20XX年 第九話

 月明かりの中、自動運転ボートは帰港した。

 「お月さんとお星さん、今夜もかわいいね」

 桟橋に降りたクローン兎兎は、夜空を見上げて微笑んだ。

 「母のベンチャー企業である、バイテク製品設計開発所に向かうよ」

 真里菜の掛け声で、ユウは三世因果を思い出し、駐車場へ向かう足を速めた。

 「一か月前から母は帰宅しないほどに忙しくて……父が病院に運ばれた夜、母に電話をしたけれど通じなくて……そうこうしながら、いつの間にか控え室で眠っていて、起きたら公園にいて、体が入れ替わっていて……」

 喋りながら跳ねて向かう真里菜が、思い出して元気をなくした。

 「あれ?」

 クローン兎兎の吃驚の声と同時に、ユウや真里菜も異変に気付いた。街路灯が全て消え、暗闇に包まれたのだ。

 「停電?」

 真里菜が首を傾げた。

 「危ない」

 叫んだユウは、打ってきた鞭を避けさせる為、クローン兎兎を突き飛ばした。

 「こっちだ」

 ユウが誘導した直後、クローン兎兎目掛け、再び鞭が打ってきた。だが、突き飛ばされて尻餅をついたクローン兎兎が、立とうと体を動かした直後だった為、打ってきた鞭を躱せていた。

 再び、立ったクローン兎兎目掛けて鞭が打った。だが、丁度走り出したクローン兎兎によって、鞭は背後にある道を打っていた。

 クローン兎兎は無我夢中で、ユウを追い掛けて駆けた。振り返りもせずに広い駐車場に入った。

 街路灯が点いた。

 「今の何?」

 真里菜が興奮しきった様子でユウを見上げた。ユウは襲われた方角を見遣っている。

 「ヒトと犬のシルエットが見える」

 「ヒトが犬を連れているの?」

 真里菜はユウが見遣る方角を見ようとしたが、車に遮られて見えない。すると、クローン兎兎が真里菜を抱え上げ、見えるようにした。

 「兎兎。怪我はない? 大丈夫?」

 思い出した真里菜が気遣った。

 「うん。大丈夫だよ」

 返事をしたクローン兎兎の声を耳にしながら、真里菜は見遣った。だが、二つのシルエットがちらりと見えただけで消え去ってしまった。

 「ユウ。あのシルエットで、ヒトと犬だって断定できるん?」

 真里菜がユウの横顔を見た。ユウは首を横に振った。

 「僕を襲ってきたのは、ヒトや犬ではなく鞭だったよ」

 「ヒトが兎兎に向かって、鞭で打ったのかもしれない」

 クローン兎兎の言葉を受けて、真里菜がぞっとするように言った。

 「僕、ヒトに恨まれること、したんかな?」

 「兎兎は何もしていないよ」

 真里菜はきっぱりと否定した。

 「ここを早く出よう」

 促したユウが自動運転車に向おうとしたのを、真里菜は止めた。

 「その前に、護身用として、ユウに渡しておくよ。ユウが着ているパーカーの内ポケットにあるものを出して」

 「内ポケット?」

 首を傾げたユウを見たクローン兎兎は、真里菜を地面に下ろし、自らが着ているジャケットの内ポケットを見せた。理解したユウは、内ポケットから緑色のマリモを取り出した。

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