第128話 恋人としての話し合い
「あの、ところでちょっと話してもいい?」
「ん? なんじゃ?」
「まあ、話って言うか、お願いって言うか、いいかな?」
ラブラブな一夜を過ごした翌朝、休日なのもありゆっくりと目を覚ました。寝ぼけてじゃれついてきたリナの可愛さを堪能していたフェイは、しっかり目を覚まして、神妙な顔でどこか人目を憚るようにこっそり尋ねてきたリナに首をかしげる。
「うむ。なんじゃ? リナが望むなら、何でも叶えてやるぞ?」
「そんな大層なことじゃないんだけど、昨日、キスのことガブリエルに言ったでしょ? その、昨夜のことは、言わないでほしいの。恥ずかしいし、あんまり、人に言うことじゃないのよ。ね? わかってくれるわね?」
同性の友人と言う関係は特に、口が軽くなりがちだ。特に素直なフェイのことだ。教えてくれたガブリエルにはと逐一報告してもおかしくない。だけど勘弁してほしい。もしフェイがそう言う話になれていて、大事なことをぼかしてくれるならいいが、そうではない。事細かに話をされるのはさすがに恥ずかしすぎる。
「なんじゃ、そんなことか。わかった。ガブリエルには言わぬよ」
「そう、よかった。あ、と。ちなみになんだけど、ガブリエルからどのくらい詳しく聞いてたの?」
昨夜のことは素敵な記憶として頭の中に残すとして、しかしあまりにもガブリエルから色んなことを教わったのだとすると、ちょっとばかり嫌な感じだ。元々知識はあると本人は言っていたし、本人の様子からも、いかがわしい感じではなさそうだけど。
それにしたって男から成人前の女の子がセクシャルな指南を受けると言うのはあまりに人聞きもよくないし、リナとしても嫌だ。とは言え本人は恋人のできた弟分に教えてやってるつもりだろうし、フェイも望んでいるのだからリナに口を挟めることではない。
だが、内容によってはクレームのひとつもつけるべきだろう。おかしな性癖など、可愛いフェイが知らなくてもよいことは世の中にはたくさんある。
「む? そうじゃの。まず恋人と言うなら、キスのひとつもしてしかるべきであり、キスをしたなら、舌をいれたり、触れあったりするんじゃろ。具体的なことは、お互い酔っておったし、人目もあるから話さんかったが、昨日のあれで、よかったのかの?」
「え、ええ。少なくとも私は、満足だわ」
「そうか。ならばよかった」
「でも、そうなの。そんな感じなのね」
リナとしては女の子であるフェイが、ガブリエルから男の生理的なものを聞いたのだとすると嫌だったが、よく考えたら大衆の居酒屋で、そこまで詳しい話をすることはないか。お互いにある程度知識があれば隠喩で通じるが、全く知らないフェイに言おうと思えば改まってより直接的に言わねばならないので、割合難しい。
大雑把な説明なので、ガブリエルからはもっと色々聞いている可能性もあるが、ぱっと口から出ないということはあまり覚えていないと言うことだ。問題はないだろう。
そもそも本人が平気な顔で帰ってきたのだから、あまりリナが気にすることもないだろう。リナはこれ以上詮索するのをやめようと決めた。
「うむ。しかし、口ではそうあっさり聞いたんじゃけど、実際にやると、やはり、違ったの。なんと言うか、気持ちよかった」
「そっ、そう、ね」
はにかみながらもストレートに言われて、リナも否応なく昨夜のことを思い出されて、どぎまぎしながら何とか相槌をうつ。
そんなリナの反応にフェイはにこにこしながら、頬を赤くしつつもさらに言葉を続ける。
「ドキドキして、リナのことがすっごく可愛くみえたぞ。えへへ、毎日は疲れるが、また折を見てするとしよう」
「うっ、う、うん。そ、そうね。また、ね」
「うむっ」
二人は恋人なのだから、何度キスをして触れあおうとおかしなことではないのだが、そんな風に口に出されれば動揺せざるをえない。
リナはドキドキ煩い心臓が口から出ないように、右手で胸元を押さえながら顔をそらして何とか頷いた
「さて、このままリナと二人でいたいのは山々じゃけど、お腹が減った。食事にしようではないか」
「ええ。そうね」
お昼には少し早いくらいの時間なので、食堂はすいていた。マリベルに案内されて、勧められるまま本日のオススメを頼む。
「お待たせしましたー」
「うむ。ご苦労」
もはやマリベルの猫耳には目もくれず、フェイはにこにこしながら朝食を始める。と思ったら、パンを一口ちぎってリナに差し出してきた。
「リナ、ほれ、あーん」
「えっ、いや、えっ、わ、私も、同じのを頼んでるんだけど?」
「そんなことわかっておるわ。じゃけど、やりたいんじゃもん。もっとリナと仲良くしたいんじゃ!」
「わ、わかった、わかったから声のボリュームをさげてくださいっ」
マリベルとその母マルタがにやにやした笑みを向けてきているのが視界の端に見えて、リナはこの宿変えたい!と心底思った。
しかしすでに数ヵ月住んでおり、食事に関してはサービスもよくしてくれていて、顔馴染みの今変えるに変えれない現状があるため、仕方なくマリベルたちを意識から外した。
(落ち着くのよ私。あーんなんて、散々やってきたじゃない!)
