ションゴ村
第66話 変色蜥蜴、放浪鳥
「とりあえず何時までもここってのもなんだし、私たちも場所変えましょうか」
「そぉねー」
フェイが席を立って出て行ってから少しして、飲み物も飲みきったのでリナたちも立ち上がる。
フェイには気を使わせて申し訳ないが、しかしリナにとっては確かに懐かしく、旧交を温めたい数少ない人間だ。今日のところは甘えさせてもらおう。
「すみません、清算お願いしたいんですけど」
「あ、お連れ様からいただいてますよ」
声をかけた店員からの返答にリナは瞬き一つ分驚いてから、フェイがいちいち分けるようなことをするわけがないかと納得した。
貯金ももちろんあるが、フェイにとってお金は稼げばいくらでもあるものだ。だからと言って無駄に浪費することはないが、お金の使い方は人一倍男らしい。
「へぇ、若いのに案外いい子ねー。リナ、ぶっちゃけ狙ってんのぉ?」
「フェイは子供よ」
「いまぁ、12、3くらい? すぅぐ成長するってー」
「はいはい、成長したら考えます」
「ちぇー」
リナとしてはフェイとのそう言う話題は可能な限り避けたい。なかったことにしたのだから、有り得ない話だ。
店を出ながらアントワネットはまー、と間延びした声をあげて歩き出す。リナは土地勘がないのでとりあえずついていく。
「ま、でも5才ってぇ、割と大きいしねー。リナってファザコンだしぃ? 年上じゃなきゃ、無理かー。まだ頼り無いもんねぇ?」
「いや、頼り無いってことはない、わよ?」
「へー?」
「そのにやけ面やめて。というか、頼り無い相手とパーティーくんだりしないわよ。命に関わるのに」
「そりゃー、そうだけどぅ」
「で、どこに向かってるの?」
「あ、私の家ー。リナのあれからのこと、もっと聞きたいしー」
「あれからねぇ」
アントワネットについて行きながら、リナは何を話そうかと考えた。
○
「ほんとに大丈夫?」
膝に手を当て腰を曲げて顔を覗き込まれ、フェイは胸をはって返答する。
「うむ、問題ない」
「なんっか心配だなぁ」
「わしの実力はさっき見せたじゃろ」
「そーだけどさ」
フェイの答えにもなお懐疑的な姿勢をくずさない女に、背後にいる男が溜まらず声をかける。
「マイラ、それ以上は失礼だぞ」
「だって、レイモンドは心配にならない? フェイ、こーんな細くてちっちゃいのに」
「小さいは余計じゃ」
レイモンドを振り向いて言うマイラにフェイは小さく文句を言うが、マイラの耳には入らなかった。
レイモンドの耳には入ったがそこには触れず、マイラに向かって首を振って諭す。
「大きさの問題じゃない。相手は俺たちより高ランク冒険者だぞ」
「そーだけどさ」
「わかっているのか?」
「わ、わかってるって。うん。ごめんごめん。じゃーフェイ、行こっか」
「うむ。わかればよいのじゃ」
子供扱いされるのはどうしてもしゃくに障るが、しかし実際に自身が若いことも肉体労働においては頼り無い小柄さだと言うこともわかっている。
善意で馬鹿にするのではなく大丈夫かと言われているのにさすがに怒ることはできない。それでももちろん、相手の言い方によっては腹がたつが。
リナたちと分かれたフェイはぶらぶら散策中に教会を見つけたので、久しぶりだしに依頼をこなすことにした。
そこで声をかけてきた二人と依頼をすることにした。見知らぬ土地では見知らぬ依頼、魔物がいる。案内人がいて困ることはない。
「じゃ、早速出発だ!」
気を取り直したマイラが腕を振り上げて歩き出す。レイモンドとフェイが後ろに続いた。
今日受けた依頼は近くの森に生息する放浪鳥の捕獲と、変色蜥蜴の眼球と舌だ。
放浪鳥は生きたまま捕獲して肉屋に納品され、変色蜥蜴の素材は薬品に使われる。どちらもそれなりに難易度が高く、また周りの他の魔物も多いので依頼金はそれなりだ。
「フェイ、さっきの特徴覚えてる? 大丈夫?」
「わかっておる」
放浪鳥は黄色い体と大きくやや下向きの嘴と、一部だけ毛が赤いのが特徴だ。この一部と言うのが同じ個体でも生え替わりによって場所が変わるので、前にみたやつがすぐいなくなると思われて、放浪してる放浪鳥だと名前がつけられた。今では生え替わっているだけとわかっているが、名前の変更はない。
変色蜥蜴はその名の通り、変色する。周りに合わせて同化して見えるので、見つけるのは難しい。だがよく見ればゆがんで見えるので根気よく探せば見つけることは可能だ。
「じゃあ私は右側見るから、フェイは左。レイモンドは前ね」
「わかった」
危険性も考慮してばらけずにかたまったまま、レイモンドを中心に別の方角を見て探しつつ森の中を進む。
「いたぞ」
「おっ」
「ふむ、あれか」
レイモンドが左手で指し示した指先の前方上空の木の枝にのり、尾が赤く毛繕いをしている放浪鳥がいた。
「いくぞ」
「うんっ」
レイモンドが先に重石のついたロープを放浪鳥へ向かい投げた。
くえぇーっ
