第105話 誕生日プレゼント2

「わ、わかった。手配しよう」


 1日かけてアーロンに説明してプレゼントについて話し合い、何とか話は固まった。

 器状にした金属の底面に結界の魔方陣を刻み、魔力膜でくるんだ魔力を予めセットしておき、魔力膜を押し潰す。そうすると魔方陣の形に魔力が流れ込み、消費されても魔力がなくなるまで消えない。そう言う仕組みであるのは決定していた。

 しかしそれをどういう形にするかはアーロンの助けを借りた。アクセサリーにするかと何となく考えていたが、そこは経験の差がでた。いざというときに使うのに、例えばネックレスならいざ紐でくくられている先をつかんで割るまで一瞬時間がかかる。

 と言うわけで紆余曲折の末、付け爪型になった。爪に被せるような指輪のようなタイプだ。指の根本にあるよりも、人差し指の爪先なら片手で押せる。第二候補で奥歯に仕込むのも有力であったが、間違って押す確率や衛生面から却下となった。


 そしてデザインも、これがなかなかどうしてアーロンは洒落たものを考えた。魔法具作成のために宝飾品のデザインを見て回ったことがあるのだが、その経験が生きた。見た目もっさもさの不審者であるので、とても意外ではあるが、センスがよかった。

 銀の土台で爪をおおい、長さは第二関節まである。これは単純に補充魔力量を増やすためだ。二重構造で間に魔力をいれて上から押せば魔力膜を簡単に割れる。表側は器構造を気にすることなく宝石をいれてデザインできて、シンプルながらも可愛らしいものとなった。


「週末中には揃えよう。大丈夫だ。君と僕なら絶対に成功するさっ」


 アーロンとしてはそんな小さな魔法具、魔方陣と魔力量で結界がつくれるとは半信半疑であるが、目の前で小さな魔方陣で実演されては仕方ない。例え一瞬でも盾ができるならば万が一の保険としては非常に有益だ。

 エメリナの分をテストとして作り、もし実用に耐えうるならそれを量産するだけで相当なことだ。宮廷魔法師への復帰と言う微かな希望が、大きくなっていく手応えを感じてアーロンは興奮していた。


 そんな最初とはうって変わってヤル気にみちたアーロンに若干ひきつつも、フェイは重々しくうむうむと頷いて労っておいた。やる気を壊すこともないだろう。


 ともあれこれで準備はばっちりだ。

 時間も夕方になったので、本日のお仕事も終了だ。フェイは首を回しながらアーロン宅を後にした。ビクトールのエプロン姿には未だに慣れないが、アーロンがビクトールに材料を集めるよう指示していたので、ビクトールにも声をかけておいた。


「はい、了解しました。明日中に用意しておきます」

「うむ。ではまた明後日、顔をだすとしよう。またの」


 アーロンの家を出て宿屋へ戻った。リナはまだいなかったので、魔法で体は清潔にして、ベッドでごろごろすることにした。

 1日椅子に座ってアーロンと顔を付き合わせて話をしていた。定期的に喉はうるおしておいたので問題ないが、少し疲れた。


「……」


 じっとしているとすぐに眠気に襲われ、リナが戻るまで寝てしまうことにした。忘れないうちにと、魔法の解除だけはして眠った。


「ただいまー」


 しばらくしてリナが帰ってきた。受付でフェイが帰ってきていることは聞いていたリナは普通に声をかけたが返事がない。

 ドアを閉めて部屋へ入るとベッドに寝転がっているのが見えた。窓を閉めて外着のままで何も体にかけていない。余程疲れたのだろうかとリナは首をかしげつつ、派手な物音をたてないように荷物を片付けた。


「さて、フェイー?」


 片付けまでは静かにしたが、もう夕食の時間だ。フェイのベッド脇まで行き、そっと声をかける。


「ん、んー」


 少しだけ反応して声をあげたが、口をむぐむぐ動かして右手でぬぐうと、実に嬉しそうに笑って寝返りをうった。


 その様に可愛いなぁと頬をゆるませる。フェイの寝顔も今更見慣れたものではあるが、しかし何度見ても可愛い。14歳になるが、まだまだほっぺたもふっくらしていてあどけない寝顔だ。幼い顔立ちは、できればもうしばらくこのままでいてほしいと願わずにはいられない。


 リナはフェイへの誕生日プレゼントをベアトリスと見て回った。あれやこれやと目移りして、まだ決めかねているが、どんなものがいいだろうか。

 単純にフェイに身に付けさせたいものならいくらでも思い付くが、フェイが喜ぶもの、一番いいものとなるとどうしても迷う。


 それに、こんなに可愛いフェイだけど、その心の奥底には固く熱く凛々しい気持ちが潜んでいる。その真っ直ぐな決意は格好よくて、それに似合うようなものもまたフェイには似合う。