今までのバカップルっプリを思いだして、リナは恥ずかしさに身もだえしながら朝食を終えた。もちろん、フェイの分はリナが食べさせた。
今までは客が多くいたので目立たなかったが、ほぼ客がいない現在、めっちゃ見られてるとかそんな事実はない。ないったらない。
○
「フェイ、お話があります」
朝食後、部屋に戻りリナは部屋に入るが早いか、真面目な顔で自分のベッドの、向かって左隣のフェイのベッドへ向かい側になるように座ってそうフェイを促した。
「む? またか?」
「またです。はい、座って。いや私の膝に座ろうとしない。はい、そっち座って距離保って。今は手を繋ぎません。いや後で。あーとーで! 怒るわよ」
「むう、けち」
「けちじゃない。可愛い顔しない! 許したくなるでしょ」
「むぅぅ」
不満を顔に出しただけなのに理不尽なダメ出しをうけ、フェイは自分の頬にそれぞれ両手をあててこねながら、リナの隣に一旦は下ろした腰をあげて、向かいになるよう自分のベッドに座った。
「で、なんじゃ?」
「あのね、あんまりこう、外でいちゃいちゃするのって、よくないと思うの。もちろん、嫌ってわけじゃないのよ? 確かにやってる人もいるけど、でもほら、やっぱり外って恥ずかしいし、二人きりの時だけいちゃいちゃしたいのよ。人に向かってアピールするみたいなの、嫌なのよ」
「ふむ」
神妙な顔で右手で顎を撫でて頷くフェイに、リナは不安になる。ちょっぴり早口めになって言ってしまったが伝わったのだろうか。
付き合いたてで勝手なことを言っていると思うが、バカップルだと後ろ指さされるようなのは勘弁してほしいのだ。
右手で髪をかきあげながら、リナは前屈みになってフェイを見つめて再確認をするため口を開く。
「あの……わかってくれる? フェイのこと、どうこうってことじゃないのよ? もちろん大好きよ?」
「わかっておる。つまり、リナは二人きりじゃないときにいちゃいちゃするのが恥ずかしいんじゃろ? 朝に言ってた、ガブリエルに言うなと言うのと同じで、恥ずかしいんじゃろ?」
「そう、そうなのよ!」
フェイの答えに、リナは右手で膝を叩いて同意する。わかってくれたか!
「うむ。私もさすがに、人に見られるのは恥ずかしいからの。するつもりはないぞ。じゃから安心せい」
「ん……?」
(あら? フェイも恥ずかしいって、え? さっき何のためらいもなく、あーんしてたじゃない?)
「でもさっき、あーんて、してたけど、え、恥ずかしかったの?」
「む? いちゃいちゃとは、過剰にくっついたりとか、キスしたり、昨日のあれとか、そう言う感じじゃろ? あーんとか、手を繋ぐとか、恋人になる前からしておったことじゃん」
「ぐ、ぐぬぬ」
確かに過去、リナは散々フェイとバカップルがごとき振る舞いをしてきた。しかしそれは恋人ではなかった。恋人になれないからこそ、喜んでちょっとでもいちゃいちゃできることをしていた。フェイが望むだけスキンシップをとってきた。
恋人ではないと言い訳できたし、実際には女同士だし、傍目にも仲良し姉弟に見えるだろうと自分を正当化していた。
しかしどうだろう。実際に恋人になったのだ。なった以上、過剰なスキンシップは全てバカップル! まごうことなきバカップルになってしまう!
元々バカップルとして見られていた事実はなかったことにするとして、これからのことだ。問題はリナが今まで通りのことでも恥ずかしくてたまらないことだ。
だがこの小首をかしげる純粋なフェイに、なんと説明すればいいのか。確かにフェイの主張は正しい。恋人になる前のただの仲良し行動が、恋人になってから恥ずかしいなんておかしいと。その通りである。
恋人になる前がおかしかったのだから、恋人になってから恥ずかしがるなんて今更な話である。
「うむ? リナ、私は何かおかしなことを言ったか? あーんとかはオッケーじゃろ?」
「う、う……うん、まあ、そうね。オッケーだったわね」
結論。リナが我慢します。これまでのスキンシップを全て許してきたつけがきただけのことです。
(ま、まあ? フェイも、今はテンションあがってるから意味もなくあーんしたけど、落ち着いたら、また普段通りだものね? 普段程度なら、オーケーよね?)
「うむ。では話がまとまったところで、リナー、膝枕してくれ。二人じゃし、よいじゃろ?」
「……もちろん!」
リナはベッドに座り直して、自分の膝を叩いた。どうにでもなーれ。なんくるないさー!
しばらくリナはフェイを撫で撫でして堪能した。その後は掃除をしてから、今度は逆に膝枕をしてもらい、フェイの太ももを堪能した。
○
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