第127話 ディープキス
「リナー、ただいま帰ったのじゃー」
フェイが帰ってくるのをリナは心待ちにしていた。もちろんそれは昨日だって待っていたけど、今日はそれ以上に下心がある。
だって昨日はガブリエルとの会話により、キスをできるようになったのだ。今日は一体どんな話を聞いてきたのか。ドキドキするに決まっている。
フェイのことをまだまだ幼いとは思っているリナだが、恋人としてみているのは間違いない。それは単なる親愛ではなく、下心があるのは前提だ。なのでフェイがいいと言うなら、望むのなら、それはリナだってばっちこいである。
とは言え、心配だってもちろんしている。調子にのったガブリエルから、あれやこれやと性知識をしこまれて、もしおかしな話をされてショックを受けたりしていないだろうか、と。
しかしフェイはこうして元気に帰ってきたので、少なくとも心配するようなことはなかったのだろう。リナはほっとしてフェイを迎えた。
「おかえり、フェイ。ガブリエルも、見送りありがとう」
「おう、いい夢みろよっ」
昨日よりも酔っぱらっているらしく、ガブリエルはびしっとリナに指を指してそう言いながら、階段で転んで落ちていった。どんっと言う音がした。
夜中に迷惑にもほどがある。知り合いだと思われたら恥ずかしいので無視してドアを閉めた。いてーと叫んで走り出す音がしたので問題ないだろう。
「ぶふっ、リナ、リナ、今の見たか? 今のっ、ふふ!」
「そうね、うけるわね、爆笑ね、はいはい」
今日は昨日よりもさらに酔っているらしい。ふにゃふにゃしている。リナはフェイを運ぶようにしてベッドへ移動させ、靴を脱がせて、ベッドに座らせる。
「フェイ、ベッドに入るから、綺麗にして」
「うむ」
フェイはうむうむと口元をむにゃむにゃさせてから、リナに言われるまま魔法を行使する。いつもする動作なので、ベッドに入るとなれば無意識に魔法を使う。
リナはすでに自分の体は綺麗にしていたが、リナの分まで綺麗になった。わずかな発光だったが、暗かったのでリナにもそれはわかった。
「さ、ベッドに入って」
「むー、リナ、リナぁ」
甘えるように鼻にかかった声で名前を呼ばれ、リナはその可愛さにどきっとしながらも返事をする。
「はい、なぁに?」
「一緒に寝よう?」
「…………ええ」
リナは笑顔をキープしたまま、ベッドに入ったフェイに続いて隣に寝転ぶ。
(落ち着け落ち着け、落ち着け私。めっちゃ可愛かったけど、死ぬほど可愛かったけど! 寝ぼけてるだけ寝ぼけてるだけだから! 隣で寝るとか別に全然珍しくないから!)
内心、ばくばくする心臓を押さえて、フェイを今すぐ抱きしめてキスしたいと言う欲望を理性で抑えて、リナはフェイと適切な距離をとった。
だがそんなリナの気持ちなんかちっともわからないフェイは無邪気にリナにお願いをする。
「リナ、もっとちこう寄れ。キスができんではないかー」
「ほぇっ!?」
(え、お……おぉ、い、いいわよね? フェイから誘われてるんだから、オッケーよね!?)
「え、ええ、もちろん、そう、近づくわね」
「よしよし」
動揺しつつも素直に近づいてきたリナにフェイは右手をのばしてリナの頭を撫でて、そのままリナの左頬まで手をおろし、上体を持ち上げてリナに覆い被さるようにして、リナにキスをした。
「ん……リナ、可愛いの。好きじゃぞ」
「う、うん」
キスをしてからフェイが顔をあげたのでリナも目を開けると、フェイは微笑みながらそんなことを言ってくる。月明かりと相まってものすごく格好よくて、さっきの可愛さとのギャップもあってきゅんきゅんする。寝ずにフェイの帰りを待っていたかいがあると言うものだ。
そうしてうっとりするリナに対して、フェイはにっこり笑ってまた顔を寄せてくる。リナは目を閉じてキスを待つ。
「ん……ん!?」
そして期待通り唇が合わせられて、吐息をもらした次の瞬間、突然口の中に入ってきたぬるぬるした熱い物体とアルコールの強烈な匂いにリナは目を見開いた。
驚いた一瞬は何が起こったのかわからなかったが、すぐに察する。フェイの舌がリナの口内に侵入してきたのだ。
フェイの舌はゆっくりで、乱暴なものではなく、そっとリナの舌をなめあげる。ゆっくりだからいいと言うものではない。
「んんっ、んふぅ」
背筋がぞわぞわして、声がでてしまう。自然と体がくねってしまう。だけどそんなリナに頓着せず、フェイは右手でリナの首から顎、頬の辺りを固定させて、リナの口の中をなめあげる。
アルコールの匂いと共に流れてくるフェイの唾液は熱くて、リナは頭がくらくらするほどの快楽に、目の前が点滅しているようにすら感じた。
「んん、はぁ、り、リナ」
「はぁ、な、なに?」
「好きじゃ」
「う、さ、さっきも、聞いたわ」
「何度も言いたくなるんじゃ。リナのことが、すごく好きで、いとおしいんじゃ」
「っ」
(ああ、もう、めちゃくちゃにして!)
