第35話 声掛け事案2
「どうじゃった?」
誰かのサポートは初めてするが、直接加わらずに誰かがやってるのを横から全体を見て手を出すというのは戦闘と言うより駒を動かすゲームのような感覚が強かった。
これはこれで面白かったが、しかしやはり自分が戦ってこそだなと思いつつフェイは三人に問いかけた。
「そうね、想像よりずっとやりやすかったわ。ね、コリンナ」
「うん」
「で、でも、その……私では、多分、目の前の対象にならともかく、全体のフォローをフェイさんのようにはできないと思います」
「魔法自体を戦闘で普段使わんなら無理もなかろう。慣れるしかないの」
「は、はい。頑張ります」
それからもう二回、フェイは赤尻豚の群れを狙った。
いきり立った赤尻豚が飛びかかろうとする際に目の前で火花を散らしてひるませ、突進を始めれば前足が地面についた瞬間に地面に穴をあけてつまづかせ、数匹がかられて形勢が悪くなって逃げようとするのにもつまづかせたり、火花で邪魔をする。
フェイがやったのはそれだけだが、全体を見てこまめに仕掛ければ、群れは混乱し攻撃の通しやすさは変わる。
キャストに土魔法の魔法陣を教えた。地面に穴をあける単純な、理論もキャストに合わせたものを使用した魔法陣を作って教えた。
キャストの魔法の自前の土魔法もシンプルなつくりだったので即興で組み合わせられた。
「しばらく練習してもできんかったから、また教えよう。今日で使うタイミングはわかったじゃろ?」
「はい。ありがとうございます」
(何かを教えると言うのは初めてじゃが、キャストも新しい魔法陣理論を理解してくれたようじゃし、何とかなったの)
教えることも、使い方自体も慣れないものだったが、何とか魔法使いの面目躍如だと思いながら教会で精算をした。
「ねぇ、フェイ。良かったらまた明日も、一緒にくまない?」
「ん? んー…いや、やめておこう」
「あら、私たちじゃやっぱり実力不足だった?」
「そう言うわけではないし、キャストに教えるのも悪くはないが、まぁ、なんとなくじゃ。また、機会があればの」
「そう。残念だけど仕方ないわ。またね」
「今日はありがとうございました」
「感謝」
「うむ、さらばじゃ」
断ったのに特別な理由があるわけではないが、今まで自由に依頼を選んできただけに彼女たちに合わせるのは少し窮屈だ。
一緒が前提だと金額面や難易度に制限が出てきたりするが、自分ひとりなら採算度外視で好きなことをしていい。パーティーを組まない事情以前に、あまり多人数に慣れていなくて協調性が低いフェイなのでつい断ってしまった。
「ん? おお、エメリナではないか?」
三人と教会前で別れて宿に帰ろうとすると、前方に見えた見慣れた後ろ姿にフェイは駆け寄りながら声をかける。
「今帰りか?」
「あ、え、ええ」
足を止めて振り向いたエメリナは何故か少し気まずげに頬を人差し指でかいている。
(? なんじゃ? わし、何か変かの?)
フェイは自分の体が返り血や泥土で汚れていないことを確認しつつ、エメリナに話しかける。
「奇遇じゃの。宿に帰るのか? わしはこれから一度戻って夕食をとるところじゃ。エメリナは? 一緒に食べんか?」
「あー、そうね。一緒に、食べましょうか」
「うむ!」
エメリナとは朝は一緒になることも多いが、夕食を一緒にするのは先日の遠出以来だ。フェイはテンションをあげた。
「エーメリナー、夕飯は何がよいかのぅ?」
「フェイの好きなもので……と言うかどうしたの? テンション高いわね」
歌うように名前を呼んでくるフェイにエメリナは首を傾げる。
「うむ。どうもしないが、エメリナと一緒だからな」
朝に顔を合わせる程度ではそれほど話をするわけではないし、前回の休みではタイミングが合わなかった。
夕食ならゆっくりと過ごせるのだから、少しばかり嬉しくなるのも仕方ないことだ。
「……そう。なんか、ごめんなさい」
「ん? 何がじゃ?」
「いや、何でもないんだけど、なんとなく」
「変なエメリナじゃのぅ」
「そうね、変だったわ」
「疲れてるんじゃろ。たっぷり食べてゆっくり休むがよい」
「そうね」
心配そうに顔を覗き込むフェイにエメリナは微笑んで頷いた。
○
「オリジナルドレッシングのサラダ、美味しかったのー」
「そうね。ただパンがちょっとぱさついてたわね」
「スープにつければ気にならんよ」
「確かに、スープとの相性はよかっ……はっ、わ、わざとなのかしら?」
「おお、そうであるなら、納得じゃのう。メインも肉汁たっぷりであったし」
