第104話 誕生日プレゼント

 誕生日についてだが、結局二人いっぺんに祝うことになった。リナの誕生日はまだ先なのだが、自分ばかり祝われるよりも自分も祝いたい!と言うフェイの主張により一緒に行うことになった。


「へー、よかったね」

「ええ」

「で、何プレゼントするの? 私、大きくて可愛いリボンを売ってくれる店知ってるよ?」

「……一応聞くけど、何に使うリボン?」

「もちろん、プレゼントは私、に使うリボン」

「却下」


 翌日、フェイの魔法講義が続行なので当然リナの依頼も続行だ。昨日にその話をするとベアトリスが、じゃあ一緒に叔父さんの仕事しようぜ!と言ってきたので今日も今日とて配達だ。

 本来であれば配達は一人ずつ行うのだが、まだリナがこの街自体に慣れていないことと力だけは強いことから、裏道まで知っているベアトリスと一緒に大きな地区をまとめて担当することになった。

 リナの力ならもはや前と後ろに別れる必要もないので、二人で前に回って並んで台車を押している。


「それにしても誕生日かぁ、何かの縁ってことで、私も何かあげた方がいい?」

「いやいや、おかしいでしょ。無理しなくていいわよ」

「そう? 私けっこー、人に物あげるの好きなんだよね。別に高いものをあげるつもりもないしね」


 にこっと笑うベアトリス。

 出会ったばかりで誕生日を祝うのはあまり一般的ではないし、誕生日を知ったから祝わなきゃと言うなら、そう言う気遣いはいらない。だけどベアトリスはそうではなく、むしろお祝いをする自体がやりたいようだ。それなら別に反対することでもない。


「んー、そりゃ、ベアトリスがするって言うなら私が止める理由もないしいいけど」

「リナの誕生日も一緒に祝うなら、なんかあげよっか? あ、ちなみに私の誕生日はちょっと離れてるんだけどね」

「はいはい。見あったお返しならするから、したいならどーぞご自由に」

「はーい」


 ベアトリスとの誕生日のやり取りはどうでもいい。ベアトリスに恨みがあるわけではないしむしろ好感を持っているが、リナにとって重要なのはいかにフェイを喜ばす誕生日プレゼントを用意するかだ。

 フェイのことだ。きっと何をあげたって喜んでくれるだろう。ういやつめ。しかしだからこそ、本当にいいものを渡したい。


 フェイは美味しいものが好きだ。それは明白だが、料理がプレゼントなんて料理人じゃあるまいしそこまで自信過剰ではない。高級店での食事やお菓子なんかも捨てがたいが、やはり形にのこるものがいい。

 だいたい、その気になれば食べ物にお金をかけても許されるくらいなのだから、それがプレゼントはちょっと。

 折角だ。これからも共にいるつもりだが、やはり最初のプレゼントは重要だ。できることならずっと持っていてほしいし、身につけるものが望ましい。そうなるとアクセサリーか。衣服よりは長持ちしそうだ。しかし趣味に合わないアクセサリーほどもらって困るものもない。服は多少気にくわなくても部屋着にでも下着にでも雑巾にでもできるが、アクセサリーはそうもいかない。


 ううむ。難しい。そもそもフェイの好みはなんだろうか。男の子のように格好いいものを好むが、女の子のように可愛いものを好む。だけどそもそも服やアクセサリーに物凄くこだわりがあるわけでもない。ならばアクセサリーよりも実用性のあるものの方がよいのか。それかいっそ趣味のものか。

 しかし考えれば考えるほど、不安になってくる。改めてフェイが欲しいものを考えても、全くいいものがでてこない。フェイの好みを全く把握できていない。もうそれなりの付き合いだと言うのに、こんなにフェイのことが大好きだと言うのに、ずっと見ていると思っていたのに。落ち込む。