「フェイ! 起きて、朝よ!」

「むっ、むー、ううむ。リナか。おお、帰ったのか」


 途中から何だか気恥ずかしくて、じっと顔を見てるとどきどきしてきてしまったので、誤魔化すためにフェイの肩をつかんで揺らして、声をはってフェイを起こした。


 フェイはそれほど寝起きが悪いわけでもない。揺すられれば普通に目を開けた。そうして口内にたまった唾を飲み込みながら起き上がる。


「ええ、ただいま、フェイ」

「おかえり、リナ」

「さ、食事にしましょうか」

「うむ!」


 今日のこと、プレゼントについても、話したいことはいくらでもあるが、とりあえずは食事にしよう。








「あ、これが可愛いんじゃない?」


 ベアトリスがはしゃいだ声をあげる。

 本日は週に一度のお休みで、誕生日会の一週間前だ。まだ余裕はあるので、今日のところはフェイと過ごしてもよかったのだが、フェイから辞退した。

 リナはプレゼントの参考にしたいとフェイを誘ったのだが、プレゼントを見てしまうと喜びが半減する。もちろん半減してもすっごく嬉しいんじゃけど!と言いながら、自分は自分で出掛けてしまったので仕方ない。


 仕方なしにベアトリスと昨日来たばかりの商店街へ足を運ぶとベアトリスと出会った。暇で仕方ないと言うベアトリスを伴い、商店街とはまた別の高級店が並ぶ区画へ行くことになった。

 切っ掛けがないと行きづらいと言うベアトリスに付き添うような意味もあるが、もし良いものがあるなら値段は気にしないつもりでもある。

 しかしちょっと限度はある。


「いや、ちょっと、ベアトリス。値札値札」


 ベアトリスが指差した宝飾品は確かに綺麗で可愛くて、とっても素敵だ。自分がもらったら凄く嬉しいだろう。でも同時にとても困る。


「ん? わお」


 値段が高すぎる100万オーバーとか、さすがにない。もらった方も困る。こんな、宝石でできた熊の人形なんてもの、家の奥に飾っておくくらいだ。一応ネックレスとして身に付けることはできるが、少なくとも冒険者がこんなもの持ち歩いても、傷つけないか心配で仕事にならない。


「はー、でも、ちゃんとお手頃なのもあるのよ?」


 そう言いながらベアトリスは店内の中央に飾られていた台から離れ、入り口近くのショーケースまでリナをひっぱる。先ほどもこうしてひっぱられてスルーしたショーケースは、言われて中を覗いてみればお値段

は5万円しないものばかりが並んでいる。

 正直はめたなと思わないでもない。最初にあれを見てしまうと、他のがどうしたって安く見える。しかしまあ、貧乏性のリナがプレゼントとは言え万単位のものをぽんと買うにはこの程度の補正は必要だろう。


「これなんてどう? 恋人向けよ」

「んー」


 ベアトリスが指し示しのは指輪だ。ペアになっていてくっつけると宝石があわさりハート型になる。シンプルなペアリングだ。


「んー、いいんだけど、フェイ、まだ子供だし」

「今から唾つけとけばいいじゃない」

「……いや、成長して指が入らなくなるんじゃないかって意味よ。何てことを言うのよ」

「おっと失礼。でもそっか。それならネックレス? でもぶらぶらすると邪魔だからピアスかブローチ?」

「いや、と言うかなんでペアばかり探してるのよ。おかしいでしょ」


 別にペアものをプレゼントするのが嫌なわけではもちろんないが、お互いにお互いへプレゼントすると言うのに、二人のものを買うと言うのはどうなのだ。大体そう言う大事なものは話し合って決めたい。話し合えないならフェイの好みで決めたい。リナ、尽くす女です。


「手っ取り早くくっつけてあげようかと」

「余計なお世話よ」

「えー、だってエメリナたちみたいな年の差系は私の身近で少ないし、面白、えっと、興味があるしね」

「言い直した意味ある? と言うか、私はフェイの意思を大切にしたいの。成人するまで、告白もしないって決めてるのよ」

「えー、かった。なにその考え方。ふっるい。今どき成人まで待つとかないよ」

「うるさいわねぇ」

「ふーん。まぁいいや。じゃあじっくりと、エメリナが動揺するのをにやにやさせてもらうよ」

「あなた、性格悪いわね」

「そんなことないって。女の子はみんな恋ばな好きなだけだよ」


 からかわれるのはあまり好きではない。と言うか好きな人がいたら見てみたい。特にリナは今まで恋愛系でからかわれると言うのはあまりなかったし、どう反応していいのか困る。


 ともあれピアスかブローチと言うのはいいだろう。

 ピアスは昔に狩をしていた頃はお守りとして身に付けるのは珍しくなかった。宝飾品ではないので家を出てからはつけていないが穴は残していたので、今も付けるには問題ない。

 しかしフェイは確かピアス穴はなかったように思われる。万が一、買ってから嫌がられては困るのでピアスはやめておこう。


 ならばブローチだ。これは存外いいように思えるが、どんなものにするか。ピアスよりは少し大きいしデザインが重要になるが、どこにでも身に付けられる。服だけでなく鞄につけてもいい。


「ブローチとなると、そっち?」

「お、お客さん、ブローチをお探しですかい?」

「そうですよ」

「じゃーこっちこっち。んーと、お、これは?」


 ベアトリスといくつかブローチを見て、いいなと思うものもあったが、しかしまだ一店目だ。宝飾品にこだわらなくても、例えばハンカチなど日用品でもいいものがあればそれでもいい。

 候補の一つとして残し、他の店を見て回ることにした。








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