第205話 番外編 なんちゃって制服デート

「ほぅ。ふぅむ」

「……あの、なにか言ってほしいんだけど」

「似合っておるぞ。可愛い。特にその、短いスカートがいいの。お主の綺麗な足がより長く見えるの」

「……いつからフェイはこんなにおじさんみたいになってしまったのかしら」

「失礼じゃなぁ。褒めておるのに」


 リナの両親に結婚の報告をして、結婚式をしたり挨拶をしたりした。そしてせっかくなので出会った街であるインガクトリア国のアルケイド街から、当時出発したのと逆方向へと今度は旅をすることにした。

 そしてしばらくしてたどり着いたのは王都だ。他国の首都にも行った二人はその賑わいに驚いたりはしなかったが、それでもリナにとっては故郷の首都と言うことでいつもよりは多少感慨深いものがあった。


 そこでもいつものようにしばらく生活するため仕事を探したところ、とても興味深いものがあり一も二もなく受けたのだ。その時はリナも賛成していたのだけど、いざその段になって戸惑いがあるようだ。


 今回の依頼は、貴族も含めた有望な若者たちに教育を施す高等教育機関からによるものだ。

 他の街にはないものだ。普通の学校ならともかく、貴族もいるとなると王都ぐらいのものだ。貴族の絶対数が庶民に比べて少ないし、下手に一緒にしても問題があるからだ。貴族の子供たちは将来のパイプのためにも同じ学び舎で教育を受けるのが定例だ。もちろん強制ではないが、ほとんどの貴族がそうしているらしい。


 そんな貴族が多く通う学び舎では、攻撃魔法や剣術なども教えている。もちろん全員ではなく、貴族の中でも将来国に仕えてエリート軍人枠を目指す、軍学部のものだけだ。

 魔法自体は貴族であればある程度魔力がある人が殆どなので、共通科目として基礎魔法学も存在するが、例えば文官を志す者が先行する文学部では護身術程度しか教えていない。

 所属学部外の科目も学ぶことはできるが、大多数は戦闘技術を軍学部以外のものが習おうとするのは稀である。


 そんな状態なので、軍学部に所属する者は幼い頃から体を鍛えたりしていたものばかりで、似た者同士の集まりになりがちだった。すなわち、調子に乗った時にストップをかけるものが少ない。

 本格的に戦い方を学び、同級生と切磋琢磨することで調子に乗って実力が知りたいとか言って勝手に外に出て魔物退治をしようとする、と言う貴族のボンボンが後を絶たなかったことから、数年前から一般の冒険者を雇って同行して野外活動として監視付きで魔物退治の実地体験をさせているらしい。

 もちろん教師も複数人で同行するが、あくまで生徒たちが主体となって魔物退治をおこないそれぞれが実力を自覚する必要があるため、教師の数だけで別れて固まりで行動するのは時間がかかりすぎる。

 そのための冒険者だ。一定ランク以上で過去の実績から教会が信頼のおける冒険者と認めたものだけが、教師の面接を受けてからようやく雇用される。


 貴族とのコネをつくる機会でもあるし、内容が簡単な魔物退治で基本的には見ているだけの一日仕事にしてはかなりの高収入なこともあり人気の依頼だ。教会に信頼されている証明でもあるので、それだけでも受けたいものは多い。

 そんな依頼を二人が受けることになったのは他でもない。教師たちが依頼をするにあたって高ランクをまず抽出した時、現在王都で最も高ランクなのが二人だったからだ。


 当然だ。ドラゴンキラーの二人より高ランクの人間がそうそういるわけがない。この王都には来たばかりの二人だが、これまで受けてきた各地の依頼と結果をみれば、すべて完璧にこなしている。戦闘ばかりではなく、採取や街内の仕事もこなしていることから、人格面も即座に却下されることもない。

 教会経由で話がもたらされ、興味をもったので素直に面接を受けてすんなり通ったのだ。


 普通なら冒険者としてそのまま依頼につくのだが、今回二人が生徒たちと同年代なこともあり、冒険者のお守りとかいらないのに、とめちゃくちゃ文句を言ってくる高位貴族のお坊ちゃんに生徒のふりをしてついてくれないかと言われたのだ。

 無視して普通に冒険者を付ける予定だったが、どうも本人たちが冒険者なんて振り切ってやろうぜ、みたいな打ち合わせをしていたのもあり、ちょうどよい人材がいたので思い切ってそう提案してきたのだ。


 もちろん、面白そうなので了承した。


 そんなわけで二人は今、一般人はあまり縁のない立派な制服を着用しているのだ。

 膝上丈のスカートはリナはあまりはかない。と言うか動くときはズボンになるので当然だ。ショートパンツをはいているのも珍しくないので、実際には足はだしているのだが、安全のための長い靴下や防具などでカバーせずに膝小僧もよく見えると、また違った風に感じるのは仕方ないだろう。


「うーん、勢いで了承したけど、私ちゃんと生徒に見えるかしら」


 一定以上の実力かつ生徒たちと同年代と言う扱いではあるが、実のところリナは生徒たちよりすこし年上に当たる。生徒たちは12歳から17歳の間に卒業するのだ。今年19歳のエメリナはもし入学していたらとっくに卒業している年だ。