「エメリナー、なんか真剣に考えてるみたいだけど、客商売なんだから暗い顔すんのはやめてよー」

「……はっ。ごめんなさい。気を付けるわ」

「うん。ま、方向誘導は私がするし、考えごとはしてくれてもいいしね。馬力さえ出してくれれば」

「馬力て」

「で、何考えてたの?」

「フェイのことを」

「のろけか」

「違うわよ」

「わかってる。プレゼントでしょ。しょーがないなー。終わったら、買い物付き合ってあげるから」

「……ありがと」

「どーいたしまして。ちなみに私の誕生日は4か月後だからね」

「はいはい」


 考えて考えて頭でっかちになっても仕方ない。見て回れば気に入るものもあるだろう。リナは気合いを入れて、歩くスピードを早めた。








「と言うことなんじゃが、どうじゃ?」

「どうじゃと言われても。それ、来週なんだよね?」

「うむ」


 誕生日会となるのは来週末だ。基本的に世間的に休日とされている日に合わせてお休みをすることにしているので、それにあわせた。明日だとさすがにと急すぎて用意もなにもないので、さらに一週間後にした。


「それは間に合わないよ」

「何か、取り寄せないといけないのかの?」

「いや材料じゃなくて、作るのが無理なんだよ」

「無理ではない! 成せばなる!」


 フェイはリナへの誕生日プレゼントをどうするか一晩考えた末に、魔法具をつくろうと思い付いた。もちろんアーロンのランプの影響だ。

 リナの好みの服だのなんだのは、やはりどこまで行っても本人が選ぶにこしたことがない。ならば実用品か失せ物に限る。できれば持っていてもらいたいので、実用品だ。そうなれば他ならぬ魔法使いであるフェイのプレゼントなのだから、魔法具がよいだろう。


 フェイは一応魔法具についても知識はあるが、しかしどんな道具でどんな風に作っていくかは手探りだ。そこでアーロンに相談してみたのだが、あっさりできないと言われて頬を膨らませる。


「いやいや、作ったことない素人がいきなり魔法具作成を一週間で、しかも人にあげられる実用性の高いものとか、無理だから」

「やってみなければわからんじゃろ。魔法具の作成方法も知識としては知っておる。お主がどんな感じで作っているかを教えてくれて、材料のある店を教えてくれるなら自分でやるわ」

「知識だけでできるほど、甘くはないよ」

「よいではないか、試すくらい。魔法を教えぬぞ」

「む……わかったよ。ただし、僕の見てる前でだけ作業するんだ。危ないからね。わかった?」

「わかったわかった」


 不承不承だが了解を勝ち取り、フェイはにんまり笑う。アーロンとしてはどうせ間に合わないだろうし、つくるとなればどうしたってこうして話している講義の時間を使われるので、できれば諦めてほしいが仕方ない。教えないとまで言われては折れるしかない。

 逆にアーロンが魔法具について教える時間も、フェイにお金を払うことになっているのだが、それを言ったらお金をいらないと言われて、さらに講義をやめると言われたら困る。泣き寝入りである。


 実際アーロンの考えも的はずれではなく、どころかその通りである。お金はあるし、アーロンでなくても依頼をすれば困らない。しかしリナとの誕生日会は今しかないのだ。アーロンの仕事なんてぶっちぎって準備をしたいのが本音だ。受けた以上仕方ないが。


「じゃあ、とにかく、魔法具をつくる話をすすめようか。どんな魔法具がいいんだい?」


 アーロンは頭を切り替える。もし宮廷魔法師に戻れるなら魔法具師にも未練はないので今更やってもなと思うが、これによってフェイに恩を売れる。フェイには気持ちよく宮廷魔法師になってもらわなければ困る。ここはまず親しくなるのが第一だ。それに早く作ってしまえばまた魔法の話ができる。

