第204話 番外編 エメリナ山脈2

 胸を山に見立てたガブリエルの物言いに、初めて聞いたフェイは変なことを言うなぁと思いつつも何となく興味がわいたのだ。

 そう言われてみれば、リナの胸にもいつも触れてはいるが、そこまで胸にこだわったことはなかった。


 リナのことは全身くまなく好きだし、胸に特にこだわりもないのでそれで当たり前だったが、男の夢だ、などと一般的なことのように言われると、別に男ではないフェイだがもう少し丁寧にこだわった方がいいのかな? と言う気になったのだ。

 そう思ってみると、さっそく試してみたくて、今夜そうしようと決めていたのだ。


 だけどよく考えたら朝からそればかり考えていた、と言うのも恥ずかしいし、しかもリナの全く分からない、と言うような反応に少し焦ってきた。

 フェイは誤魔化すように意味もなく頭をかきながら、女性の胸を山に見立てていて、と説明をした。


「あー、はいはい。明日ガブリエル殺すわ」

「ぬ!? な、なにゆえ?」


 当然の様に笑みさえ浮かべてさらっと言われて慌てて尋ねると、リナはぽんとフェイの膝に手をやりながら苦笑した。


「いやまあ、殺すは言葉強かったけど、でも殴るわ」

「そんなにおかしなことじゃったか? その、わ、私としても、興味でちゃったんじゃけど、変態なことじゃった?」


 普通のことのように言われたので、当たり前のように提案してしまった。だけどこれはガブリエルにはめられたのか、と恐る恐る聞いてみると、リナは口元をむにゃむにゃさせる。


「んんん! それは全然いいんだけどね? あのね、私とフェイの間では何を求めてくれてもいいのよ。もちろん。でも、その、何て言うの? 私、あんまり胸がないじゃない? なのにそう言う、フェイが胸に興味を持つように誘導するのと、控えめに言って邪悪な行為よね」

「控えめで邪悪なのか」

「そりゃあそうでしょ。もしよ? もしフェイが巨乳に興味を持っても私にないんだから、じゃあ他の人にってなる可能性があるわけじゃない。あ、ホントに殺したくなってきた」

「ああ、なるほどの。またいつものあれじゃな」

「あれとか言わない」


 理解した。ようはいつもの嫉妬での強い言葉だったようだ。胸にこだわるのもありなようなので、変に思われなかったならいい。

 安心したフェイはにこっと笑顔になって、リナに顔をよせて頬ずりする。そのままでは体格差的に頭を擦りつけているような形になってしまうが、リナが気付いて合わせてくれたので無事、頬と頬があわさる。

 リナのすべすべな肌は頬で感じても気持ちいい。


「リナ、ではとにかく、ガブリエルのことは忘れて、私のことだけ考えればよい。よいから登らせよ」

「ぐ。ま、まあいいけど……」


 リナは不承不承と言う感じではあるが了承してくれた。だいたいリナは受け身な時は何故かいつもしぶしぶのふりをするのでこれで歓迎してくれているはずだ。

 気にせず、いつものようにキスをしながらリナの服を脱がし、寝転がせてから早速登頂を開始する。


「では出発じゃっ」


 右手の人差し指と中指をたて、リナのお腹につきたてたフェイは、とことこと指を歩かせ、リナの胸へと歩かせ、ぐい、と登頂させた。


「……うぅむ? なにか違う気がするの」

「そうね」

「うむ。これでは登頂と言うよりただの散歩じゃな」

「……」

「あ、今のは別に、平地と言う意味ではなく、その、お、丘くらいはあると思っておるぞ?」

「ちょっと黙りましょうか」


 事実を言えば、リナの胸は寝転がってしまえばほぼないに近く、ゆるやかな盛り上がり程度なので丘などとんでもない誇張表現である。フェイの露骨なお世辞に、リナはフェイでなければブチ切れているところを、他ならぬフェイなので笑顔で手を下させた。


「フェイ、じゃあ次は私が登るわね」

「む? よいけど、面白くなかったじゃろ?」

「なんでも発想よ? 面白くしようとすれば、できないことなんてないもの」

「おお?」


 いつも明るいリナだが、それにしたって過剰に前向きな発言だ。なんだか急に嫌な予感がしてきたフェイだが、しかしこの登山ごっこに他にやり方なんて思いつかない。


「う、うむ。そうじゃな。ではリナと番を変わろうかの」

「任せて」


 リナはフェイを寝転がらせて同じように胸を出させた。そこには明確に丘と呼べる大きさの盛り上がりが存在した。


「ふーっ」

「ふわっ、と、突然何するんじゃ。くすぐったいじゃろう」

「どうやら山風がふいたみたいね」

「なにを大真面目に言っておるんじゃ」


 突然息をふきかけられてきゅっと反応してくすぐったがるフェイに、リナはきりっとした顔のまま続ける。


「登山口はここね。わかりやすい目印だわ」

「んふっ」


 言いながらリナはフェイのお臍をぐりぐりした。くすぐったさと同時に微妙に気持ち悪い。

 だがどうやらリナは、フェイが思っていた以上にこのごっこ遊びをしっかりやるようだ。フェイから提案したことなので、馬鹿にされたりしないのはいいけれど、そこまでするのか。

