20XX年 第二十話
真里菜とクローン兎兎が研究開発室から執務室に戻っても、ユウはソファで眠ったままだった。できるだけ音を立てないように、静かに通り抜けた真里菜は、ベッドの上に飛び乗った。久し振りの心地好さに、すぐに眠りについた。そんな真里菜の横で、クローン兎兎も眠った。
窓の外がすっかり明るくなった頃、真里菜は起きた。
ユウとクローン兎兎は既に起きていて、ソファにもたれてテレビを見ていた。テレビはクローン兎兎が点けたのだ。ユウは身を乗り出すようにして、興味津々で見入っている。
「兎兎。ユウ。おはよう」
真里菜はソファに飛び乗った。
「真里菜。おはよう」
クローン兎兎が微笑んだ。
「おはよう」
挨拶を返してきたユウに、すぐさま真里菜は、美咲さんの太ももにあった犬に噛まれた傷の事を話した。
「検査した結果、美咲さんと持ち帰った柳の枝から、同じ毒物が検出されたよ。その毒物は、様々な毒物の複合体で未知のものよ」
「ってことは、犬が美咲も柳も噛んだってことか?」
ユウは驚愕の表情で、真里菜を見下ろした。そうみたいと頷いてから真里菜は話し始めた。
「この毒物はヒトにとっては死をもたらすものだけど、植物にとってはそこまでの作用はしないみたい」
「犬は毒物にやられないのか?」
「毒物は、犬が噛んだ部分に、ヒトが注入した可能性が高い」
真里菜の説明に、理解したユウが別の疑問を思い付いた。
「なぜ柳が動物のように動いていた?」
「柳が持つ神経伝達物質に似た分子に、毒物が作用したんだと思う。検証ができていないから、仮説の域を出ないけど……」
真里菜が憂鬱な表情になり、言葉を継いだ。
「毒物はバイテクよって作られた可能性が高い」
「ってことは、バイテク関係のヒトが、美咲を襲った可能性が高いということだな」
同意を求めて見詰めてくるユウに、目を合わせた真里菜だが、首を縦にも横にも振らなかった。バイテクで殺人を犯すなんて、バイテクに携わる者として、そのようなことがあるはずないと否定したい気持ちがあるからだ。
「美咲の仕事はバイテク関係なのか?」
ユウの質問に、真里菜は首を横に振った。
「美咲が襲われる原因に、何か心当りはないか?」
真里菜は再び、ただ首を横に振った。その時、クローン兎兎が呟いた。
「お父さんも襲われたんかな?」
悲しみが滲み出る声に、思い出した真里菜はユウから視線を逸らした。だが、思い付いたというように、甲高い声を上げた。
「父の見舞いに行くよ」
いきなりの発言に、驚いたユウだが、ポリスの勘が働きソファから腰を上げた。
真里菜がソファから飛び降りようとした時、待ったを掛けるようにクローン兎兎が指摘した。
「ウサギはヒトの病院に入れないよ」
はっとした真里菜だが、平然と返す。
「隠れて行く」
「だったら……」
クローン兎兎はクローゼットへ向かった。ボストンバッグを提げて戻ってくると、床に置いてファスナーを開いた。
「グッドアイデア」
微笑んだ真里菜は、勢いよく飛び跳ね、ボストンバッグの中に入った。
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