第163話 魔力量
教会で聞いたところ、やはり魔物が魔力に反応するのはよくあることのようで、魔力が多いと自然と漏れだしてしまう魔力の気配が増えるので特に顕著に現れるとのことだ。
「魔力はいくつですか? それによって対策も異なりますが」
「確か以前に計ったときは3000くらいじゃったかな」
最初に計ったきり、特に意識することもなかったが、多分そのくらいだと記憶をしぼりだす。フェイの答えに尋ねた受付の女性は首をかしげる。
「おかしいですねぇ。そのくらいの少なさなら、反応しないはずなんですが」
「3000は少ないのか?」
「まあ、そうですね。一万から三万くらいはそう珍しくはありませんし」
「な、なんと。そんなにか」
前に計ったときは結構あるねと誉められていたので、魔力には勝手に自信を持っていたフェイはショックで目を見開いて意味もなく、受付嬢の頭の先から、受付台で隠れていない胸下まで視線を往復させる。
よく考えたら魔法使いの数が全然違うのだから、魔力量の平均だって違ってもおかしくない。でもそのくらいとかひどい。
何とか動揺を隠そうと、フェイは右手を口元にあてながら話を続ける。
「むぅ。しかし、確かにあからさまに逃げられたんじゃが」
「以前のことなら、多少は上がってる可能性もありますよ。はかり直してみますか?」
「うむ。頼もうか」
「一回100Mです」
「お、安いの」
「そうですか?」
詳しい金額は覚えていないが、確かアルケイドではもっとしたはずだ。やはり違うんだなぁと改めて、魔法使いの国と言う大きさに感心しながらお金を払う。
実際、アルケイドでは魔法使いの数は少なく、測定器自体もそう出回っているものではなくそれなりの値段の為、一回1000Gと、こちらの十倍だ。しかも魔法具は全く違うもので、こちらの方がより高性能だ。
「ではこちらの玉に手をのせてください」
「む? これで計れるのか?」
「はい。こちらに数字が出ます」
アルケイドでは水晶のついた人が乗り込む体重計のような大がかりなものだったが、受付嬢が指し示したのは受付台の脇にちょこんと乗っている、手のひら程度の大きさの、水晶が台に乗ってるような魔法具だ。
水晶部分に表示されると言うのは変わらないが、大きさがまるで違う。
本当に大丈夫なのかとちょっぴり疑いつつも、フェイは魔力量が低いままだと嫌だな。とおっかなびっくり手をのせた。
「むっ……さ、3612か。うぬぅ」
手をのせて二秒ほどで、すぐに水晶には【03612】と数字が水晶の上面に浮かび上がった。表示速度もかなり早いが、それより数字が大して大きくなっていないことにがっかりした。
「じゃ、じゃけどのぅ、本当に、兎がすぐ逃げたんじゃよ?」
嘘じゃないよと主張しながらフェイが手をおろしながら受付嬢に声をかけると、表示を見ていた受付嬢はいぶかしげな顔からはっとしたように慌てて笑顔をつくった。
「は、はい。もちろん、疑っているわけではないのですが、あの………すみません、そちらのお連れ様も、魔法はお使いになられますか?」
「え? いえ、違いますけど?」
突然受付嬢に話しかけられ、魔力量に興味がなかったリナはきょとんとしながら、一歩前に出てフェイの隣に立って受付嬢に首をかしげた。
「では、大変申し訳ございませんが、一度確認のため、計測いただけませんか? もちろんお代はいただきません」
「え? い、いいですけど、私魔力ないと思いますよ?」
「すみません、他の確認方法では時間がかかる可能性がありますので、お願いします」
「は、はぁ」
受付嬢に真剣な顔でお願いされてリナは不思議がりつつも、水晶の数字が消されたので促されるまま手をのせた。
さっきよりさらに早く数字が表示された。
その数なんとたったの【5】。ゴミですね。
「ふっ」
「ちょっと」
「すまぬ、つい」
横から覗き混んでいたフェイは思わず鼻で笑ってしまい、リナに睨まれてささっと右手で鼻から口まで隠した。
「もう。だから言ったじゃないですか」
「いえ、確認ができました。ありがとうございます」
「? 何がですか?」
「冒険者になろうと言う方で一万以下は滅多にいないので、確認させていただきました。この測定器は五桁までしか表示されません。十万を越えるのは巫女様ぐらいで、他の人は過去最高で七万でしたから」
「む? ……なるほど、わしの表示は先頭に0があったが、一万以下で0が表示されるのが正しいのかの確認じゃったのじゃな?」
受付嬢の言葉にフェイは自身とリナの表示を思い返して、受付嬢が何を確認したかったのかに気づいて、右手でにやける口元を隠したまま平静を装って問いかけた。
「はい。一応仕様として、表示はされないと聞いていましたが、万が一機器の不備も考えられましたので」
「巫女様の魔力を測定する方法は、わしもすぐに使えるのかの?」
「申し訳ございませんが、前例がありませんので即答致しかねます。一度こちらで確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「うむ。頼む。しばらくは定期的に来るつもりじゃから、その時に声をかけてくれればよい」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。どう言うこと?」