間の抜けた声をあげて放浪鳥が飛び上がり、そのロープをかわすが間髪入れずにマイラが同じロープを投げ首に引っ掛けた。しかし重石が完全に首を一周してしまう前に鳥はくえくえ鳴きながら身をよじって、ロープの拘束から逃れる。
「風束っ」
そこへさらにフェイが右手の平を突き出して、魔法を使った。ちなみに風束と言うのは適当に言っただけで、実際にはただの風を起こす魔法の応用で名前はない。
強力な風が放浪鳥を頭上から押しつぶすようにふき降りる。風刃とは異なり鋭さをなくして範囲の面積を大きくしたことで、鳥を殺さずに、飛ばないように地面に押しつけることに成功した。
「うっわ、何この風、近づけないんだけど!」
「おっと」
レイモンドに捕まり今にも飛ばされそうなほどマイラは態勢を崩している。レイモンドも腰を落として踏ん張りながらマイラの腰をつかんでいる。
大きな放浪鳥が飛べないほど、身動き一つとれないほどの風は地面にぶつかって全方面に散らばってなお、強い。フェイ自身は強化しているので、少し強い風が吹いている程度にしか自覚していなかった。
「すまんすまん。ちょっと拘束するから待っておれ」
だがさすがに普通にしていれば飛ばされることはない。たまたまマイラは片足を上げていたので転けそうだったが、レイモンドが持ち上げて持ち直した。
フェイは軽く謝罪しながら放浪鳥に近寄り、レイモンドから借りた重石付きロープを首にくくりつけ、魔法を解いた。
くえぇ
魔法をやめると一息つくように放浪鳥はうめいた。その人間くささにフェイは少し笑ってから、放浪鳥を引きずって2人の元に戻る。
「これでよいか?」
「待て。結び目がいかん。結び直すから貸してくれ」
「うむ」
言われるままレイモンドにロープを渡すと、レイモンドは素早く巻きなおして結ぶ。フェイの巻き方では完全に首がしまっていたが、レイモンドでは通常しまらないが動いて引っ張るとしまるようになっている。
「これでいい。起こして連れ歩くぞ」
「ふー、にしても1羽目から捕まえられるなんて、幸先いいね。フェイやるじゃない。さすがね」
「ふふん、まぁの」
「…すごいね! さすが魔法使い!」
「ふっふっふ、そう褒めるでない」
口元の両脇に手のひらをたててされたマイラの褒め言葉に、鼻高々になって胸をはるフェイ。マイラはその様に笑いながらさらに続ける。
「謙遜しないでよ、よっ! 三国一の魔法使い!」
「くっくっく、気分がよいからもっと魔法を使って活躍して見せよう! レイモンド! もっと獲物を見つけるのじゃ!」
威勢良く命じるフェイに、マイラは褒めるのをやめてにこにこしながらレイモンドを振り向く。
「可愛い子だねー」
「そうだな。でもあんまりからかってやるなよ」
「すごいのは本当じゃん。さ! 次行くよー!」
マイラが元気よく右手を空に突き出してから、先陣を切るようにして歩き出す。レイモンドはようやく顔をふって立ち上がった放浪鳥を連れて歩き出す。
フェイはキョロキョロしながらも先ほどと同じフォーメーションになって獲物を探す。
「ん?」
しばらく歩いていると、視界の端で何かが動いた気がして振り向いたが、しかし何もない?
「んん?」
「どしたん?」
立ち止まって目を凝らすフェイに気づいた2人が立ち止まる。
「いや、今何かいた気が……」
「………いるな、変色蜥蜴」
「おお、やはりか。どこじゃ?」
「あ、私にもわかったー。ほら、そこの赤い花の向こう側」
マイラに指摘されてその場所によく目を凝らすと、なんとなく違和感を感じるような気がしないでもない。有り体に言うとまだ気づいていないのだがフェイは納得して頷いた。
「なるほどの。これは捕まえるのは簡単と言うこともじゃが、どうするのじゃ?」
「じゃあ、俺がやるぞ」
「へーい、かっこいー」
「うるさい」
レイモンドはそっと近寄ると、無造作に変色蜥蜴に手を伸ばして捕まえた。
「ぬぉっ!?」
その様はまるで切り取った景色を持ち上げるようでフェイは声をあげてから、しかしすぐにレイモンドの手の中の景色は灰色の肌を持つ30センチほどの蜥蜴になった。
「おおぉ……というか、普通に捕まるんじゃな」
レイモンドの手の中で手足を動かしてはいるが、体をひねることもなく大人しいものだ。
先ほどの擬態の見事さも感嘆ものだが、捕獲の容易さにも驚いてしまう。こんなに簡単でいいのか。
「逃げ足も反応も遅いからな。その代わりに擬態能力が進化したんだが、コツを掴めばいる場所を見ればなんとなくわかる」
「やるのぅ」
「と言っても、割と見逃しがちだけどね。今回フェイがこの辺って言ってくれたからわかったけど。やっぱ自然全方位探すのだと難しいよ。動いてたら擬態間に合わなくて、ちょっと変になるから見つかりやすいんだけど」
「ふむ。先ほどもちょうど動いていたんじゃな」
フェイはなるほどなぁと右手の人差し指と親指で顎を撫でながら頷いた。
変色蜥蜴の処理は後回しにすることにして、紐でくくって放浪鳥の背中にくくりつけ、再度探索に戻った。
○
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