20XX年 第七話

 ユウは腕時計から鳴り響くアラームで目を覚ました。同じように目を覚ました真里菜は、クローン兎兎の膝の上で四肢を立てて背中を伸ばした。

 「行こう」

 真里菜の呼掛けで、クローン兎兎は座席を戻してドアを開けた。

 「ユウ。ドアを閉めたら、ドアノブの出っ張り部分を触って」

 真里菜の言う通りに、ユウは出っ張り部分を触って車の鍵を閉めた。その音を聞き取った真里菜は、誘導するように先頭を飛び跳ねていった。

 辺りはまだ暗く、街路灯が点いている。

 「あれらが自動運転ボートか?」

 ユウが見渡す先には、何隻ものボートが係留されている。

 「向かって右手の列で、手前の左側にあるボートが、父の自動運転ボートよ」

 真里菜がスピードを上げた。だが、ユウとクローン兎兎は、ゆったりとした足取りのまま向かう。初めての二人は、興味津々なのだ。街路灯と満月の明りの中を、きょろきょろしながら歩く。近付くにつれ、黒い海上に、いろんな形のボートがあることに気付く。

 「ユウ。ポケットに仕舞った物はある?」

 桟橋から自動運転ボートに乗った真里菜が、急かすように大声を上げた。聞き付けたユウは思い出した。

 「しっかり持っている」

 大声で返事をすると、駆け付けて自動運転ボートに乗り込んだ。クローン兎兎も慌てて乗り込む。

 運転席横の席に飛び乗った真里菜は、自動運転車の時と同じようにユウを導く。

 ユウはクローン兎兎と一緒に、言われた通りに出港準備をし、ボートナビゲーションに行き先を入力しようとしたとき、画面右端の表示に目が行った。

 「この島は、これから行こうとしている島だ」

 呆然とするユウの声に、クローン兎兎はボートナビゲーションを覗き込んだ。その後、真里菜にも見えるようにと、腰を落とし抱きかかえて持ち上げた。

 「この島は……」

 島名を目にした真里菜は首を傾げた。

 「母ならば分るけど、なんで父がこの島に何回も足を運んでいるんだろう?」

 画面右端の表示は履歴だった。真里菜の父がこのような設定をしているのだ。

 「真里菜の母ならば、島へ行ってもおかしくないのか?」

 驚きと期待の表情でユウは、真里菜の顔を覗き込んだ。頷いた真里菜だが催促した。

 「その前に出港しよう」

 ユウは真里菜の導きで、運転席に座り、自動運転ボートを出港させた。

 「で、どういうことだ?」

 早く聞きたいとユウは、真里菜の顔を見詰めた。クローン兎兎は持ち上げていた真里菜を、運転席横の席に下ろした。

 「かつてこの島に、母が勤めていたバイテク研究所があったんだ」

 静かに喋り始めた真里菜は、この事実を聞いてユウが推測するだろうことを、考えながら語っていく。

 「バイテク研究所は、二十五年前に閉鎖された時、建物は解体され、汚染がないよう、きちんと処理されたと聞いているよ。それに、聞いた限りでは、違法性のある研究はしていない」

 「ってことは、真里菜は、かつてあったバイテク研究所が原因で、この島が感染発症地点になっているとは思わないということか?」

 ユウは核心をずばりと聞いた。

 「私が母から聞いた話では、バイテク研究所が原因だとは思えない」

 真里菜の含みのある声調から、母から聞いていない事実があれば感染発症地点になる可能性はあると、匂わせているとユウは考えた。そのことで、バイテク量子AIムサシの回答を思い出す。

 ――三世因果だ。バイテク研究所が原因となって感染発症地点となっている可能性がある。真里菜の母に話を聞きたい。だが、先ずは感染発症日時に感染発症地点である島で起こる事態を把握しなければいけない。

 考えるユウの耳に、クローン兎兎の弾む声が聞こえてきた。

 「きらきらして綺麗」

 海を見遣っているクローン兎兎と同じように、ユウも見遣って魅了された。海が昇ってくる朝日によって輝いているのだ。そんな黄金色にきらめく海を、自動運転ボートは掻き分けるようにして進んでいった。

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