第164話 感知対策

「じゃあ、色々と試していきましょうか」


 翌日。さすがに、さぁ仕事ですよと始まる時までバカを引きずるほど愚かではない。フェイとリナは宿を出てから話し合い、とりあえず捕まえることができることがわかってる兎で様子見をしつつ、他の依頼内容もチェックして魔物を見つけられるか確認することにした。

 リナは文字を読めないので、フェイに一通り読み上げてもらって全部メモしておいた。


 とりあえず、そもそも最初の山であまり魔物を見かけなかったのもフェイの魔力が関係している可能性もあるので、フェイは常時結界を使いながらリナの後ろにつく形で山に向かった。

 結界を使えば大丈夫だとは思われるが、一応フェイには距離をとって浮かんでついてきてもらうことにした。


 リナがさくさく進むと、そこまで完璧に気配を殺してるわけでもないのに、魔物たちが普通に見つかる。

 兎だけでなく、鹿や蛇、鳥などはもちろん、小さな魔物も大きめな魔物も無警戒なレベルで現れる。

 リナを視界に入れてからはっとしたような反応をして、ようやく警戒を始める。


 以上のことから、やはり兎以外の魔物もフェイの魔力を察知してさけており、逆に魔法使いではなく魔力を発しないリナには殆ど気づかないことがわかった。

 ここにくる人間は魔法使いしかいないため、気配があっても魔力がなければ人間であると警戒をしないようだ。


 避けるのは兎くらいと受付嬢は話していたが、あくまで一般論だ。珍しいらしいフェイの魔力量なら影響があるとしても、おかしなことではないだろう。

 道中見つけた魔物は、チェックしていた後付け依頼が可能なものは全て倒した。と言ってもリナ一人なので、群れで見つけてその全てとはいかないが。


 フェイは荷物持ちとして、自分の結界は維持したままリナが仕留めたり確保した魔物をまとめて、別の結界にいれて運ぶ係りを担当した。


 予定していた魔物を一通り見つける頃には、お昼を少し過ぎていた。昨日の昼食をとった場所がひらけていて良い感じだったので、一旦飛行で移動して昼食をとることにした。


 腰を下ろして落ち着けて、昼食を食べながらそれにしても、とフェイは午前中のことをふりかえる。


「ふぅむ、どうにも、私の魔力が大きな原因じゃったようじゃのぅ」


 昨日とは違い、普通に困ったなぁどうしようと言うように、フェイは眉尻を落としながらため息をついた。


「そうね。でも、逆に私なら効率よく見つけられるし、一長一短じゃない?」

「むー、それはじゃけど、私が何の役にも立っておらんじゃろう」

「身軽に狩りができるってだけで、荷物を持ってもらうのはすごく助かるけど?」

「嘘じゃー、リナは荷物持っておる時でも普通に狩っておるじゃろうが」


 何だかめんどくさい方向にいじけてきたぞ、とリナは目を細めた。


「んー。嘘じゃないし、そもそもフェイが身体強化かけてくれないと、ここまで狩れないんだけど。て言うか、何でもうこのまま行く感じになってるの? このあと、どこまでフェイの魔法が有効で、どう役割分担していくかを決めていくって、朝決めてたでしょ」

「む! まあ、そうじゃの。すまんの。お主が一人でもどんどん狩ってしまうものじゃから、ついの」


 午前中の成果だけで、すでに1日分とするには十分なほど獲物がたまっている。よほど無警戒らしく、リナだけなら頻繁に見つかり、そして大型でそれなりの値段の魔物でも単体なら仕留めるのはリナにとっては難しくない。

 なのでもうこれ、自分いらないんじゃない?と言う心境になっていたフェイだったが、確かに予定ではこらから検証だ。それに稼げて悪いわけでもないし、フェイが頑張ってもっと稼げるならそれに越したことはない。

 

 うん、と自分で頷いて、フェイは気合いをいれて昼食を胃におさめた。


「では、午後は実験といこうかの」

「そうそう。兎の数も十分だし、存分に実験してちょうだい」


 昼食後、気持ちも新たに出発する。今度は立場を変えて、フェイが前にリナが後ろにと言う順番で、リナが荷物を持った。


 リナ五人分ほどの量の荷物であるが、重さは問題にならないのでそのまま腰回りに紐で繋げた。歩きにくいが、頭上にかかげたりすると木の枝葉に当たってしまうので仕方ない。


 結界を使えば魔力を感知されなかった。なのでまずはその結界がどの程度まで感知されなくなるのかを確認しよう。

 フェイはとりあえずいつも通り結界を維持して魔物を探す。するとすぐに兎の群れが見つかった。


 見つからないように身を潜め、そっと兎を見つめながら、フェイは今ある結界の回りにもう一回り大きく、魔法だけを通さない結界をつくった。そうしてから内側の結界を解除する。


「……」


 兎は特に何の反応もしない。魔法結界だけでも問題ないらしい。ならば次はその逆だ。さらに一回り大きく、今度は物理的な結界をつくって、内側の結界を解除する。


 キキィ!


