第173話 ウィンクリーン2

 アリーの家に移動して、客間に通された。アリーは戸惑いつつもウィンクリーンに言われるままにお茶とお茶菓子も用意した。

 そして席について、さて、とアリーは口を開く。


「ウィ」

「あ、そうそう。とりあえず話が進まないから、そっちの君にも声が聞こえるようにするね」


 しかしそれを遮るようにウィンクリーンがリナにウインクしながらそう言った。リナはどこからともなく突然聞こえた不思議な声に飛び上がらんばかりに驚く。


「えっ!? え、な、何、今の声」

「神様でーす。なんちゃって」

「……フェイ?」

「ウィンクリーン様の声じゃよ」

「……マジで言ってる?」

「マジも何も、嘘じゃと思う意味がわからぬ」


 声が聞こえなかった理由はともかく、今聞こえるなら神の声だとすぐにわかりそうなものなのに、リナは疑いの姿勢を崩さない。

 リナも確かに、この声には不思議な感情を覚えている。しかしリナにとって神は実際にいて話をする相手ではない。絶対にいないと思ったこともないが、そんな身近な存在だなんて考えたこともない。


「だって、神様って……実在するの?」

「はぁ? 当たり前じゃろ」


 しかしフェイにとっては身近な存在で当然だ。神とは常に自分達を見守っていて、かつ身近な産みの親でもあるのだ。


「シューペルのってことは、フェイは私らがボイコットする前から来たんでしょ? なら話通じなくても仕方ないか」

「ぬ? ボイコット?」


 話を仲介してやろうと口を挟んだウィンクリーンだが、首をかしげるフェイに、首をかしげ返す。フェイたちとは違う時間軸なので、時間感覚にいい加減なウィンクリーンだが、それでもそれほど時間がたっていないはずだ。


「あれ? 違う? あ、その子孫? あれ、でもかなり最近に出てきたってシューペルから聞いたんだけど」

「? すまぬが、よく意味がわからぬ」

「あれー? ちょっとフェイの生い立ち聞いてもいい?」

「うむ。わしは幼い頃に事故にあったらしく、お爺様と二人で山奥で暮らしておった。そ」

「それだ! わかった! 赤ん坊か! それで、お爺様からは何にも聞いてなくて、シューペルと……会った?」

「いや、まだお会いしておら」

「いやったー! ざまぁ! ぷははははは! うける! あははははっ!!」


 聞いておいて答えを遮りまくるウィンクリーン。自己完結して大爆笑。腹を抱えて机を叩いてうけている。


「あ、あの、ウィンクリーン様? 私にも何が何だかわからないのですが」


 ウィンクリーンの大笑いがおさまりかける頃を見計らって、アリーが恐る恐る声をかける。


「あー、おかしい。はいはい、ごめんね。説明ね、うん。アリーも知りたいみたいだし、フェイに教えるほどシューペルざまぁだから、どんどん教えちゃう!」


 ご機嫌でウィンクリーンは、説明しよう! とぴんと人差し指をたてて、右手ごと振り回す。

 そんなパフォーマンスをしているが、リナには姿が見えないので一人だけとりあえず机に置かれてるコップを見ている。


「えーっと、どこから説明しよう。まず、私たちがこの世界を作って、人間をつくるでしょ? それで、私たちは一億年後にどれだけ信徒が多いかで競争を始めたの。

 誰がどんな加護をあげるかとか決めたりして、私の加護はいの一番に言い出して、魔力10倍でいっちばん多いんだから。

 バカなのはレデガーだよね。9倍とか二番煎じの上に、下手に大きめの加護内容だから他の加護追加できなくて、思いっきり私の劣化で、すぐ信徒がいなくなってたよ。

 逆に面白いのはラーピスかな。魔力体力1,5倍で低くして、他にも豊作とか細々した加護をつけて。あれもこれも悩むって子が結構選んでたんだよね」


 物凄く突っ込みづらい内輪ネタを暴露された。競争してるのもびっくりだし、加護もそんな早い者勝ちで好きに選んでたのか。神々の個性からだと思っていたフェイは驚きつつ、あれ?と不思議に思って挙手をしながら問いかける。



「ウィンクリーン様? 確かレデガー様とは、遠方の青い星の神じゃったよな? 数は少ないが、信徒が皆無と言うことはないと思うんじゃけど。少なくとも、お爺様からはそう聞いておる」

「ん? あー、フェイがいたのって、そんな前なの? えーっと、レデガーが一番最初の脱落だから覚えてるよー? えーっと、確か、競争初めてから1000年くらい、のはず。だから、フェイはそれより前の時代の人間な訳」

「む? 前の時代の人間、とは?」

「あの頃は一番人間が可愛い頃だったのよねー。みんな神様神様って敬ってなついてて。

 で、魔法で凄いのするぞーってのが流行ってて、名前は忘れたけど、シューペルのとこの子が、時間転移の魔法を開発したのよ。でも初回実験で翌日に転移するはずなのに失敗してたみたいで、ずっと出てこなかったの。

 それがこの前、やっと出てきたってシューペルがもう、うるさいほど喜んでたのよ。事故ってのがそれね。そうそう、思い出してきた。赤ん坊も転移したって言ってたわ。それがフェイだったのね。うん、つまりフェイは昔の人間なの」