リナは感極まって、自分の両太ももを擦り合わせながら、フェイに自分から抱きついた。
「フェイ、大好き。めちゃくちゃにして」
もはや取り繕うことはない。頭の中に浮かんだ言葉はそのまま口から出ていく。意地っ張りで、素直に自分から言えないリナは今はいない。いるのはただ欲望に素直になったリナだけだ。
「う、うむ!」
その上気したリナの様子に、フェイもまた体の体温をさらにあげながら、さらにキスを重ねた。
○
「っ、はぁっ、はぁ」
「はぁ、はぁ……ふぇい」
口が塞がれるため、意識して鼻で呼吸をしようとしてはいても、夢中になるとつい息をすることを忘れてしまって、フェイは肩をゆらしながら、僅かに顔をあげた。
鼻先でリナもまた、息を荒くしている。うるんだ瞳で、甘ったるいほどの乱れた声でフェイの名前を呼ぶ。なんて可愛らしいんだろう。
フェイはたまらないくらい、リナへの気持ちがあふれそうで、声にならない声をあげる。
「っ、ー! ああっ、リナ! 好きじゃ!」
そして結局は陳腐なほど安直な言葉だけが形になる。こんなにも語彙のない自分が情けなくもあり、表せないほどリナが好きなのだと、誇りたくもあった。
何度も何度も口づけて、舌をいれた。リナもフェイも繰り返すその動作に、徐々になれ、ぎこちなかった動きは改善され、互いに舌をからますようになった。
そうなればなるほど、フェイの体温はあがり、どんどんとヒートアップして、もっともっとリナに近づきたくて、リナと一つになりたいとさえ思えて、無意識に近い動きでリナの体を撫でた。
「んっ」
頬から離して右手で最初に触れたのは肩だ。なんと言うことはないし、肩を叩いたり揺すったり、いつでも触れることはあった。
だけどリナもまたフェイと同じく高揚しており、熱くなった体は些細な動きにすら過敏に反応してしまう。
「ん、ちゅぅ」
フェイはまたリナとキスをしながら、両手でリナを撫でていく。右手は肩をつかみ、親指で揉むように撫でてから、左手で首筋から、肩へ、そして腕へ、指先へと徐々におろしていく。
「っ、ふんっ、んんっ、ぁん」
その度にぴくぴくと身を震わして声をもらすリナが可愛くて、フェイは右手の力を込め、左手もたどり着いた指先と繋ぎ合わせ、指を絡ませるように握りしめた。すぐにリナの右手もまたフェイの手を握り返してくる。
「はぁ、はぁ」
「リナ……」
「ふぇ、フェイ……」
ぐったりとしたリナの対応に、少しだけフェイは申し訳なく思ったけど、アルコールが覚めても体温が冷めないフェイは、まだ物足りなくて、
「もう1度だけ、よいか?」
と囁くような声でおねだりをする。リナは声には出さずにこくりと小さく頷いた。フェイはリナと繋いだ左手を持ち上げて、リナの肩の横まで持ってきてから手をベッドに下ろす。
リナの上になっている関係上、どちらかの手をつかないとリナに乗っかってしまって身動きがとりづらいのだ。
なお、先程まではリナの肩に体重をかけている状態だったのだが、それはフェイの力強さと共に若干の無理矢理されているような乱暴さを感じられて、とってもウェルカムな状態だった。
「リナ」
リナの右手ごと自分の左手に体重をかけたフェイは、自由になった右手でリナを撫でながら、キスをする。
「!!?」
キスと共に触れられた箇所の予想外さに、リナはそれまで以上に敏感に反応してしまう。
フェイが触れたのは胸だった。寝るために胸当てはもちろん外され、布一枚を挟んですぐにリナの素肌がある。フェイの手の熱さは、その動きは、感触は、厚手の生地越しでも、リナに快楽を与えるには十分に伝わってくる。
仰向けに寝転んでいるため、リナの胸は殆どないようなものだが、性感帯としてキチンと動作している。フェイが子猫にじゃれるように指先でそっとひっかくように、リナの脇から胸にかけての辺りを撫で上げる。
舌の感覚だけでもいっぱいいっぱいだったリナには、ぞわぞわするその感覚に恐怖さえ覚えそうだけど、それをもたらしているのがフェイだと思えば、もっともっととねだりたくなる。
「んふぅ、っ、んんっ」
舌の動きと連動するように、徐々にフェイの右手は激しくなり、優しく撫でていた指先はいつの間にかリナの左胸を掴みあげるようになり、ぎゅっぎゅっと揉むように握られる。
「ーーっ!」
そしてすぐに限界が訪れる。絶え間なく与えられる快楽に、リナは声をださずに身を震わせ、フェイの左手を骨折しそうなほど握りしめ、空いていた左手は無意識にフェイの腰を引き寄せて抱き締めていた。
「っ、ぷはぁっ、はぁ、はぁ」
その動きに、フェイもまた呼吸の限界がきていたため舌をぬいて口を離し、されるまま抱き締められた状態で大きく息をすった。
フェイの動きが止まったことで、リナも僅かに身をよじり、とろけそうな体を抑えて、大きく呼吸をととのえる。
「ぁ、んはぁぁ、あぁぁ……もう、ダメ」
「うむ、そう、じゃの。何じゃか、興奮して、ちと、乱暴にしてしまったの。すまぬ」
ガブリエルからは何か触るとざっくりしたことしか聞いていなかったが、キスをする内に興奮して、フェイもよくわからないまましてしまった。
リナはそんなフェイの謝罪にまだ荒い息をおさえつつ、左手でフェイの頭を包むように撫でながら答える。
「ううん、そうじゃ、なくて、はぁ。その、つまり……よかった、って、ことなの」
「そうか。ならばよかった」
「うん。でも、ちょっと疲れたから、もう、寝ましょうか」
「うむ。そうじゃな。私も、ちと疲れた。ふわぁ」
フェイはあくびをしながら、リナの体にのっかっていた状態から降りて、隣にぴたりとくっつくように寝転び直す。
「では、おやすみ、リナ」
「ええ、おやすみなさい、フェイ」
最後にもう1度キスをしてから、二人は手を繋いだまま目を閉じた。
○
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