 それぞれの事情もあり、多少年齢が上下することもあるらしいが、今回の依頼は4級生、卒業までまだ1年以上の余裕のある生徒が対象の課外授業なのでなおさらエメリナとの年の差ができてしまう。

 とエメリナは少し気になっていた。フェイは今年で15歳とほぼちょうどいい年齢だけど、この年頃の3年は成長が激しいので、エメリナだと生徒ではないとわかってしまうのではないだろうか。


「ふぅむ。よく似合っておるし、大丈夫じゃと思うけどのぅ」

「そ、そう? そうならいいけど。じゃあ、フェイも着てみてよ」

「うむ。そうじゃな。サイズの問題もあるからの」


 フェイはよいしょ、と服を着替える。リナはその様子をじっくりとベッドに腰を据えて見る。

 普段それほど着替えを意識しないが、こうして改めて見ると、なかなかいいものだ、としょうもないことをリナが考えているとも知らず、フェイは着替え終えるとくるりと回りながら具合を確認した。


 制服はそれぞれ白を基調としていながら縁取りの刺繍や細かな装飾のあるジャケットで、男物は大き目のボタンが縦に並び、女物はボタンが小さく合わせ目も少ないなどの差がありつつも、並んでみれば明確に同じデザインでいい具合だ。中は女物は黒いチェックのワンピースで赤いリボンで襟元を飾っている。男物は白シャツと黒のスラックスで、青いネクタイだ。

 素材もいいが、中のシャツやズボンにまで裾などにちょっとした刺繍があったりしていかにもお金がかかりそうな汚れを全然気にしていなさそうなデザインといい、裾上げなども考慮しないオーダーメイド前提の感じといい、わかりやすくお金持ちがきそうな服装だ。


 などと心の中で少しディスってみたが、実際に物がよく、デザインもぎらついた感じはなくどれもさり気ないおしゃれ感でとてもセンスがいい。


 リナもまるで育ちのいいお嬢さんに見える可愛さだったが、フェイが来た姿を鏡で自分で見てみても、なかなかいいのではないか、と思わせる。


「なかなかよいが、ちと大きいようじゃな」

「そうねぇ……可愛い。すごく、可愛いわ」

「そ、そうか。いやに力強く言うの」

「だって、普段フェイってこんな風に襟のついたしっかりしたジャケットとか、着ないじゃない? 格好いい男性向けって感じの服で、それをこう、だぼっときている感じが、すごく、抱きしめたくなっちゃう可愛さだわ」

「ふむ。抱きしめてもよいぞ?」


 両手を顔の横ですり合わせるようにして体を揺らしてオーバーリアクションで褒められて、悪い気はしない。


 格好いい服を着ているので、格好いいと言ってもらってももちろんうれしいが、リナ相手なら可愛いと言われるのも嬉しいフェイは、どや顔でそう襟を正しながら言った。

 そんなフェイにますます可愛いとリナはデレデレしながら、手を下して自身の膝をたたく。


「じゃあきて、お膝にのってよ」

「お膝って。私、もうそんなに子供ではないんじゃけど」


 と文句を言いながらフェイは言われるままベッドに腰かけているリナの膝にまたがるように乗った。背中からぎゅうっと抱きしめたリナは、そっとフェイの頭を撫でる。


「んー、可愛い!」

「いいんじゃけど、こうしたら肝心の服が見えないと思うんじゃけど?」

「何言ってるのよ。フェイより肝心な物なんてないわ」

「そういう問題なのか?」

「あ、いいこと思いついちゃった」

「なんじゃ?」

「この格好で、デートしない? 学生が授業のあと制服のままお忍びデートしてるみたいな設定でしたら楽しそうじゃない?」


 ぱっと腕を離して言われた言葉に、また何かおかしなことを言うのではないか? と少しばかり警戒しながら尋ねるフェイだったが、提案内容は思った以上に普通に遊び心のあるものだった。


 仕事内容が内容だけに汚したり傷ついても問題ないが返却が義務付けられているので、着れるのは今から依頼日までだ。サイズが合っていなかったら別のを渡すので、着用してまたいざと言う時に動けるかも確認しておくようにとも言われていたので、当日以外に着用して外出不可と言うことでもないだろう。最低でも練習場に行くくらいはむこうも想定しているはずだ。

 これを着て勝手に学園に不法侵入したりしたら問題だろうが、正当な手続きで借りているものなのだから、町中で少し着て過ごすくらいなら許容範囲だろう。


「む。それは確かに、面白そうじゃな。じゃが、何故お忍び?」

「貴族なら、そう気安くデートはできないでしょ。半数以上貴族の学校なんだから、周りも念のため全員貴族として扱ってると思うし、それにのっかりましょう、そうだわ、ついでにお互いに別の婚約者がいる設定にしましょう」

「む? なぜそんな設定に?」

「なんだか貴族っぽいでしょ?」

「ふむ、まあ、リナがやりたいならよいぞ」


 たまには変わったデートもいいだろう。普通にしていたってもちろん楽しいが、マンネリを防止するのは重要なことだ。


 と言うわけで、現在は夕方には少し早い昼過ぎだ。むしろ授業の後と言う設定にちょうどいいのではないだろうか。授業時間は知らないけれど。

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