20XX年 第二十二話

 クローン兎兎の記憶を頼りに、白壁公園の駐車場から池に行く遊歩道を進み、クローン兎兎の体が入れ替わった池の脇、美咲が倒れていた場所に辿り着いた。

 「ここだよ」

 クローン兎兎は何も植えられていない平坦な地面を指した。

 「マガモの死骸がない。何もない」

 きょろきょろとユウは地面を見た。

 「時間が経つから、マガモの死骸はもう清掃されたんよ。そんで、もしかしたらファイルを入れていたバッグは落し物として……」

 喋りながら見回していた真里菜が何かに気付いたと、小低木の中に突入した。いきなりの動きにびっくりしたユウとクローン兎兎は、腰を屈めて小低木の下を覗き込んだ。真里菜が紐みたいなものを銜えて引っ張っていた。クローン兎兎は助け船を出そうと、小低木の下に潜り込んだ。

 「バッグがあったよ」

 小低木から出てきた真里菜がユウを見上げた。

 「ぼろぼろだよ」

 続いて出てきたクローン兎兎の手には、A四のフォルダーがすっぽり入る革製のバッグが握られていた。バッグの表面には、噛まれた傷が無数にあった。

 「犬が食べ物を漁ったって感じだな」

 ユウが苦々しく口元を歪めた。

 「中にあるものを、ここに出してみて」

 真里菜は小刻みに後足を動かして後退り、前方の地面に作った空間を鼻でさした。理解したクローン兎兎はバッグを逆さにし、中のものを全てその地面に出した。

 「やっぱりファイルはないよ」

 前足で探っていた真里菜が、首を横に振り、肩を落とした。

 「やっぱり持っていかれたか」

 ちっと舌を鳴らしたユウが、あるものに気付いた。地面に腰を下ろして指差す。

 「これって、手帳だよな」

 目を向けた真里菜は、ファイルと手帳は違うものだと説明しようとして、ダイイングメッセージを思い出した。

 「ユウ。その手帳を開いて、引き破った痕がないかみて」

 真里菜の促しに、ユウは手帳を取ると捲っていった。クローン兎兎はダイイングメッセージが書かれた紙切れをポケットから取り出した。

 「あったぞ」

 興奮したようにユウが引き破った痕のある頁を、これ見よがしに真里菜の眼前に向けた。クローン兎兎は横から手を伸ばし、引き破った痕に紙切れを合わせた。

 「合致した」

 目を大きく見開いた真里菜は、引き破った頁の上部に書かれてある文字を捉えた。

 「バックアップ」

 読み上げた直後に叫んだ。

 「美咲さんの自宅に行くよ!」

 手帳をポケットに仕舞ったユウは腰を上げると、既に駆けている真里菜とクローン兎兎の後を追った。

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