどが少ないこの世界で働く方が良いそうだ。あとごはんがおいしいらしい。


「すみませんね。今カシマさん本人と交渉中なんです。これ以上私の負担が増加するのであれば、今後あなたの分の料金を肩代わりしないと」


 カシマさん、モグに通信料払ってもらっているのか・・・・・・。生活費を送ってもらっている俺たちも人のこと言えないけど。


「なんなら、去年から使っているスマホをもとのガラケーにしたらどうですか?と持ち掛けていますが・・・・・・。せっかく当てたキャラが~とか、嫌だ!○○ちゃんが出るまでガチャ回すんゆ~とか言って、なかなか話し合いが進まないんです」


 ガチャ回すんゆ~!? 断り方にもほどがあるよカシマさん!


「うわっ、思った以上にサイテーな理由じゃない。じゃあ、今度カシマに直接会いに行ってみるわ・・・・・・。で、今彼は電話に出られる状況かしら」


「いえ、彼は電話に出られる状況ではないです」


 モグさんはいままでの様子から一変してまじめな声で返事をする。


「なるほど、わかったわ」


 メリーさんも何かを感じとったのか、大人しく聞きいれ、ソファからお尻を離しスカートを整える。


「じゃましたわね。錦君、がんばってね」


 そう言い残し、カフェを出る。たまたますれ違った女子校生が、えっモデルの人?とひそひそと驚いていた。


「ふう、口の悪ささえなければ仲良くなれそうなのですが、わかりませんね」


 気の毒にモグ、すべてカシマさんが悪いということはわかった。


「では、私も時間なのでここを出ます。勉強がんばってください」


 そういい、席を立つ。


「あっ、メリーのせいでココアが飲めませんでしたね・・・・・・。よかったら飲んでください。安心してください口付けてないので」


「あぁ、ありがとうございます。お疲れ様でした」


 モグはココアがはいったコップを俺の方へスライドさせる。


 モグは長いロングコートをゆらゆらさせながらカフェを出ていった。たまたますれ違った女子校生が、えっ今日ってハロウィン?とひそひそ驚いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る