そして町へ

裕太は暫く歩き回り、町へと辿り着いた。

石煉瓦の平屋建ての建物が立ち並ぶ比較的大きな町だ。

 町の入り口に看板が立っておりそこに町の名前であろうエルシングと書かれた看板があった。

 この時不思議に思ったのが日本語でも外国語でも、そもそも地球では存在しない言語だったのにも関わらず、まるで母国語のように読むことが出来たのだ。





(にしても……何故言葉が読めたんだ? 御都合主義ってやつか?)



等々と考えながらも裕太は町中を練り歩いていた。



道中に馬と牛を足して割った様な奇怪な生き物が馬車を牽引していたり、猫耳の獣人が歩いていたりとここが地球では無いことをはっきりと感じさせた。

 そして服装がこの世界では奇怪なものなのか或いは傷だらけの姿で歩いているのが目立つのは分からないが視線をよく向けられる。




   ーーーそんな中、あることにきずいてしまった。



「俺、この世界のお金持ってなくね?」




裕太はポケットの中を漁ってみる、そこには財布にしまうのがめんどくさくポケットに放り込んでいた小銭が少々。

 だが異世界では使い物にならない。




ならば、見につけているもので換金ができそうなものはと探してみるが特には見つからない。




(やばい……お金が無ければ宿も飯も怪我の治療も出来ないじゃん⁉)




裕太に焦りが込み上げる、仮に雨風凌げる場所があり食料が会ったとして傷を手当出来なければ感染症にかかる可能性もある。




「糞‼ こんなところまで来て、お金が無いってどうすればいいんだよ‼」



ならばとひとつ考えが浮かびつく、その辺の民家を襲い金品をくすねればいいのではないかと。

 しかしそれをするのは微かな善意が心を痛める、それは暫く辺りを散策してにっちもさっちも行かなくなったときに最後の手段としようときめる。

 そのあと裕太は町中を練り歩いた、道中に教会や市場そして宿などの様々な施設を垣間見たのだが、それから思うに恐らくはかなり大きな町なのは確定だ。



 途中に何人かの人に食べ物と寝床を貸してくれないか、と頼み込んでみたが血だらけの奇っ怪な服装の怪しい男に家を提供する人もおらず誰一人として相手にされなかった。




「はぁ……もうだめだ」



数時間して日がくれ始めた頃だろうか、裕太は途方にくれ、人目の少ない路地裏で倒れこんでいた。



「もう盗みを働くしかないか……」



裕太が奥の手を使おうと決心したそのときだった。



「おにぃさん、こんな傷だらけでどーしたの?」




声を書けてきたのは自分と同年代程度の猫耳の女性だ、腰には幾つもの短剣をぶら下げており、それが彼女が一般人ではないことを物語っていた。



「貴方は?」

「私はケィテル・マーグレー、この町の冒険者だよ」

「冒険者……」




冒険者ーーーファンタジー物などによく出てくるモンスター退治の専門家のような人々だ、この世界の冒険者がどの様な物かは分からないがさっきのゴブリンのような化物がいるのだからその可能性もあり得なくはない。




「まぁ、取り敢えずおにぃさんの怪我ひどそうだから治してあげるよ!」



ケィテルと名乗る女はそう言うと徐に手を翳す。


回復ヒィール



彼女がそう呟くと、裕太の体が青色に数度点滅し、傷がみるみる癒えていき、完全に回復する。



「すごい……」




裕太は自分の体を見渡し、傷が何一つ無くなっている事を再確認する。



「ニャはは、驚いたか私はこれでも中位級の魔法が使えるのだよ!」




と嬉しそうに語る、どうやらこの世界には魔法もあるようだ、だからと言ってもう驚くことはないが。



「あ、ありがとうございます……」

「いえいえー、ところでその傷はどうしたんだい?」

「ここへ来る道中ゴブリンの群れみたいなのに襲われたんですよね」

「ほぅ……ゴブリンね、んでそのゴブリンはどうしたの?」

「一応返り討ちにしましたけどね」

「一人で? そして武器なしで?」

「まぁ、はい……」




裕太のその話を聞いた、ケィテルは独特な笑い声をあげる。




「私はね、冒険者ギルドからスカウトを任されてこの町を練り歩いてた所なんだよー、ゴブリンの群れを返り討ちにできる人間なんてそうは居ないよ、君は冒険者の素質があるし冒険者になるのも悪くないと思うけどどうかな?」

「でも、俺そう言うの苦手ですし……」

「君帰る家はあるのー? お金はー?」

「無いです……」

「ニャはは! だと思った、そういう顔してるもん……だが心配はない、冒険者ギルドでは衣食住を保証してくれるのだ! 悪い話では無いと思うよ」





確かにそうだ、ここで途方に暮れて死に行くくらいなら冒険者になり何とか生きていく方がましである。




「確かにそれなら冒険者にならざるをえないですね……」

「ならば商談は成立だね、今から冒険者ギルドに登録に行こうか」




ケィテルは裕太の手を引っ張り連れ出そうとする、そのとき裕太は、あることに気づいた。

 ケィテルの頭の上辺りにstatusと小さく書かれていた。




(あ、あれは……?)




裕太がそれを暫く凝視していると、突然空中にステータスが浮かび上がった。




ケィテル・マーグレー(24)


筋力17 知力16

魔力29 体力20

精神力17 俊敏力29

HP21 MP27




恐らくはケィテルのステータスであろう、この世界に来て他人のステータスを見ることもできる能力を獲得したことに気付く。

 何より驚いた事がケィテルのステータスが18を越えていたことだ。

基本的には人間のステータスの最大値は18でそれを越えることは殆どない、ステータスが18以上=人外とまで言えるレベルだ、そして目の前の女はそれを軽く越えていたのだ。




(この人ステータス18越えてる⁉ 人間じゃねぇよ……てか猫耳生えてるし人間では無いと思ってたけどさ、てか人のことお兄さんとか言っといてお前の方が年上じゃん⁉)



「どうかしたのー?」



ケィテルは困惑する裕太を不思議がって声をかける。



「上に何か出てたりするの見えたりします?」

「なにいってんのー? 何もないよー」

「で、ですよね」



どうやらこのステータスは裕太にしか見えていないらしい。



「ともかく早くギルドに行くよ、日も暮れるしね」




そうして冒険者ギルドに向かうことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る