 途端に兎たちは先を競うようにフェイがいない方へ逃げ出した。


「ふむ」


 予想通りだが、魔法結界が肝要だったらしい。フェイは逃げ出した兎は無視して、右手で顎を撫でながら再度結界を展開し直した。

 その後も魔物を探しては実験を続けた。結界の内側に魔法結界をつくってから解除すると、結界と結界の隙間の空気にはすでに魔力が含まれているようで気づかれた。

 ただしさすがにこれは量が少ないようで、兎には気づかれたが、他の魔物は気づかれなかった。特別兎が敏感なのは間違いないようだ。


 次に魔法結界をつくったまま攻撃する方法を考えてみる。結界自体が自分の魔力からできているものなのだが、それを通すとするとちょっと魔法陣がややこしいことになる。

 魔力消費を考えると大きめに結界をつくって、手のひらからだした魔法が結界にぶつかる前に、魔法が入らない自分を覆う結界をつくって外側の結界を消すとした方がいい。

 だがもちろん、そんなめんどくさいことするなら、獲物を結界に閉じ込めた方が楽だししない。


「風刃」


  なので、結界の外に魔法陣をつくって風刃等を展開して攻撃してみた。結界内でつくっても無効化されるからだ。

 魔法陣自体はいつもは手のひら表面で展開しているが、単に射出方向が合わせやすいし作るときの基点にしやすいからだ。位置を決めればどこにでも魔法陣をつくれる。


「? 何も出てないわよ?」


 遠目に見える大きな鹿の親子に向けて手をつきだしたフェイだったが、何の反応もないのでリナが首をかしげながらそっと声をかけた。


「うむ。結界の外に魔法陣をつくるのが、うまくできんな」


 普通にやろうと思ったら、結界に阻まれた。魔法以外なら問題なく通るので、肉弾戦に持ち込むなら何の問題もない。結界内部に魔物が入れば当然気づかれるが、手を伸ばしたすくそこまで近づけば問題ないし、そもそもさすがに近すぎて魔力以外の要素で気づかれる。

 だが一対一ならともかく、群れだと一匹捕まえる間に逃げられてしまう。


「もう、無理しなくてもいいんじゃない? 今までだってフェイがしとめて私が回収なんてざらだったし、ここでは私がしとめる係りでもいいんじゃない?」

「……私、解体とかできんもん」

「ああ……」


 物凄く今更だが、フェイがしないのが当たり前すぎて、そして作業をしなくても冒険者なら解体ができるのが当たり前すぎて、フェイができないことを失念していたリナ。

 右手で口許を隠しながら曖昧に頷いたリナに、フェイは唇を尖らせた。今までできないことを全く気にしなかったが、こうなると困る。


「ぬぅー、こうなったら、仕方ないの。結界で魔物を捕まえるしかないの」


 今使っている結界と同じ魔力で作られた同じ魔法であれば、魔力変換も流れも全く同じになるので結界の外を基点にしても問題なく使用できる。


「まあ、そうね。捕まえちゃえば、どうとでもなるし。でもフェイ、そう言う漁みたいなの嫌いじゃない?」

「あまり好かんの」


 確実に遠距離から捕まえてー、なんてのは全く緊張感もなくて面白味がない。狩りではなく単なる作業だ。それではつまらない。

 逆に狩人であるリナの方が、自分達が生きるための狩りなのだから方法にはこだわらず、結界でも問題ないと思っている。


 リナとしては、どちらの方法でもフェイがいさえすれば一人よりずっと効率よく狩りができるのは変わらないので、フェイがいいならどちらでもいい。


「じゃが、リナの足手まといになるくらいなら、仕方ないの」

「そう。別に群れを相手にしないなら、武器をもってやってみたらいいんじゃない? 物理攻撃なら普通にできるのよね?」

「む。それはそうじゃけど、魔法を使うより効率が悪いぞ?」

「とりあえずやってみて、どのくらい稼げるか見てみたらいいじゃない。仕事だけど、楽しめてやるなら、それに越したことはないわ」


 生活が難しくなるほど非効率ならともかく、日々貯金をしていける程度に稼げるなら、十分な貯蓄のある今効率を最重視することもない。


 リナの言葉にフェイはちらりと上目使いでリナを見上げて、ちょっとだけ首をかしげて無言でほんとに?と尋ねる。

 可愛さににやけそうな頬を、微笑みにとどめてリナは穏やかな笑顔で頷いて見せる。フェイはぱっと表情を明るくさせる。


「そうかっ。ならば、まずはあの鹿で、でっ? し、鹿がおらんぞ!?」


 元気よく正面を向き直して、何もいない空間に驚いてリナを振り向く。リナはきょとんと首をかしげる。


「え? とっくにいないけど? さっきから普通の声で話してるし、気づいてるものとばかり」

「ぬ、ぬぬ。よしっ、では探すぞ!」


 言ってよーと文句を言いそうになったが、気づかなかった自分が悪い。あの鹿でないといけないわけでもない。気をとりなおして、フェイは声をあげた。








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