訳のわからない内にフェイと受付嬢が話を進めていくので、置いてけぼりのリナはさすがに口を挟む。フェイは首をかしげながら右手をおろして、リナを振り向く。
「なんじゃ、リナはわしの測定値を見ておらんかったのか?」
「見てなかったけど、3600なんでしよ?」
「いや、【03612】と表示されたんじゃ」
ぜろさんろくいちにー、とどや顔で言われたリナは、余計にいぶかしげな顔になる。つまりそれは3612、と言いかけてから気づく。
自分の表示は【5】だ。フェイが受付嬢に尋ねた0の有無はつまり、先頭に0がついているのには意味があると言うことだ。
「もしかして、表示されてないだけで、まだ上に魔力値が来るってこと?」
「そう言うことじゃな」
ようやくリナはフェイがどや顔である理由を知った。もう一桁上と言うことは最低でも10万3612はあると言うことだ。しかも思い返すと、前列がないとか言ってたし、要はめっちゃすごいと言うことだ。
「凄いじゃない! さすがフェイね!」
魔力量とか5のリナからしたら多いとは思うが、どくらい凄いことなのかはぴんとこないが、とりあえず凄いことはわかったので、全力で褒める。右手で頭を撫でて左手で肩を叩いて大にぎわいだ。
「ふ、ふふふふ、まあ、まあ。わしほどの魔法使いともなれば、当然じゃよ。ぬふふ、もっと褒めるがよい」
「凄い! 天才! きゃー! 素敵!」
「ふっ、ふふふ」
「あのー、すみませんが、そろそろ」
凄いとは受付嬢も思っているのだが、軽いノリで騒ぐ二人にはちょっと引く。騒ぐこと自体迷惑だけど、そんなすごーいみたいなレベルじゃないし、ちょっとおかしい。
戸惑いつつも注意をした受付嬢にフェイははっとして、リナにまあまあと右手で制止しながら受付嬢に向いた。
「む? おお、すまんの。では最後に、対策方法を教えてほしいんじゃが」
「魔力量が一万くらいなら、魔法具で誤魔化せますが、それ以上だと難しいですね。魔力を関知して逃げ出すのは弱い兎くらいなので、罠を仕掛けるのが一般的ですけど……ただ、十万越えの魔力ですと、どの程度まで影響があるのかはちょっと……」
受付嬢は言いにくそうにしながらも教えてくれたが、あまり解決しない。とりあえず試行錯誤してみるしかないだろう。
受付嬢にはお礼を言って教会を後にした。
「ふ、ふふふ。しかし、いやぁ、わしの凄さが明らかになってしまったのぉ」
教会を出てからもフェイは上機嫌だった。魔法使いの国みんな凄すぎじゃね? もしかして、自分ってポンコツなん? と不安感があっただけに、平均を越えた魔力量と判明してやっぱりフェイがナンバーワン!とかつてないほど調子に乗っていた。
「そうねぇ、凄いわねぇ。さすがフェイねぇ。しびれちゃうわねぇ」
そして落ち着かせるどころかさらに助長させるリナ。
「うむ、うむ。そうじゃろう、そうじゃろう」
嬉しそうにフェイはニコニコして、鼻唄でも歌いそうな勢いで足取り軽く、リナの指先をちょっとだけ摘まむようにして持った。
これで手は繋いでないから恋人だと人には思われないと工夫した結果らしい。可愛らしいのでOKなことにして、リナはちょっとだけ指先を曲げて応えた。
「フェイ、ご機嫌ね。ほんとに、魔力が多くてよかったわね」
「うむ。まぁまぁ? 低いと思ったことは別になかったがの。やはり明確になると、嬉しいの」
「あら、でもあれよね。前に計ったときは普通に少なかったのよね? そんなに増えるもの?」
前に計った時は一緒にいなかったリナだが、話では聞いていた。首をかしげるリナに、フェイはきょとんとしてから顎先に空いている左手の人差し指をあてる。
「む? いやー……確認はとれておらんが、あの時の機械の表示が四桁しかされなかった可能性があるの。そんなに増えた感覚はないしの」
「増えたとかってわかるの?」
「うーむ。あんまりはっきりしてはおらんが、魔力消費の大きいものじゃとちょっとはわかるぞ」
「そう言うものなの」
「うむ。そうじゃな。いやー、あまり細かな数値はよくわからんと思っておったが、数字が大きすぎたからじゃとはな。参ったのー」
いい加減うざくなってくるくらいの自画自賛。そしてどや顔。
普通の冒険者パーティならここら辺で、魔力を感知される問題について話し合っていて良い頃合いだ。何なら教会を出てすぐに話し合っていてもおかしくない。依頼をこなせなければお金が稼げなくて死活問題になりかねないのだから。
しかしここでさすがのリナさんは違います。
「そうねー、フェイは可愛くて強くて最強ねー」
可愛いからOKと言わんばかりに、そもそも話聞いてるのかと聞きたくなるようないい加減な相槌をうつリナ。
「うむっ、まぁの!」
そしてそんな相槌でも得意気になるフェイ。どこからどう見てもバカ(ップル)です。
そんなバカは翌日になるまでどや顔プレイを続けた。
○
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