 ならばとにかく率先して魔法具を作ろう。さすがにないと思うが魔法具作成にも何かフェイの特殊理論が通用するのならば、それも是非知っておくべきだ。


「うむ。危機に応じてリナ単独で結界をはれるようなものがいいの。盾を持っておらんから、御守りとして持っておいて損はないじゃろう」

「ちょっと待とうか」

「なんじゃ? 何かおかしいかの?」


 リナの怪我のこともあり、実用性もばっちりだしあげることでフェイも安心だ。我ながらナイスアイデアなのに、アーロンは何故か半笑いでストップをかけてくる。


「おかしいと言うか、結界って、本気で言ってる?」

「ん? ああ、結界が分からんのか? 魔法の盾みたいなものじゃよ」

「そうじゃない!」

「なんなんじゃ。お主は怒鳴らずに話せんのか! 恐いぞ!」

「うっ、す、すまない」


 フェイの惚けたような態度に思わず声をあらげてしまい、怒鳴り返されてアーロンは慌てて頭をさげた。フェイの魔法が規格外すぎて驚きすぎて、ついつい声が大きくなってしまうのだが、確かにフェイからしたら大声を出されて不快だろう。

 下手にでることを意識しつつ、アーロンは背中を曲げて顎を引いて上目遣いでフェイの様子を探りながら声をかける。


「えーと、魔法具は当然、魔法陣を知ってて使えないと作れないわけだけど、結界、使えるの?」

「うむ。もちろんじゃ」


 さらりと使えると言われて、最早何と反応すればいいのかアーロンはわからなくて固まってしまう。結界は確かに知ってるけれど、魔力の消費が多くて割に合わない魔法だ。

 例えば王宮内部でも宝物庫や王の寝室だけは、問題のあるときは使われるが普段は使うことはない。ずっと不眠不休の交代制で上級魔法師が魔法を使い続けなければならない。アーロンでは一回で魔力が空になり、使えるとは言えないレベルだ。

 それをあっさりと使えると言った。そもそも結界自体が機密扱いで、魔法陣の開示も適正のある上級魔法師のごく一部にしか許可されていない。それをすでに知っているなんて。フェイに魔法を教えた祖父は何者だ。


「ど、どんな、魔法陣なのか、聞いても?」

「ん? うむ。構わんぞ」

「あ、あと、教えてもらえるのは助かるのだけど、その、結界の魔法陣とか、難しい魔法陣まで教えてもらっても、いいのかい?」

「は? ああ、あのなぁ、アーロン。結界なんて、基礎的なものじゃぞ?」


 難易度としては初級ではないが、一般的にみんな知ってて当然なありふれた魔法陣の一つとしてフェイは認識している。

 魔法使いにとって魔法陣は重要なものだし、当然開発した魔法陣を誰彼構わず知らせることはない。知られないために魔法書は暗号化までしている。

 だが火種の為の魔法とか、そう言うみんな知ってて当たり前の昔からある基本の魔法は、知らないなら教えてあげて当然レベルだ。そうでなければ後進の魔法使いは育たない。結界は別に極秘扱いではない。そんなことも知らないんだから、本当にしょうがない宮廷魔法師(笑)だなとフェイは呆れつつも教えてあげた。


「構成はこんな感じじゃ」


 宮廷魔法師とか完全に嘘と思っているフェイは、まさか自分の常識の方がおかしいとは露ほども思わずに、小さな子供に教えてあげる気分で解説してあげた。


「な、なるほど。構成はわかった。でもさすがにエメリナ君では結界をつくるほどの魔力はないと思うんだけど」

「そこは魔力をつめておいて、魔力膜を割ると発動するようにしたいんじゃ」

「ま、魔力膜?」


 そして魔法具の構想についても詳しく説明する。魔法具を作ったことはないが、魔法具をつくるための魔法や構造は知っているし、家にはたくさん魔法具があった。何となくのイメージはすでにあるのだ。後はそれをどう形にするかだ。

 充填型魔法具のことすら知らないアーロンに懇切丁寧に教えてあげた。








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