 だけどこういうことは、突き抜けた方が面白い。楽しければ、もう一度フェイからリナにもやり直せばいいので、細かく突っ込まずリナを見守ることにした。


「さあ、山頂目指して頑張るわよっ」


 とわかりやすい状況説明をしたリナはさっそくとばかりに顔を寄せ、フェイのお臍に舌をいれた。


「は? ちょ、な、なにしておるんじゃ? 汚いからやめよ」


 さっそくつっこんでしまった。だがこれは予想外すぎるだろう。誰がなめると。まして臍。

 しかしリナはフェイの突っ込みを無視して、そのままちろちろとお臍をなめてから、そのまま舌を前後左右に揺らしながらゆっくりフェイの体を進み始めた。


「んふぅっ」


 めちゃくちゃくすぐったい。フェイは両手で自分の口をふさいで笑い声を抑え、なんとかリナを見る。ふるふると腹筋が震えてしまう。

 リナと目が合う。リナはにやっと笑うと一度舌を離した。


「どうやらこのあたりは岩盤が緩いみたいね。慎重にすすまなくちゃ」


 そしてまた舌をつけゆっくりと上にあがってくる。


「んっ!」


 しかしすぐには登頂せずに鎖骨近くまで迂回してからさがるようにしてあがりかけ、そこから勢いよく脇にそれた。


「くっ、落盤したわ! フックをかけて崖をあがるわ!」

「ふひっ」


 肘を押し上げるようにして脇を力強くなめられた。くすぐったいし恥ずかしいし本当にエメリナは頭がおかしいのでは? と思っているうちに何とか崖はのぼってくれたらしく、先ほどの場所へ戻った。

 そこからも迂回したり休憩したりしつつ時間をかけて登頂した。


「ついに到着したわ! ここまで長かったわね」

「そ、そうじゃな。はー、笑いつかれたわ。ではそろそろ」


 普段そこまで意識しない場所でもリナがずっと舌で愛撫をした結果、肌感覚はいつもより研ぎ澄まされて普通に感じてしまったフェイなのだけど、なんだかこんなのでその気になってるのは恥ずかしいのでくすぐったいだけだと誤魔化して終わろうとした。

 が、もちろんそれを見逃すリナではない。


「もちろん、山は下りるまでが登山だものね、ここで一泊して明日の朝日を拝んでから降りるわね」

「いやさすがにいい加減にしてほしいんじゃけど」

「何言ってるのよ、山」

「山!?」


 すごくナチュラルに山呼ばわりされた。確かに登られている設定ではあるけど、会話してるのに山呼びはおかしいだろう。


「ここまで来て、山頂でのんびりせずに何の意味があると言うのよ。じゃあ行くわよ。まずは喉が渇いたから、湧水を飲みましょう」

「山頂に湧水とかないじゃろ。湧水とんんっ」

「でないわねぇ」


 そしてたっぷり山頂を堪能してからゆっくり下山したリナ。


「ふー、楽しいわね!」

「た、楽しくない」

「えー、なんでよ。喜んでくれてたでしょ?」

「そ、それは、その。リナじゃから、あれじゃけど。山になるとか、なにか、馬鹿みたいなんじゃもん」

「いや提案したのフェイでしょ」

「そうじゃけどー、もっと普通に楽しいと思っておったんじゃ。恥ずかしいし」

「まあ、舌が少し疲れるけど。でも、結構楽しいわよ。フェイもやる?」

「む、むぅ……」


 あんなのでも、そりゃあ相手が他ならぬリナではあるし、どういうのがいいかバレバレなので普通に気持ちよくもなってしまうのは当たり前だ。

 だけど今回特殊なのはその前に十分すぎるほどの前置きで関係ない場所まで舐めたからなわけで。そこまでノリノリでできる自信はない。と言うかすぐに山頂したくなるに決まっている。


「いや、やめておこう」

「そう? 残念。じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

「いや、まだじゃ」

「ん?」

「山には登らんが、リナの可愛い声が聞き足らん」


 リナも十分に興奮して楽しんでいたのはわかっているが、自分ばかりやられていたのは不公平だ。お返ししなければ。

 フェイの返しに、リナは一瞬きょとんとしてからにんまり微笑む。


「ん、ふふふ。じゃあ普通にする?」

「とりあえず恥ずかしかったから、脇だけはなめるから出すんじゃ」

「え、そ、そう言われると、ちょっと恥ずかしいんだけど」

「駄目じゃ。ほれ、ばんざーい」

「わ、わかったわよ」


 位置を逆転し、リナの腕を押さえつけてフェイは左右とも舐めた。


「うっ、た、確かに思ったよりくすぐったいわっ」

「じゃろう。しかし、左右で味が違うの。臭いも」

「ちょ、に、臭いはダメでしょ!」

「何も駄目なことなどない。ふむ右の方が、少しだけ鉱物っぽいような」

「ご、ごめんなさいって、謝るからやめて。恥ずかしいわ」

「何を行っておる。何も謝ることなぞないじゃろ? じゃから別に、普通に満足するまで舐めるだけじゃ。これ、暴れるでない」


 そうしてばたばたしながらも夜更かしした。そしてこんな風にばたばたした日を送りながら、結婚式まで忙しい日々を送るのだったが、それはそれで幸せな日々なのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る