第2話 錦とモグ

 俺の名前は琴乃 錦《ことの にしき》。ニワタリさんの屋敷の掃除を終わらせ、今図書館に来ている。


 ニワタリさんやカシマさんと関りがある以上、俺は一般的な生活を送るのは難しい。あの屋敷に住所なんてものはないし、そもそも俺には親というものがない。幼少期、ニワタリさんが俺を引き取って以来、10年近くお世話になっている。誕生日もあやふやなため、自分の年齢が何歳かもよくわかっていない。恐らく17か18歳。でもニワタリさん達と生活する上では気にならない。だって、セラさんや凛子ちゃんは見た目からは信じられないほどの年数を生きているし・・・・・・。


 これからも、俺はニワタリさんの屋敷で生活していくと思うけど、もし一人暮らしを始めたりするならば、せめて中学卒業レベルの教養はつけたいと思い日々図書館で勉強しているわけだ。


 まぁ、いずれ「ニート」ってカシマにからかわれることは予測できる。


「ふう・・・・・・」


 図書館は昼を過ぎた頃、子どもたちが集まり始め騒がしくなってきた。


 そろそろ、昼ご飯を食べるか。そう思い英単語の本を閉じカバンにしまう。図書館を出て道路の反対側にあるカフェへ入る。


 好きなスパゲティとコーヒーを注文、あまり人がいなかったためテーブル席のソファを占領する。


 コーヒーを飲み、スパゲティをするする。


「すみません。お向かいに座ってもよろしいでしょうか?」


「えっ!?」


 びっくり、こんなに空いているのに・・・・・・。いや、自分の知り合いだった。


「あらら、錦さん。奇遇ですね」


「奇遇なわけないだろ。絶対わざとだ!」


 彼はモグ。カシマさんの相棒。こうやってたまに会いに来てくれる。


「今月の分です。ニワタリさんにわたしてください」


 そう言って、茶色の封筒を黒いロングコートのポケットから出し、俺の方へスライドさせる。


「あぁ、いつもありがとう」


 いつもというのは、お金である。このお金がニワタリに住む人たちの生活費になる。


「なぁ、いつも思うんだけど。この金ってどうやって集めてるんだ?」


 モグさんは、買ったチュロスをもぐもぐする。


「聞かない方がいいですよ。きっと使うのが心苦しくなると思いますよ」


「おっ、おう・・・・・・、やっぱり、俺もバイトした方がいいよね」


「あなたがスキルアップを目的にやりたいとうなら構いませんが」


 確かに、もう英単語も覚えてこれたし、バイトも考えるか。新しい出会いも欲しい。


「架空の住所と電話番号、銀行口座など作成するので、必ず声をかけてからにしてください」


 モグさんは、俺たちの生活を全面的にサポートしてくれる。ニワタリさんがうっかり銃を落とした時も、10分後には屋敷まで持ってきてくれた。そのあとセラさんと一緒にめちゃくちゃ説教していたのは今でも覚えている。


 ピロリンピロリン~


「電話が鳴っていますよ」


「俺、携帯持ってないって!知ってて聞いてるよな!」


「失敬」


 モグさんは電話の画面に映る電話番号を見て、しかめっ面をした。ちなみにガラケー。電話の相手は誰だろうか。


「錦君。あなたが出てください」


 モグさんはピッとボタンを押し、俺めがけて携帯を投げる。


「えっ!? ちょっと・・・・・・」


 携帯が俺の胸元に丸い円を描きながら落ちてきた。通話が始まっていることに気づき、急いで耳に当てる。


「はい・・・もっ」

「もしもし、私メリーさん。今図書館にいるの」


 聞き覚えのある声、あっ、この人か・・・・・・。モグは危険を察知していたかのように机の下に潜る。


「お久しぶりです・・・・・・錦です」


「あれ!? モグじゃないの?間違えてないよね・・・・・・あっ」


 メリーさんは咳払いをする。


「今から、そっちに行くね」


 ブツッ つーつー


「モグさん。何をやらかしたんですか」


 机の下に潜りこんでいる彼を覗きながら聞く。


「いいえ、私は悪くないのですよ。カシマさんが悪いのです」


 ピロリンピロリン~


「はい、もしもし」


「私メリーさん。今机の下にいるモグの後ろにいるの」


 がたん!


 机の下から高エネルギーの衝撃波。誰かの頭が当たったらしい鈍い音につられ、フォークと皿がこすれる音が鳴る。


「ちょっと!」


 まわりに見られてないか、確認する。大丈夫だ問題なさそう・・・・・・


 問題なのは・・・・・・。


 ゆっくり、ゆっくりと机の下をのぞき込む。案の定。モグはメリーさんに首を絞められていた。


「あんたっとこのギター野郎。スマホに変えてから通信料えげつないことになってるわよ!いつ払うんじゃぁ!」


「文句なら、ギター野郎本人にいってくださいな」


 首絞められてんのに、よく淡々としゃべれるな・・・・・・。

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