「うわ、あー、確かに。ちょっと最初の印象で色眼鏡つけてた。反省ね」
エメリナは自分の中でつけていた点数を上方修正した。思い返してみれば最初のサラダの時点では高得点をつけていた。同時にだしてもらったパンとスープで先にパンから食べたのが悪かった。
(早くに早くにと判断してしまうのは、私の悪い癖よね)
友人からも早とちりとはよく言われたし、落ち着こうとエメリナは深く息をついた。
「おや、お二人ともお帰りなさい」
「ただいま」
「うむ、今帰ったのじゃ」
宿に戻るとカルメが迎えてくれた。
「お二人とも仲がよろしいですねぇ、うふふ」
この宿を利用しだして半年以上。今までうふふとか笑ってるところなんて見たことないのに、上品に口元に手を添えて笑いだしたカルメ。
如何にも勘ぐってますと言いたげなにやけた目元と言い、あからさまだ。
「カルメ、やめてよ。私とフェイはお友達なだけよ」
そう、友達だ。女の子に囲まれてるフェイを見たときはあまりいい気持ちはしなかったけど、それは年下の友達が離れるような我ながら幼稚な感情だ。けしてカルメが邪推するようなものではない。
そもそもフェイはまだまだ子供だ。年齢もだが、それ以上に内面が。もちろんそこが可愛いのだけど。
「! うむ、わしとエメリナは、まぶだちじゃ!」
元気よく宣誓するフェイは実に可愛らしいけど、ちょっと待って。
カルメがにやーっと笑ってお上品ぶるのをやめて手を合わせてフェイに話しかける。
「わぁ、すごいですね、フェイさん。新しい言葉を覚えたから使ってみたかったんですね」
「バレたか。まぶだちって、なんか格好よくないか? 親友という意味じゃろう」
「そうですよ。よかったですね、エメリナさん。まぶだちですって」
「聞こえてるわよ。フェイ、マブダチはやめて」
親友に格上げしてもらったのは、まあ、悪い気分ではない。それはいい。いいし、気恥ずかしいけど口に出すのをやめろとも言わない。でもマブダチはやめて。
「うむ? うん、何だか知らんがわかった。……」
フェイは素直に頷いてから、ちらりとカルメを見上げて見つめた。それほど長い間ではないが、2人が首を傾げる程度には間があった。
「ん? あれ、どうかしました? はっ、もしや私の美貌に見とれていましたか?」
「カルメ、ちと聞きたいことがあるのじゃが、よいかの?」
「……はい、なんでも聞いてください」
ボケたのに真顔で問いかけるフェイに、カルメは少しだけ頬をひきつらせながら頷いた。
「そのアクセサリーはいつもつけておるが、たまに動くじゃろ? どう言うものなんじゃ?」
「? ……ん? え、なんです? アクセサリー?」
「うむ、その獣の耳のような」
「はい? えっと、私、ベルカ人なんですけど……え、ベルカ人のコスプレに見えました? え、ずっとそうだと思ってたんですか?」
フェイの予想外の質問にカルメは混乱して畳みかけるように質問仕返す。カルメの勢いにはしかし関せずに、フェイはおっとりと首を傾げる。
「ベルカ人?」
(そう言えばフェイは森だか山だかに引きこもって育ったのよね。なら、ベルカ人を知らなくても仕方ない、のかしら)
ベルカ人と言うのは正式名称ではない。
かつて神と人との関わりが密であった頃、一人、猫を愛してやまない人がいた。彼、あるいは彼女なのかは不明だが、ベルカは猫を愛し、愛し過ぎていて、猫と子をなした。
現代では同種族以外と子をなすことは禁じられているが、その頃はその規則がない為、子達は問題なく生まれた。そして神々が気づいた頃には猫と人の血を引く子供は増えていた。それから神々が異種族の婚姻を禁じた為、以降人と獣が交わることはないが、すでに生まれたものに関しては新たな人類として認められた。
人類としては同じものであると認識されているため、彼らは尻尾のない人類とも子をなすことはできる。元々の数は少ないが、人と交わっても必ずその特徴が受け継がれることからずっとその数は変わらない。
ベルカを始祖とした、猫の特徴である耳と尻尾を持つ彼らはベルカ人と呼ばれている。
多少は珍しいが、それほど目を見張ることでもない。それが一般的なベルカ人の印象だ。
なのでカルメとしてはまさか知らないとは思わず、あんぐりと口をあけて全力でひいた。
「ええぇぇぇー……し、知らないんですか?」
「うむ。恥ずかしながらな。教えてくれ」
全く恥ずかしくなさそうにフェイは教えを請うた。
○
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