「……」

「あれ? ねぇ聞いてる? 私結構、フェイにとって驚くこと言ったと思うんだけど、無反応?」

「う、うむ。驚いておる。驚いておるが」


 全く予想していなかったことを、突然ウィンクリーンから聞かされたフェイは、混乱しすぎて反応できずにいた。

 確かにまるでフェイのことを知ってるような口ぶりだったが、あくまでシューペルの名前からの反応だったし、フェイ個人の情報が出てくるなんて思わなかった。


 確かに事故と言うのは、何かしら重大なことが起こったのだろうなと思っていた。だけどまさか、こんなところで、神から真実を、しかもこんな軽い調子で知らされるとは思いもしなかった。


「そ、それで、その時から、今はいったいどれくらい時間がたっておるのじゃ?」

「え? えーっと、その後もう1000年、いや、2000年だったか。そのくらいした時に、人間たちがちょっと生意気になっちゃって、みんなで協力して私たち神がしたように世界を作れないかとしてたのよね。そんなの絶対無理なのにね。健気に頑張っちゃって可愛いわよね。

 でもね、ちょっと、有り得ないよね? 人間が、神と同等のことを為そうなんて、まして、神を越えようなんて、考えるだけで駄目だよね。

 だから私たちは人間たちに罰を与えることにしたの。とりあえず、みんなが集まって相談して力を合わせるから駄目なんだってことで、共通語をなくしたの。そしてそれぞれリーダーだった人らを神派ごとに別の地域にばらばらに飛ばしたの。

 でもそれはあくまで一時的にしか困らないわ。言葉だって、今まで使ってたから取り戻すのは簡単だしね。だから私たちは500年のボイコットをすることにしたの。加護も干渉も何もかも禁止で、私たちはこの世界に降りないことにしたの。


 でもさぁ、そしたら戻ってきてびっくり。500年だよ? たった500年で、殆どの人間が私たちが実在すること忘れてるの。信仰は形ばっかりで、正式な信徒への成り方も残ってないの。言葉なんててんでバラバラのを話して、別の人間だって国とかつくってて。魔力も劣化しまくってて、私たちの姿すら見えなくなってて、もう、ひどいものだわ。

 それでもっとびっくりしたのが、すっごい数が増えてるの。動物とか魔物は面倒だから自己繁殖するようにしてるし、人間も同じように繁殖できるようにはしてるけど、500年前までは都度都度お願いされて、それぞれの神が手作りしてたのに。

 もちろん、少しは繁殖して、子孫が残ってるとは思ったけど、10人くらいは残ってるかな?くらいでそこから教育をやり直そうと思ってたの。なのに、減るどころか数えるのも嫌になるくらい増えてるの。


 いやー、ほんとびびったわ。でもちまちま弱くなって、ちょろちょろ動き回ってて、ほんとうけるし、なんか可愛いじゃない? フェイくらい昔は旅が流行りだした頃で、あ、そうそう。その時に教会が仕事を斡旋してたんだけど、それの名残が今でも残ってて、冒険者とかなんとかなってるのよ。ほんと、そう言うのだけ残るの? みたいな。

 人間である君たちにはわかんないだろうけど、私たち神的には、こんなに好き勝手に生きていっちゃうなんて、可愛いなーって。

 あれ、私なんの話してるんだっけ? えーっと、そうそう。それが300年くらい前かな。残ってる信徒達もいて、今は参加者30ないくらいで、って、それはいいか。つまり、フェイの頃から、1000年か2000年と、500年と多分300年くらいだから、2000か3000年前だね」


 説明なっがい。

 ざっくり説明すると、昔は人間は数は少なくて、魔法もみんなフェイくらい使えたけど、神の怒りをかって、ボイコットされてる間に劣化して増えた。今神様は信徒増やし中。


 ウィンクリーンの説明に頭がついていかずに固まる二人に先んじて、何とかフェイが口を開く。

 フェイの中の常識が音をたてて崩れていくが、そのなかでも信じられないことを言われたので、聞かずにはいられない、


「そ、そんなにか。と言うか、神の姿すら見えなくなっているのか?」


 神の姿が見えないなんて、リナだけが特別なのかと思ったが、そうではなかった。

 ある意味リナはおかしい。何故なら元々人間は神が見えたのだから。

 ある意味フェイはおかしい。何故なら現在を生きる人間の殆どが、神が見えないのだから。


「そうそう。声も届かないし。そりゃもちろん、私が見えるようにしちゃえばできるけど、競争してるから、一応ルールあるんだよね。信徒じゃない人間には基本干渉不可だし。昔は普通に話せたから、信徒じゃない子に直接勧誘もできたけど、そうもいかないし。てなわけで、ウチの子にならない?」

「申し訳ないが、わしはシューペル様にと決めておる」


 驚愕するフェイにさらっと勧誘するウィンクリーン。フェイは混乱しつつも、反射のように断っていた。最近何度か勧誘されていたので、流れるように返答していた。

 そんな連れないフェイに、しかしウィンクリーンは嬉しそうに相好を崩す。


「うーん、残念。でも健気! いいなー、フェイみたいな信徒懐かしいなー。可愛いー、ほしいー」


 そんなウィンクリーンに、フェイはまだ全てを飲み込めないままも、ひとまず落ち着こうととっくに冷めたお茶を飲んだ。

 それにつられるように、リナとアリーも口をつけた。








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